第28話 オークナイト

 賢者システムを使って、新しい魔法のシミュレーションをしてみる。色々試して最適化するのに二日が必要だった。出来上がった魔法は、一メートルの長さのD粒子コーンを放つ魔法となった。射程はちょっと短くなり十九メートルだ。


 一メートルほど短くなったのは、魔法レベル5で習得できるようにしたからだ。射程を二十メートルにすると、魔法レベル6でないと習得できなくなる。


 俺が魔法レベル5にこだわったのは、天音たちの魔法レベルを考えての事だった。彼女たちの魔法レベルは『4』で、もう少し巨木ダンジョンで修業すれば『5』になるだろう。


 彼女たちが生活魔法で活躍するためには、『コーンアロー』だけでなく『ブレード』と新しい魔法が必要になる。俺としては臨時教師の最後の仕事として、『ブレード』と新しい魔法を彼女たちに伝えようと考えたのだ。


 ちなみに、新しい魔法は『ジャベリン』と名付けた。

 実際に試してみようと思ったが、もう学院の訓練場を使えないのだと思い出す。

「仕方ない。草原ダンジョンへ行こう」


 草原ダンジョンに入って、右手の方角に向かう。途中で別の冒険者たちに会ったが、アタックボアとの戦いに夢中で、俺には気付かなかったようだ。


 草原ダンジョンで珍しく木が生えている場所を見付け、俺は『ジャベリン』を試してみた。通常の『ジャベリン』を十五メートルほどの距離にある木に向かって放つ。


 初速は『コーンアロー』と同じだが、十五メートルの場所では『コーンアロー』の最終速度を大幅に上回っていた。だが、木の幹に命中すると砕け散った。


「まあ、そうだろうな。薄いD粒子コーンだもんな」

 続けてダブルジャベリンを放つ。かなりの速度で飛翔し、木の幹に命中して同じく砕け散った。よく見ると命中した箇所に穴が開いている。


 トリプルジャベリンを放つと、かなりの深さの穴が開いた。次に五重起動の『ジャベリン』を発動する。クイントジャベリンが木の幹に命中すると幹を貫通し大きな穴を開ける。

 六重起動しようとして、できなかった。慣れない魔法だと五重起動までが限界のようだ。


「うーん、射程を伸ばす事を目標に開発したから、威力は今ひとつ伸びなかったな。『コーンアロー』の二倍くらいか」


 『ジャベリン』の試しが終わったので、どうしようか考えた。ここまで来たんだ、隠し通路へ行ってオークとリザードマンを狩って帰ろう。


 あの岩まで来て周りを見回す。誰も居ないのを確認して中に入る。入った瞬間、オークと遭遇した。

「うわーっ!」

 反射的にトリプルプッシュを放っていた。


 オークがひっくり返る。俺は驚きでバクバクしている心臓を落ち着けてから、トリプルアローをオークの首に放ち仕留めた。


「びっくりした。こんな事も有るんだな。これからは注意しないと」

 反省してから奥へと進んだ。途中で遭遇したオークとリザードマンは、クワッドブレードで斬り捨てた。


 四重起動で発動する『ブレード』は、一瞬の溜めを必要とする。そんなクワッドブレードを、なぜ多用しているかというと、今の課題が四重起動で溜めを無くす事だからだ。


 ボス部屋の前まで到達。ここへ来たのは、まだオークナイトが居るか確かめるためだ。

 中を覗くとオークナイトが立っていた。ふと部屋の外からオークナイトを攻撃するとどうなるんだろう、という疑問が湧いた。


 その考えに惹き付けられ、俺はオークナイトに向かって手を上げた。掌を向けてクイントジャベリンを放つ。クイントジャベリンはボス部屋に入った瞬間に消え去り、俺は何かの力でボス部屋に放り込まれた。


「嘘だろ」

 ダンジョンは不正を許さないらしい。俺とオークナイトの目が合った。オークナイトが腰のロングソードを抜いて近付いてくる。


 ボス部屋での戦いが始まると逃げ出せない。俺は覚悟を決めてクイントジャベリンをもう一度放った。今度はオークナイトまで飛翔し、丈夫そうな金属鎧に命中して大きな金属音を響かせる。


 オークナイトの鎧がへこんでいる。その顔も苦痛で歪む。クイントジャベリンはダメージを与えたようだ。オークナイトとの距離は十メートル、さらにクイントジャベリンを放つ。


 D粒子で形成されたものは無色透明であるが、多重起動するとなぜか存在感を放つようになる。但し、三重起動までは、その存在感も強くないので魔物は気付かない。


 四重起動以上になると勘が鋭い魔物は気付くようになるらしい。今放ったクイントジャベリンをオークナイトは気付いた。そして、気付いただけでなく避けた。


 信じられねえ。こいつは強いだけじゃなくて勘がいいのか。

 オークナイトが五メートルまで近付いた瞬間、七重起動の『コーンアロー』であるセブンスアローを発動した。


 セブンスアローが金属鎧の胸に命中し、オークナイトを弾き飛ばす。俺は狩猟刀を構え倒れているオークナイトの傍まで駆け寄り、四重起動の『ブレード』を発動する。


 クワッドブレードが生まれ、それが高速で振り下ろされた。オークナイトの首に向かって振り下ろされたD粒子の刃は、五センチほど食い込んだところでロングソードに弾かれた。


 オークナイトの首から血が流れ出す。それでも立ち上がったオークナイトは、凄い形相で襲い掛かってきた。ロングソードの斬撃を避ける。


 俺はボス部屋を逃げ回りながら、偶にセブンスアローとセブンスプッシュで反撃した。何度目かの反撃で、オークナイトが倒れ、必死で起き上がろうとする。


 だが、首から流れ出た血がオークナイトの力を奪っていた。立ち上がろうとしてよろけたのを見た俺は、飛び込んでクワッドブレードを横薙ぎに振り抜き首を刎ねた。


 オークナイトを倒した。E級冒険者でも手子摺る魔物を倒せたのは、オークナイトが長い間、戦いをしておらず、戦いの勘が鈍っていたからかもしれない。


 俺の内部でドクンドクンと音がした。魔法レベルが上がったのだ。オークナイトの死体が消えて、緑魔石<中>と聖銀製のアームガード二つ、それに聖銀製の短剣が残った。


 聖銀というのは、ダンジョンで発見された少し赤みの有る銀色の金属で、鋼鉄よりも遥かに強靭で魔力も通しやすいという特性を持つものだ。


 聖銀製短剣は刃渡り三十センチほどのもので、売れば三千万円くらいになると聞いた事がある。たぶんアームガードも同じような相場だろう。


 ボスドロップはダンジョンボスが倒されなかった期間が長いほど豪華になるという説がある。このように貴重なボスドロップが残ったのは、長期間ダンジョンボスが倒されていなかった証拠だろう。


 これを売るか。二つで六千万円になる。でもな……こんな凄い装備は二度と手に入らないかもしれない。むむ……悩ましい問題だ。

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