第60話 賢者システムの魔法

 俺と天音たちは訓練場へ向かった。

「最近は、どんな練習をしているんだ?」

「クイントプッシュ・クイントアロー・クイントブレードの早撃ちです」


 五重起動の練習をしているらしい。そろそろ『センシングゾーン』と『オートシールド』を覚えて、強敵に備える時期だろう。


「そうか。今はチームに参加して、ビッグシープ狩りをしているから無理だけど、一ヶ月経ったら、一緒にダンジョンに行こう」


 アリサはチームという言葉に反応した。

「チームに入ったんですか?」

「一ヶ月だけの助っ人だけどな。俺もチームの戦い方を勉強しようと思って参加したんだ」


「へえー、グリム先生も勉強しているんだ」

 由香里が意外だという顔をする。

「当たり前だ。努力しないで強くなる事などできない。冒険者は強くないと稼げないからな」


「それで稼げているんですか?」

「まあまあかな。今日もビッグシープ狩りをして、十二万ほど稼いだぞ」

「へえー、ビッグシープって、お金になるんですね」

「ダンジョンエラーを狙っているんだ」


 由香里たちが感心したように頷いた。

「ダンジョンエラーなら、角豚を狙えばいいのに」

「角豚がダンジョンエラーになるのは、千回に一回だと聞いた事が有る。それに比べて、ビッグシープがダンジョンエラーを起こすのは、三〇回から四〇回に一回らしいぞ」


「そうなんですか。なら、あたしたち凄く幸運だったんですね」

「由香里、喋ってばかりいないで、練習を始めるよ」

 アリサが注意した。


 俺は皆の練習を見ていたが、確実に上達していた。練習を続ける教え子たちを残し、俺は資料室へ向かう。調べたいと思っていたのは、賢者システムで創られた魔法とダンジョンに出現する巻物の関係である。


 賢者システムで創られた魔法は、巻物や魔導書としてダンジョンで発見されるのかというものだ。資料を調べ、それに関する研究論文を一つだけ見付けた。


 それによると、賢者システムで創られた魔法がダンジョンで巻物として出てくる事が有るようだ。但し、それは有名になった魔法に限るらしい。


 賢者システムで創られた魔法でも使用者が何万人も居るようになると、ダンジョンで巻物として出て来るという。そうなるとダンジョン産の魔法は早めに魔法庁へ登録する必要が有るが、賢者システムで創った魔法は遅れても構わないという事になる。


 俺が急いで魔法庁に登録しなければならないのは、賢者システムで創った魔法ではない『オートシールド』だけのようだ。


「でも、『オートシールド』は五人で手に入れた魔法だからな。練習が終わったら相談しよう」

 訓練場へ行くとタイチは魔力切れでへたばり、天音たちはセブンスアローの練習をしていた。


 天音たちに相談すると、俺に任せるというので一緒に魔法庁へ行って登録する事にした。

「グリム先生、模擬戦とかで使える生活魔法とかないのですか?」

 アリサが尋ねた。


「模擬戦? 『プッシュ』や『スイング』でいいんじゃないか」

「それだと、審判が判定し難いんですよ。目に見えないので、魔装魔法使いが相手だと平気な顔で耐えられますから」


 俺はちょっと考えて、アイデアが浮かんだ。

「ちょっと試してみよう」

 俺は大岩の的に向かって、ダブルプッシュを放った。大岩に命中したD粒子プレートは砕け散る。それを確かめてから、ダブルプッシュを二発同時に放ってみた。


 正確に言うとクワッドプッシュなのだが、三枚目のD粒子プレートを重ねる時、少し隙間を開けたのだ。その結果、大岩に命中した時、大きな『パン!』という音が響いた。


 手を打ち合わせた時に『パン!』という音が出るように、D粒子プレート同士を打ち合わせて音を響かせたのだ。


「グリム先生、それは?」

 アリサたちが首を傾げている。俺が説明すると皆が感心したように頷いた。

「なるほど、音で命中した事を知らせるんですね」


 ちなみに、攻撃魔法はどうなのかというと、『バレット』の魔力弾などは微かに光っているので、注意深く見ていれば命中したかどうかが分かる。


 その後、少し雑談してからアリサたちと別れ帰宅した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 冒険者ギルドでアリサたちと会った翌々日、俺はまたショウたちと水月ダンジョンへ潜っていた。ショウたちは一日おきにビッグシープ狩りをしているらしい。


 四層でのビッグシープ狩りは順調だ。『ムービング』を組み込んだ戦術は、ビッグシープ狩りを効率化した。一日に五匹から八匹が限度だったのに、今日は十二匹目のビッグシープを倒している。


「凄いな。このまま続けると一日で二十匹くらい倒せるんじゃないか?」

 ススムが嬉しそうに笑う。それを聞いたユイが飛び上がって喜ぶ。

「凄い、それだと収入が三倍くらいになるという事だよね」


 ショウがゆっくりと首を傾げる。

「そんな勢いでビッグシープを狩り続けたら、ビッグシープのリポップが追い付かなくなって、狩れる数が減ると思うけど」


 ショウはしっかりした考えを持つリーダーのようだ。それを聞いたユイがガッカリする。

「そうなの。どうすればいいと思う?」

 ユイはショウではなく、俺に尋ねた。


「そうだな。ビッグシープ以外の獲物を考えればいいんじゃないか」

 ショウも賛成するように頷いた。


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