第55話 E級冒険者

 試験官は俺が何をしたのか、半分くらいしか分からなかっただろう。『オートシールド』と『センシングゾーン』は目に見えないので、俺がどうやって群れの動きを把握し、攻撃を防いでいたか分からなかったはずだ。


 ブラックハイエナの群れを倒し、十層を攻略した俺は十一層に下りた。そのエリアは、廃墟の街だった。ここでは御馴染みのスケルトンソルジャーとファントム、それにスケルトンナイトに遭遇する。


 このスケルトンナイトは、スケイルアーマーを身に纏い槍と円盾を持っている。この魔物と剣や槍で戦うと苦労する事になる。高い槍術や盾の技術を持っているからだ。


 だが、このスケルトンナイトの頭蓋骨を狙って、横からクイントプッシュをぶつけると脆かった。頭蓋骨だけが弾き飛ばされ、首から下だけが走ってくる。


 だが、頭蓋骨がないと動きがおかしくなるようで、途中でスケルトンナイトがよろよろと頭蓋骨を探し始める。その頭蓋骨は歯をカチカチと鳴らして、首から下を呼んでいる。


 尾崎が驚いたような顔で、この光景を見ていた。

「頭蓋骨だけ飛ばされたスケルトンナイトは、こういう風になるんだ」

 D級冒険者も初めて見るスケルトンナイトの姿だったらしい。


 俺は歯をカチカチ鳴らしている頭蓋骨のところに行って、クイントブレードで断ち割った。

「さて、行きましょう」


 廃墟の街をうろつくアンデッドたちを駆逐しながら階段まで行き十二層に下りた。やっと目的の階層まで到達したのだ。後はオークナイトを倒せば、試験は合格である。


 そこは起伏の激しい地形に木々が生い茂る場所だった。丘の上に城があり、丘を城壁が囲んでいる。城門にはオークナイトが居るだろうが、絶対に一匹じゃないだろう。


 城の外でうろうろしているオークナイトを探し始めた。しばらく歩いていると、藪の中から一匹のオークナイトが現れた。見回りをしていたオークナイトらしい。


「さて、これからが本番だぞ。頑張ってくれ」

「分かっています。任せてください」

 俺は戦鉈を持って、オークナイトに向かって足を踏み出す。オークナイトとの距離は十メートルほど、最初にクイントジャベリンを放った。


 その攻撃がオークナイトの胸に命中、纏っている金属鎧をへこませ弾き飛ばす。地面を転がったオークナイトが起き上がり、ロングソードを振り上げて駆け寄ってきた。


 セブンスプッシュを放つ。カウンター攻撃となったセブンスプッシュは強烈だ。トラックに撥ね飛ばされたかのように金属鎧を押し潰されたオークナイトが宙を飛ぶ。


 俺は駆け寄ってオークナイトの首にクイントブレードを叩き込んだ。それがトドメとなってオークナイトは消える。


「ダンジョンボスだった時は、ボスドロップがあったけど、今日は魔石だけか」

 俺は魔石を拾い上げ、尾崎に魔石を見せた。


「お見事、合格だ」

 尾崎が合格を宣言する。俺はホッとした。これでE級冒険者だ。E級冒険者になれば、チームを組んでくれる者も居るだろう。


 俺は自分に足りないのは経験だと考えている。だが、ソロでダンジョンを探索するのは、危険だとも感じ始めていた。ベテラン冒険者のチームに加えてもらい、経験を積みたいと思うようになったのだ。


「戻りましょう」

「このまま戻るのか。それとも、九層で一泊するか?」


 九層の中ボスが倒された事で、九層の中ボス部屋がセーフティゾーンとなった。中ボス部屋には魔物が入り込まないので、空き部屋となった中ボス部屋は、冒険者たちにとって絶好の宿泊場所なのだ。

 九層の中ボス部屋は半年間リポップしないと分かっているので、特に安全なのである。


 俺は一気に地上へ戻る事にした。今から戻れば、本日中には地上へ戻れるだろう。という事で地上に戻った。ダンジョンを脱出したのは、夜の十時を過ぎていた。


「冒険者ギルドへの報告は、明日にしよう」

 尾崎はそう言って帰った。俺も着替えてアパートに戻ると寝てしまった。それほど疲れていたのだ。


 翌朝、空腹で目を覚ます。

「はああー、腹が減った」

 カップ麺があったので、それを食べた。


「E級冒険者か……夢のようだな」

 プロ冒険者として生活するためには、E級にならないとダメだと言われている。そのE級になれたのだ。嬉しくない訳がなかった。


 俺は出掛ける支度をして、冒険者ギルドへ向かった。ベルトにはマジックポーチが有るだけで何も持たずに出掛ける。とは言え、マジックポーチの収納空間には装備と武器が入っており、実際のポーチの中には魔石と財布が入っている。


 バスで冒険者ギルドへ行って、受付に並ぶ。順番が来て、受付の加藤に昇級試験について確認した。

「尾崎さんから聞きましたよ。E級合格だそうですね。おめでとうございます」

「ありがとう」


 俺は冒険者カードを出して、加藤に渡す。手早く処理され、新しい冒険者カードが戻って来た。E級になっている。


「榊さん、入れるチームを探していましたよね?」

「ああ、生活魔法使いでもいいというチームが見付かったの?」

「チームの一人が怪我して、一ヶ月ほど入れるすけを探しているチームが有るんですが、どうしますか?」


 一ヶ月だけか、ちょっと短いな。でも、チームとしての戦い方は勉強できる。

「俺で良ければ、入ります」

「分かりました。先方に確認を取って、また連絡します。それから、魔法の登録は忘れないでください」


 俺は頷いてから、昨日回収した魔石を換金した。冒険者ギルドを出て、魔法庁の支部へ向かう。渋紙しぶかみ支部に到着し、『ジャベリン』『ブレード』の二つを登録する。


 魔法を登録する時は、魔法の名称・魔法効果の説明・魔法陣が揃っている事が必要である。名称と効果は魔法を見て話を聞けば分かるが、魔法陣は巻物などを分析して調べ出すか、賢者システムが使える賢者でないと分からない。


 担当者は水沢という三十代の男性で、前回『コーンアロー』を登録した時も、担当した人物だ。

「凄いですね。魔法を三つも発見されるなんて……」

「きっと、これが生活魔法じゃなけりゃ、もっと凄かったのに、とか思っているんでしょ」


 水沢の顔が強張った。図星だったようだ。

「そ、そんな事は……ただ前にも言ったように、生活魔法は人気がないんですよ。それでも若干入手する人が多いのが、手に持ったものを綺麗にする『クリーン』と修復の『リペア』、そして、純化の『ピュア』ですかね」


 その三つの魔法は、習得すれば便利だというものだ。それならば、『ライト』や『イグニッション』も便利そうだが、冒険者は魔力を必要としない小型懐中電灯やライターを選択するようだ。


 もっと生活に密着した魔法なら人気が出るのだろうか? ちょっと考えてみよう。


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