第22話 生活魔法使いと魔装魔法使い

 俺は一つアドバイスをする事にした。

「斬撃を放った時に、全力でなかったようだけど、どうしてだ?」

「魔装魔法でパワーアップした状態で、全力の斬撃を放つと刀が耐えきれなくて折れてしまうんです」


 そうじゃないかと思っていた。

「なら、黒鉄で刀を作ってもらったらどう? 黒鉄なら巨木ダンジョンに鉱脈があるから手に入れられるぞ」


「でも、作刀してもらうには、費用が掛かるから」

「それはそうだけど、魔石を手に入れて、少しずつ貯めるという方法もある」

「グリム先生の狩猟刀は、刀鍛冶に打ってもらったんですか?」

「残念ながら、刃が欠けていたものを、自分で直したんだ。でも革鎧は魔石を売って購入したものだ」


 天音が俺の革鎧を値踏みするように見る。

「へえー、オーク革の革鎧か、四十万円くらいするんですよね。魔石を売って四十万円も利益を上げるなんて、すごーい」

「運が良かったんだ。話を戻すが、金なら魔石を集めて用意すればいい。諦めるのは早いと思うぞ」


 俺はチームを先に進ませた。

 アタックボアと遭遇した以降は、続けてビッグラビットと遭遇した。羊ほどの大きさがあるウサギで、頭突きと後ろ蹴りを得意とする魔物である。


 大して強くないので、千佳たちが一撃で仕留めている。六匹のビッグラビットを仕留めたところで、川に到達した。運の悪い事に、そこで二匹のオークと遭遇してしまう。


 オークは身長百八十センチほどで、太ったプロレスラーのように強力な筋肉に分厚い脂肪を纏わせたような体形をしている。


「せ、先生、オークです」

「どうしますか?」

 天音とアリサが顔を強張らせて声を上げた。


 オークの手には太い棍棒がある。こいつらを生徒に任せるのは強敵すぎると判断し、俺が戦う事にした。

「俺が戦うから、背後から援護してくれ」

「分かりました」

 チームのリーダー的な存在であるアリサが答える。


 俺は狩猟刀を抜き構えた。オークの一匹が突進してくる。そいつに向かって五重起動した『プッシュ』を発動。D粒子プレートがブンという大気を切り裂く音を響かせ、オークと衝突した。オークが宙を舞って地面に落下する。


 走行中の普通車と衝突したくらいの衝撃があったかもしれない。もう一匹のオークが棍棒を横殴りに振り切った。俺は後ろに跳んで躱す。


 追撃しようとするオークにトリプルアローを叩き込む。命中したD粒子コーンが胸に穴を開けた。致命傷だ。D粒子プレートで撥ね飛ばしたオークが起き上がろうとしている。


 俺は駆け寄り、トリプルスイングを頭に叩き込んだ。俺が三重起動の生活魔法を多用するのには理由がある。多重起動は三重起動までなら負担が少ないのだ。四重とか五重起動になると一瞬だけだが、溜めの時間が必要になる。


 一瞬だけふらふらになったオークに駆け寄り、その首を狩猟刀で切り裂いた。その時、身体の内部でドクンという音を久し振りに聞いた。魔法レベルが上がった合図である。


 この一ヶ月ほど、天音とアリサを鍛えるために巨木ダンジョンへ潜っていたが、それ以外の日も毎日のようにダンジョンに潜り、生活魔法を使い魔物と戦い続けていた。


 だが、初級ダンジョンの魔物を倒しても、魔法レベルが上がらなくなっていた。そろそろ初級ダンジョンを卒業して中級ダンジョンへ活動を移す時期が来ているのだ。


「鮮やかなものです」

 千佳が感心したように言う。

「本当に凄い。生活魔法を発動するタイミングが間合いと連動しているのが素晴らしい」

 アリサも俺の戦い方を分析していたように言う。


 千佳が質問が有りそうな顔をして視線を向けてきた。

「先生、最後に使った生活魔法は何ですか?」


「あれは『スイング』だ」

 生活魔法の多重起動は、天音たちが使うようになったので、知られるようになるだろう。


「狩猟刀をチョコンと振ったのが、発動の切っ掛けになっているんですか?」

「そうだ。狙う場所や振り下ろす角度をイメージしながら発動するより、狩猟刀の振りに合わせて発動する事で角度などを決定している。なので、スムーズに発動できるんだ」


 千佳はとても感心したようだ。

「私も生活魔法を習得したいです。教えてください」

「それは構わないけど」


 由香里が納得できないという顔で近付いてきた。

「先生、最初のオークに使ったのは『プッシュ』ですよね。強力過ぎませんか?」


「生活魔法の特徴は、魔法レベルが上がれば、同時に複数の生活魔法を起動できるようになる、という事だ。あれは五重起動の『プッシュ』、相乗効果で圧倒的に威力が上がっている」


「なんて事なの、生活魔法にそんな秘密があったなんて」

 由香里に視線を向けた俺は溜息を吐いた。

「一応、授業でも教えているんだけど……」

「ハハハ……でも、あんな風に重ねて使うのは、教えてもらっていませんよ」


「生活魔法を積極的に使おうと、思っていない者に教える気はない。攻撃魔法や魔装魔法の才能を持つ者には、余計な回り道をさせる事になるからな」


 魔法レベルを上げるには、魔物を倒し魔物の体内に秘められた未知の何かを浴びて刺激を受ける必要がある。但し、魔法レベルを上げるには、もう一つの要因がある。その魔法を多く使う事だ。それにより魔法レベルが上がりやすくなる。


 天音が由香里の肩を叩く。

「由香里は、攻撃魔法を頑張ればいいのよ。千佳もそうよ」

 天音たちは、名前で呼び合うほど仲良くなっているようだ。


 千佳が否定するように首を振った。

「私の場合は、少し事情が違うの」

「どういう意味?」

「私の魔法才能は、魔装魔法と生活魔法が『C』なんだ」


 自分がどんな魔法使いなのか問われた時、一番才能がある魔法を答える。

 千佳は魔装魔法使いだと言っていたが、生活魔法使いと名乗っても良かったらしい。それを聞いて、俺は難しい顔になった。どちらでも名乗れるとなったら、魔装魔法使いと名乗った方が賢明だと思ったからだ。


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