第61話 五層の洞穴

 その日、俺たちは二十一匹のビッグシープを狩った。だが、ダンジョンエラーは起きない。地上に戻りダンジョンハウスで着替えてから、ショウたちと別れた。


 次の日、俺は防具屋に行く。ショウから注意を受けたので、装備を買い換えようと思ったのだ。オーガの革鎧か、アーマーボアの革鎧か迷ったが、アーマーボアの革鎧にする。高価だったが、防具をケチる訳にはいかない。


 新しい革鎧を買った後、俺たちは二日に一度ダンジョンに潜ってビッグシープ狩りを続けている。そして、半月が経った頃までに、ダンジョンエラーが三回起きた。


 この半月の間、ビッグシープを狩り続けたせいか、ビッグシープとの遭遇率が下がってきている。どうやらビッグシープ以外の獲物を見付けなければならないようだ。


 ビッグシープを探して四層を周回していると、ユイから話し掛けられた。

「グリム先生、『コーンアロー』『プッシュ』『スイング』は使えるようになりました。次は何を覚えたらいいと思います?」


 ユイの生活魔法は魔法レベル4になっていた。

「次は『ブレード』か『ジャベリン』がいいと思うけど、その二つは魔法レベル5でないと習得できないんだ。もう一つ上がってからだな。その代わりにトリプルプッシュとトリプルアローの早撃ちを練習するといい」


 俺は近くの木に向かって、ほとんど間を置かずにトリプルアローを二度発動させて見せた。一瞬で木の幹に二つの傷が出来たのを見て、ユイが目を丸くする。


「凄い、咄嗟に魔法を発動できるのは、こんな練習をしているからなのね」

 ユイが感心している横で、ススムがビッグシープを探していた。

「ダメだ。居ないぞ」


 ショウが顔をしかめてから溜息を漏らす。

「はあっ、やっぱり他の獲物を探さなきゃならないのかな。どんな魔物がいいと思う?」


 ススムが水月ダンジョンの魔物の中から候補を挙げる。

「一番金になりそうなのが、六層のキングスネークかな。あれは赤魔石<中>を残すから」

 ショウが嫌そうな顔をする。ショウも蛇は嫌いらしい。

「キングスネークが相手だと、僕たちが勝てるかが問題だな」


 俺なら『オートシールド』で防御しながら戦えば勝てる。だが、ショウたちは難しいだろう。ショウが消極的なのを感じたススムは、次の候補を挙げる。

「五層の洞穴に居るリザードソルジャーはどうだ?」


「ん? 五層に洞穴なんかあったのか?」

 俺が首を傾げながら質問すると、ススムが得意そうに胸を張る。

「知らないんだ。三本の巨木があっただろ。その真ん中の巨木の奥に洞穴があるんだ」


 俺は階段を見付けたら、すぐに六層へ行ったから知らなかった。リザードソルジャーは赤魔石<小>なのだ。高値で換金できるので、いいかもしれない。


「でも、リザードソルジャーは割と手強いぞ。それに洞穴は真っ暗だ」

 ショウが指摘する。リザードソルジャーは正統派の剣士である。明るい場所で遭遇した時は意識しなかったが、熱を感知する能力があり、闇の中での戦いが得意なのだという。


「行ってみようか?」

 ユイが提案した。ショウとススムが賛成したので、五層へ行く事にする。


 五層に下りて真ん中の巨木を目指して進んだ。この森林エリアに生えている木には、ドングリのような実がなっているが、人間は食べられないらしい。


 バトルモンキーに遭遇。こいつは小型のゴリラのような魔物である。バトルモンキーが得意な攻撃は、敵の手足を掴んで振り回すというものだ。捕まる前に仕留めれば、何の問題もない。


 ショウが魔力弾で撃ち抜いて仕留めた。オークやダークタイガーとも遭遇したが、余裕を持って仕留める事ができた。やはりチームとして活動している場合は、楽で良い。


「見えてきたぞ。洞穴だ」

 ススムが声を上げた。丘のような場所に洞穴が見える。中を覗くと真っ暗で何も見えない。ユイが『ライト』を発動する。


 ユイの頭上に光の玉が浮かんだ。俺は久しぶりに暗視ゴーグルを装着した。この暗視ゴーグルは、光量を自動で調節する機能が有るので、『ライト』を使っても問題ない。


 なぜ暗視ゴーグルを使うかというと、『ライト』には欠陥があるからだ。光の玉は衝撃を受けると消えてしまうのだ。俺が敵だったら、まず光の玉に衝撃を与えて消してから、敵を攻撃する。


「へえー、それは魔道具の暗視ゴーグルなのか?」

 ショウが羨ましそうに言う。

「ああ、光の玉は衝撃に弱いからな。さあ、行こう」


 ショウとススムは小型の懐中電灯を取り出して点灯した。二人がヘッドランプではなく懐中電灯を選んだのは、ヘッドランプは頭を少し動かしただけで光の向きが変わるからだ。それでは敵の姿を見失うかもしれない。それで懐中電灯を選んだのである。


 俺は洞穴に入ると、広さをチェックした。洞穴の高さは二メートルほど幅は三メートルほどだろう。

「この洞穴のどこかで、宝箱が見付かるという話も有るんだ」

 ススムは割と情報通だ。ダンジョンの事については、色々と調べたらしい。


「でも、誰かが中身を奪った後なんだろ」

「ダンジョンの宝箱は、中身を持ち出しても一定期間が過ぎると、補充されるんだよ」

 ショウが教えてくれた。なんて、素敵なシステムなんだろう。


 暗視ゴーグルに敵の影が映った。

「敵だ。気を付けろ」

 俺は戦鉈を構える。敵はリザードソルジャーである。ススムが一番に突撃する。片手に懐中電灯を持ったままの戦いは、不利であるようだ。


 ススムとリザードソルジャーの剣が激しい攻防を繰り広げる。

「離れて!」

 俺が叫ぶとススムが跳び退いた。その瞬間、クワッドプッシュがリザードソルジャーを弾き飛ばす。


 それを見たショウが魔力弾を放った。その魔力弾がリザードソルジャーの胸を貫く。それで勝負が決まった。


 リザードソルジャーの死骸が消え、赤魔石<小>が残された。ユイが拾い上げる。

「ススム、戦い難いようだな?」

 俺が尋ねるとススムが苦い顔をする。


「魔装魔法の中に、暗闇でも見えるようになる魔法はないの?」

 ユイが尋ねた。

「有るけど、まだ習得していないんだ」

 俺は暗視ゴーグルを外して、ススムに渡した。


「仕方ないから、これを使ってくれ」

「貸してくれるのか。ありがとう」

 盾役であるススムの実力が発揮できないと、戦力が半減する。仕方ないだろう。


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