第31話 師弟再会

 模擬戦を終えたアリサが天音たちが居るところへ戻った。

「頑張ったじゃない。見応えのある戦いだったよ」

 天音の言葉にアリサが嬉しそうに笑う。


「グリム先生に感謝しなきゃね」

 由香里の言葉にアリサが頷いた。そこに千佳が口を挟んだ。

「冒険者ギルドに行った時、グリム先生と会った。最近は草原ダンジョンで狩りをしていると言っていたよ」


「へえー、草原ダンジョンか。あそこにはオークとリザードマンが居るから、それを狙っているのかな」

 天音が推測して言う。それを聞いたアリサが提案した。

「グリム先生が行っているのなら、あたしたちも行ってみようか?」


 巨木ダンジョンでは魔法レベルが上がり難くなっている。天音たちは話し合い、草原ダンジョンへ潜る事にした。


 次の日曜日、天音たちは草原ダンジョンに行った。ダンジョンハウスで着替えてから、ダンジョン前に集まる。


「グリム先生は居なかったようね」

 アリサが残念そうに言った。

「日曜日は、学生が多くなるから、休みにしているかも」

「そうね。会いたかったのに、残念」


 ダンジョン前で話していると、他の冒険者チームが声を掛けた。

「君たち、このダンジョンに潜るのか?」

 大学生らしい冒険者がアリサたちに近付いてきた。千佳が不快そうに顔を歪める。


 アリサが代表して、

「そうですが、何か?」

「ここのダンジョンは、オークやリザードマンが出るんだ。危ないから一緒に行ってあげようか?」


 千佳が鋭い視線で大学生たちを睨む。

「結構です。私たちは、そのオークとリザードマンを狙っているんです」

 大学生たちが肩を竦めた。その中の一人が千佳を睨み返した。


「僕たちが親切心で言っているのに、生意気な……」

 千佳たちと大学生冒険者チームの間で、不穏な空気が流れ始めた時、男性の声が割り込んだ。


「あれっ、どうして草原ダンジョンに居るんだ?」

 千佳たちは声の方へ視線を向けた。

「グリム先生……」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その日、俺は朝から宗像鍛冶工房へ行って、完成した武器を受け取った。

「それでいいか?」

 鍛冶屋の宗像が確認した。


 三日月型に近い刃の部分は三十センチほど、刀身は鉈のように分厚く、三日月の内側と外側に刃が付いている。柄の部分は七十センチほどで赤樫製のようだ。全体的な形が鋸鎌とかいう農具に似ているが、その刃の鋭さは農具でない事を感じさせる。


「ナックルガードを付けてくれたんですね」

「ああ、以前にリッパーキャットに引っ掻かれたと言っていたから、付けておいた。邪魔なら外すぞ」

「いえ、これでいいです。ありがとうございます」


 宗像はこれを『鎌鉈かまなた』と呼んでいる。だが、鎌鉈と呼ぶには微妙に違うので『戦鉈』と呼ぶ事に決めた。鞘も付いており、ベルトに吊るして持ち運べるようになっている。


 新しい武器を手に入れた俺は、使い心地を試してみたくなって草原ダンジョンへ向かう。そこで天音たちの姿に気付いて声を掛けた。

「あれっ、どうして草原ダンジョンに居るんだ?」


「グリム先生……」

 天音たちが駆け寄って、俺を取り囲んだ。どういう状況だか分からないが、大学生らしい冒険者が俺を睨んでいる。


「冒険者ランクがF級になったそうですね。おめでとうございます」

 アリサが声を高くして言った。大学生たちにも聞こえるようにわざと言ったのだ。


 大学生たちは面白くなさそうな顔をして、ダンジョンに入っていった。初級ダンジョンに来る冒険者は、ほとんどG級である。上位ランクの者と揉め事を起こしたくなかったのだろう。


「ありがとう。ハズレの課題に当たったんだけど、何とかクリアできたよ。あっ、それから角豚の肉は美味しかったよ」

 俺がそう言うと、ハズレの課題とは何かと尋ねられたので、詳しく話した。


 一緒に草原ダンジョンへ行くと言うので、ダンジョンハウスで着替えて外に出た。

「うわっ、グリム先生の冒険者スタイルが変わってる」

 由香里が声を上げた。由香里が言う冒険者スタイルというのは、装備の事である。


 俺はダンジョンボスから手に入れた聖銀製アームガードを装備し聖銀製短剣を後腰に差している。それに新しい武器を見て声を上げたのだろう。


 天音が俺の足の先から頭まで値踏みするように見た。

「グリム先生、中級ダンジョンで一山当てたんですか?」

「中級ダンジョンじゃないけど、まあ、そうだな。このアームガードと短剣はボスドロップだ」


 天音たちは一斉に羨ましそうな顔をする。そして、千佳がアームガードに注目した。

「そのアームガードは、自分で塗装されたのですか?」


 そのままだと聖銀製だとバレるので、黒い塗料で塗装したのだ。少しムラが有ったので、気付かれたようだ。

「ああ、ちょっと特別なアームガードだったんで、塗装して誤魔化している」


 由香里が興味を持ったようで、身を乗り出すようにして質問する。

「特別というと、魔導装備ですか?」


 魔導装備というのは、特別な魔法的機能を組み込まれた装備である。

「そこまで特別じゃない。これ以上は秘密だ」

 由香里は不満そうにしたが、それ以上は追及しなかった。


「先生、腰の武器は何です?」

「これは鎌と鉈の中間にあるような武器だ」

 俺は鞘を抜いて見せた。千佳がジッと刀身を見る。


「これは黒鉄製……凶悪そうな武器ですね」

「ああ、相手が魔物だからな。少しでも早く仕留められるように考えたんだ」

 天音とアリサが頷いている。特に天音が羨ましそうに見ていた。


 俺たちはダンジョンに入った。最初にゴブリンに遭遇する。

「新しい武器を試したいから、任せてくれ」

 天音たちは一歩下がり、どんな戦い方をするか見物を始めた。


 俺は生活魔法を使わずに戦おうと考え身構える。ゴブリンがヒョコヒョコと近寄って来て棍棒を振り上げる。その瞬間、戦鉈でゴブリンの首を薙ぎ払う。その切っ先が首を刎ね飛ばした。


「予想以上に切れ味が凄い。これなら、中級ダンジョンでも通用しそうだ」


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【あとがき】

執筆用の参考資料を公開します。みてみんにアップロードした主人公の武器です。

イメージ図ですが、よろしかったら参考にしてください。


https://15132.mitemin.net/i530384/

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