第27話 F級冒険者

 草原ダンジョンでボス部屋への隠し通路を発見した俺は、二日に一回の割合で草原ダンジョンへ潜り始めた。但し、オークとリザードマンを倒しながらボス部屋の前まで行って、引き返すという狩りを繰り返す。


 その度に魔石を冒険者ギルドで換金したので、冒険者のF級に挑戦する資格を得た。

 俺は冒険者ギルドのカウンターで昇級試験の内容について尋ねた。相手は加藤小百合さゆりという二年目の女性職員である。


「今月の昇級試験は、丸太倒しです」

 冒険者ギルドの裏には訓練場がある。そこに丸太が立ててあり、その丸太を引き抜いて倒すか、真っ二つに折るか切れば良いらしい。


「うわははは―――、今月はハズレだぜ」

 俺の後ろで順番を待っていたベテラン冒険者が笑い声を上げた。昇級試験の課題は一ヶ月単位で変わる。なので、合格しやすい月と難しい月があるらしい。


「お前、運が悪いぜ。今月は諦めて来月頑張るんだな」

 俺は複雑な表情を浮かべた。

「そんなに難しい課題なんですか?」


「そんな事はないですよ。この課題で三人が合格したって聞きました」

「へえー、今月に入って三人も合格しているんだ」

 ベテラン冒険者がニヤッと笑う。

「違うぞ。この冒険者ギルドが建てられてから、三人という事だ」


 この冒険者ギルドは建てられて十年くらい経つはずだ。それで三人は少なすぎる。

「冒険者ギルドは、合格させる気がないんじゃないの?」

「支部長が、冒険者なら一度くらい挫折を味わうのもいい、と言っていました」


 その支部長は今月合格させる気がないのかよ。本当に運がないぜ。

 試験の受付が終わり、試験官役として協力しているD級の冒険者と訓練場へ行く。なぜか笑っていたベテラン冒険者も付いて来る。


「何で付いて来るんです?」

「最近、笑う機会が減ったからな。楽しんでから飯を食いに行こうと思ったんだ」

「性格が悪いと言われません?」


 俺がそう言うと、ベテラン冒険者がニヤッと笑う。

「そんなに邪険にするなよ」

「用事は済んだんですか?」

「報告書を一枚出すだけだったからな。それよりE級冒険者の小野鉄心だ」


「G級冒険者の榊緑夢です。グリムと呼ばれています」

 自己紹介が済むと、鉄心がどんな魔法を得意とするのか尋ねた。

「生活魔法ですよ」


 鉄心が大声で笑い出した。

「あははは……マジかよ。課題がどうのという前にダメだったんじゃねえか」

 俺はこんな反応に慣れているので、無視して訓練場へ向かった。


 訓練場の端に一本の丸太が立っていた。直径三十センチほどで高さが三メートル以上ある。少し傷がついているので、俺の前に昇級試験を受けた者が居たようだ。


「この丸太を一分以内に倒せたら合格だ」

 試験官のD級冒険者は淡々と仕事をするタイプらしい。

「どうするんだ? まさか穴を掘って倒そうなんて考えているんじゃないだろうな。こいつはかなり深くまで埋めてあるんだぞ」


 鉄心が五月蝿い。『ブレード』を使えば切れそうだが、それは最後の手段としておこう。今回はセブンスプッシュの連発で勝負してみよう。


「用意はいいか?」

「いつでもどうぞ」

「では、始め!」

 その声で丸太に目を向ける。そして、七重起動した『プッシュ』を丸太に叩き付けた。空気を押し潰すような音がして、七重に重なったD粒子プレートが丸太に衝突する。


 ドガッという轟音が響いて地面に振動が走る。鉄心が驚いた顔をしていた。隣りに立っている試験官も同じである。


「一体何を?」

 鉄心の問いに答える暇はない。俺は次のセブンスプッシュを丸太にぶつける。丸太が少し傾いた。俺は一気にセブンスプッシュを連発する。


 八発目で丸太がスポンと地面から抜けて飛んだ。それを見た鉄心と試験官が口を開けたまま、倒れた丸太を見詰めている。

「時間は?」

 俺が試験官に確認すると、四十秒だと教えてくれた。どうやら合格したらしい。


 冒険者ギルドから何人かの職員と冒険者が出てきて、倒れている丸太を見て目を丸くしている。

「おい、丸太が倒れているぞ」

「どんな魔法で倒したんだ?」


 ガヤガヤと騒ぎになった。

「合格だ。これが証明書になる」

 試験官から証明書をもらった俺は、受付に戻って証明書を職員に渡した。


「へっ、合格したんですか? じゃなくて、おめでとうございます」

 受付も合格するはずがないと思っていたようだ。俺は冒険者カードを更新してもらい、F級冒険者になった。これで中級ダンジョンへ潜れる。


 ちなみに、F級冒険者というのは、中級ダンジョンの一層~十層を中心に活動する冒険者である。

 俺は久し振りにギルドの掲示板を見た。ここの掲示板にはチームメンバーの募集票と魔石の相場を書き込まれたギルドのお知らせなどが貼られている。


「攻撃魔法使いの募集に、魔装魔法使いの募集か。生活魔法使いの募集なんて、有る訳ないか」

 実力を示せば入れてくれるチームも有ると思うが、入りたいと思えるチームが現れたらでいいだろう。

「取り敢えず、帰ろう」


 俺は食料を買い込んでから、アパートに戻った。射程の長い『コーンアロー』について考えてみようと思ったのだ。


 賢者システムを立ち上げ、『コーンアロー』を基に新しい魔法を考えてみる。

 まずは射程を伸ばす事を考える。射程を伸ばすには、それだけのエネルギーが必要になる。生活魔法においては、術者の魔力とD粒子から取り出す力を合わせたものがエネルギーとなる。


 術者の魔力だけに頼ると魔力消費量が大変なので、D粒子を多く集めて力を取り出す事にした。つまりD粒子コーンのサイズを大きくするのだ。


 試行錯誤して、D粒子コーンの直径を二倍、長さを一メートルほどに伸ばすと、射程を二十メートルに伸ばせる事が分かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る