第54話 サンダーボウル

 俺は『ヒートボウル』の魔法を考え直すために、地上に戻った。ダンジョンハウスでコーヒーを買って、飲みながら賢者システムを立ち上げる。


 コーヒーを一口飲む。熱だけだと威力は限定的だな。『コーンアロー』に<放熱>の特性を付けたら、刺さった後に熱で焼くから追加ダメージとなる。それなら威力が上がるけど、何か微妙な気がしてきた。


「もっと高熱なら、威力が上がるのか?」

 俺は放熱ボウルの温度を倍にしてみた。すると、習得できるのが魔法レベル6になる。魔力もかなり必要だ。


 倍の高熱にした放熱ボウルを『コーンアロー』のような放熱コーンにして射程を十メートルにしてみた。魔法レベル10でないと習得できない魔法となった。そして、致命的なのは発動が遅いという事だ。『ヒートボウル』を一回発動する間に、『コーンアロー』なら三回発動できるというほどだった。


「ダメだ。使えない。こういう時は発想を変えるしかないな」

 放熱ボウルは命中した箇所にしかダメージを与えられない。<放熱>ではなく、電気のようなものを放出する<放電>を付加できないものかと考える。


 賢者システムには付加する特性を追加する機能もある。俺はその機能を発動した。その瞬間、賢者システムが俺の脳を乗っ取った。賢者システムが俺の脳細胞を使って、複雑な計算を始めたのだ。


「……」

 俺は酷い頭痛に襲われ、テーブルに突っ伏した。無言で痛みに耐えながら、痛みが治まるのを待つ。その状態で五分ほど苦しんでいただろう。


「……お、終わった。この機能はヤバイ」

 賢者システムを確認すると、付加できる特性に<放電>が追加されていた。


 賢者システムを終わらせ、ダンジョンハウスの椅子にぐったりとする。

「なんか、甘いものを食べたくなったな」

 脳を使い過ぎたからだろうか? 俺は売店でソフトクリームを買って食べた。


 一息ついた俺は、もう一度賢者システムを立ち上げる。

 そして、D粒子ボウルに<放電>の特性を付加して飛ばす魔法を作った。射程を十メートルにする。これは魔法レベル4で習得できる魔法となる。


 <放電>の特性を付加したD粒子ボウルは放電ボウル、魔法は『サンダーボウル』と名付ける。似たような名前のスパイ映画があるらしいが、こちらは『ボウル』、映画は『ボール』である。


 俺はもう一度ダンジョンに潜った。一層でゴブリンを探し、『サンダーボウル』を発動した。放電ボウルが命中したゴブリンは、ピクンと痙攣けいれんしてバタリと倒れる。


「おいおい、多重起動していないんだぞ」

 ゴブリンは地面に倒れたまま藻掻き苦しんでいる。俺はトリプルサンダーボウルを倒れているゴブリンに撃ち込んだ。それを受けたゴブリンは息絶えて消えた。


「使えるな。これを『コーンアロー』と融合して、新しい魔法としよう」

 ダンジョンから地上に戻るとダンジョンハウスで着替えて、アパートに戻った。


 俺は『サンダーボウル』の放電ボウルを放電コーンアローに変えて『サンダーアロー』という生活魔法を作った。射程十メートルは同じで、魔法レベル7で習得できる魔法となる。


 俺は『サンダーアロー』を正式に生活魔法として賢者システムに登録した。『ヒートボウル』は削除し、『サンダーボウル』をどうするか考えた。


「魔法レベル4で習得できるし、単独で使うとスタンガンの代わりになりそうなんだよな。でも、『サンダーアロー』が有るから、俺自身は使わないな」


 ダンジョン内で使う事を考えると不要だが、ダンジョンの外で喧嘩するような事が有れば便利そうだ。取り敢えず登録しておく事にした。


 E級昇級試験の日、俺は冒険者ギルドに行って、受付に誰が試験官になるのか確かめた。

「試験官は、F級昇級試験で試験官となったD級冒険者の尾崎悟おざきさとるさんです。あっ、来ましたよ」


 淡々と仕事をする冒険者だ。

「よろしくお願いします」

「へえー、この前F級になったばかりだというのに、早いね。生活魔法使いなのに有望株なんだ」


 尾崎は『黒の戦旗』というパーティーに所属しており、水月ダンジョンの二十五層を攻略中らしい。

 俺たちは水月ダンジョンへ向かった。着替えてから、ダンジョンに入る。一層から十層までは最短距離を進んだ。


「ソロなのに、危なげなく進むね。それに使っている魔法が強力だ」

 俺は『プッシュ』『コーンアロー』『ジャベリン』『ブレード』の四つを駆使して、ここまで進んできた。


 この十層では、アーマーボアとビッグシープ、ブラックハイエナと遭遇する。アーマーボアとビッグシープは問題ないが、ブラックハイエナは手強い魔物だった。


 アーマーボアはスケイルアーマーのような皮を纏った大猪で絶大な防御力を誇る魔物だ。クイントジャベリンではダメージを与えられず、倒すのにはセブンスジャベリンかセブンスブレードが必要である。


 但し、クイントプッシュは有効だった。突撃してくるアーマーボアの正面から、クイントプッシュをぶつけると、鼻先にアーマーがない大猪は脳震盪を起こして目を回す。アーマーボアが目を回したら、セブンスブレードで首を刎ねれば良いのだ。


 問題はブラックハイエナだった。こいつは群れで襲ってくる。七、八匹の群れで獲物を取り囲み、一斉に襲い掛かるのである。こういう魔物は、ソロだとキツイ。


 十層の奥でブラックハイエナの群れと遭遇した時、

「こいつは厄介だな。僕も戦おうか?」

 今まで手を出さなかった尾崎が申し出た。


 俺は迫ってくるブラックハイエナの群れを見て、首を振った。

「大丈夫、一人で殺れそうです。尾崎さんはここで待っていてください」

 『オートシールド』と『センシングゾーン』を発動して、ブラックハイエナの群れに向かっていく。


 尾崎が心配そうな顔で声を掛けた。

「本当に大丈夫なのか?」

「問題ないです」


 俺は目ではなく、D粒子の動きでブラックハイエナの動きを把握する。

 群れに囲まれた俺は、戦鉈を構えブラックハイエナを睨む。ブラックハイエナは大型犬ほどの大きさで、普通の野獣より力が強い。


 その中の一匹が飛び掛かってきた。俺はクイントブレードで斬り裂いた。その間に、背後から別の一匹が襲い掛かる。D粒子シールドが反応し鋭い牙による攻撃を撥ね返す。


 振り返りざまにクイントブレードを薙ぎ払い、ブラックハイエナの首を刎ねた。そして、また別のブラックハイエナが襲い掛かったので、クイントアローで撃ち抜く。


 次々に襲い掛かってくるブラックハイエナの攻撃をD粒子シールドで防ぎながら、『ブレード』と『コーンアロー』を駆使して仕留める。


 全滅させた後、尾崎が近寄ってきた。

「信じられないよ。これが生活魔法使いの戦い方だと言うのなら、生活魔法が役に立たないと言われていたのは、何だったんだ?」


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