第23話 オークとリザードマン

 俺は希望するなら、生活魔法を教えると千佳に約束した。

「グリム先生は凄いでしょう。これでも切り札を出していないのよ」

「天音、それは秘密だったはずでしょ」


 アリサに叱られた天音が、口に手を当てた。由香里の目がキラリと光る。

「切り札って何? 秘密にするから、私にも教えて」

 秘密にするという由香里の言葉は、信用できそうじゃない。だが、魔法を見せる事自体は、何も問題はなかった。問題は魔法陣を秘密にする事だからだ。


 俺はオークかリザードマンと遭遇したら披露すると約束した。

「それじゃあ、先に進みましょう」

 アリサが声を上げた。


 それからアタックボアと遭遇した。アリサが指示して千佳を誘導役に使う事で、狙いやすい場所に誘導し魔力弾とトリプルアローで仕留めた。


 それから、三匹のゴブリンと遭遇して仕留め目標を達成する。魔物十一匹を倒したアリサたちは引き返す事にした。


 戻る途中、由香里がキョロキョロと何かを探している。それを見た天音が気になった。

「由香里、何を探しているの?」

「オークかリザードマンよ。グリム先生の切り札を見たいじゃない」


 俺は苦笑するしかなかった。由香里の思いが通じたのか、リザードマンと遭遇した。リザードマンはトカゲ人間である。二足歩行で手も有るのだが、頭がトカゲという魔物である。


 この魔物はオークよりも手強い。身長は同じくらいだが、体操選手のような体付きで素早い動きをするのだ。しかも、武器はロングソードである。


「先生、出番です」

 由香里が用心棒でも呼んでいるように声を上げた。

 俺は狩猟刀を抜いて、リザードマンの前に出た。俺が攻撃する前に、リザードマンがリーチを活かしてロングソードで斬ろうとしたので、トリプルプッシュを放つ。


 リザードマンが透明なガラスにぶつかったように跳ね返されてひっくり返った。変な声を上げながら飛び起きたリザードマンがロングソードの突きを放つ。俺は狩猟刀をリザードマンに向かって振った。


 距離は三メートルほどで狩猟刀がリザードマンに届くはずがなかった。だが、狩猟刀を振ると同時に空気を切り裂くブンという音がして、リザードマンの胸が切り裂かれる。


 トリプルブレードが切り裂いたのだ。リザードマンはドサリと倒れた。

 それを見た由香里と千佳が、驚きの声を上げる。


「どうして!」

「どんな魔法を?」

「これは『ブレード』という生活魔法だ」


 千佳が異常な興味を示した。

「先生、これはどれくらいの威力が有るんです?」

「今の『ブレード』は、三重起動したものだ。それでリザードマンなら斬れる」


「三重起動……五重起動なら?」

「初級ダンジョンのボスを斬り倒した事がある」

 いきなり千佳が地面に正座して、頭を下げた。


「何だ? どうした?」

 俺が混乱して、質問すると、

「先生、私に切り札を教えてください」

 そう言って、もう一度頭を下げた。


「ちょっと待て、『ブレード』は、魔法レベル5にならないと習得できないものだ。『プッシュ』や『スイング』、それに『コーンアロー』を習得して、魔法レベルを上げるのが先だ」


「分かりました。魔法レベル5になったら、もう一度お願いします」

「そうか。頑張れよ」


 それからビッグラビット以外とは遭遇せずに草原ダンジョンから地上に戻った。

「ほう、二番はグリム先生のチームか。頑張ったのね」

 カリナのチームが一番だったらしい。メンバーに攻撃魔法使いが三人も居る。俺は納得した。


 俺たちの後に、二宮たちのチームが戻ってきた。

「何で、生活魔法使いのチームが先に戻っているんだ?」

 五月蝿い奴だ。この大演習は運次第なんだから、順位にこだわる必要なんかないはずだ。


 天音が二宮を睨み付けた。

「あたしたちが先だとおかしいとでも言うの?」

「ふん、足手まといが二人も居るチームが先に戻るなんておかしいだろ」


「そっちのチームに居る足手まといが、よっぽど酷かったんじゃないの」

 二宮の顔色が変わった。怖い顔をして天音に近付き脅そうとする。


 俺は二宮と天音の間に割り込んだ。

「よせ、最初に言い出したのは、誰だ? 言い返されたから、怒るというのは理不尽だぞ」


「五月蝿い、俺は本当の事を言っただけだ」

「何が本当の事だ。彼女たちは立派に戦い魔物を仕留めているぞ」

「それが嘘だって言うんだ。あいつらは使えない生活魔法ばかりを習得しているじゃないか?」


「授業でも教えたが、生活魔法は魔物の狩りでも、役に立つんだ」

「へっ、教えてもらったのは、『ライト』とか『プッシュ』だけじゃねえか。何の役に立つ?」


 由香里が鼻で笑う。

「ふん、本気で突進して、転ばされたくせに」

 それまで後ろで黙って聞いていた剛田が厳しい顔になった。

「どういう事だ? おれが魔装魔法を教えている二宮が、グリムに負けたというのか?」


 また、ややこしいのが出てきた。黙っているなら最後まで黙っていればいいのに。

「違いますよ。『プッシュ』の威力を教えるために、ぶつかるとどれほどの衝撃が有るか体験してもらっただけです」


「そんな事か。だが、生活魔法で転ばされるなど油断していたとしか思えんな」

 カリナが傍に来た。

「そんな事を言うなら、剛田先生が試してみたらどうです。本気を出したグリム先生の『プッシュ』は凄いですよ」


 他人事だと思って、カリナが変な提案をした。


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