第7話 ダンジョンボス?
三連休の最終日、俺はダンジョンに潜った。最短ルートで五層まで行って、角豚を倒しながら六層に下りる階段のところへ行き確認する。
昨日と同じ角豚三匹が階段の傍に寝転んでいた。
「また、居るのか。今日はどうするかな」
昨日は石を投げて失敗した。だが、今日は違う。ここまで来る途中にも試したのだが、『スイング』の魔法は『プッシュ』以上に使えた。
もちろん、普通の『スイング』はパチリと魔物を叩くだけで怒らせるだけの効果しかない。だが、三重起動の『スイング』は細長いD粒子プレートが三重になって発生し、高速で振り下ろされた。
その一撃を頭に受けた角豚は脳震盪を起こしたようにふらふらとなる。自分が放つ『スイング』に自信を持っていたので、三重起動の『スイング』であるトリプルスイングで奇襲を掛ける事にした。
隠れていた木陰から躍り出た俺は、一直線に角豚へと突撃した。角豚から五メートルまでは気付かれなかった。それを越えた時、右端の角豚が気付いて立ち上がる。
その角豚目掛けて飛び込み、トリプルスイングを発動。『スイング』の魔法は射程が二メートルほどで、それくらい離れた距離の敵に攻撃できる。
俺は手に持つ狩猟刀を手首だけ動かして軽く振った。それが切っ掛けとなって魔法が発動する。細長いD粒子プレート……面倒なので『警策プレート』と呼ぶものが、右端の角豚に命中した。
バチッと音がして角豚の動きが止まる。しかし、その横ではもう一匹の角豚が動き出していた。俺はトリプルスイングを発動、警策プレートが二匹目の角豚を打撃する。
最後の角豚は少し離れた位置に居て、こちらに向かって突撃を開始した。俺はトリプルプッシュを発動し、角豚を撥ね飛ばす。
それからは時間との戦いだった。角豚たちがダメージから回復しないうちに狩猟刀でトドメを刺す。
「はあはあ……、やった」
ダンジョンでも、生活魔法は使える。俺は生活魔法に自信を持った。
階段を下りて最終層に向かう。この階層には迷宮狼が棲み着いている。大型犬ほどの大きさで、タフで危険な殺し屋だそうだ。
初めて見る六層の光景が目に焼き付けられた。ダンジョンの中に広大な雪山が存在している。真っ白な雪が山を覆い、寒々とした景色を造り出していた。
かなり寒い。リュックの中から小さく丸めていたダウンジャケットを取り出し、それを羽織る。
「こんな広い場所を、生徒たちは探し回ったんだろうな」
七層へ下りる階段を探して、生徒たちは隅々まで歩き回ったらしい。それでも階段が見付からず、このダンジョンは六層が最終層と判断された。
俺は雪山に向かって歩きだした。あの雪山には洞穴があり、そこに辿り着いた生徒は合格というダンジョン演習もあるそうだ。
雪山の方角から何かが走ってくる。
「犬? いや、迷宮狼か」
こちらに向かって飛び掛かったり、突進してくる相手に対しては『プッシュ』の魔法が使いやすい。
D粒子プレートにぶつかった迷宮狼は、雪上を転げ回り立ち上がった。迷宮狼は角豚よりタフなようだ。
唸り声を上げながら立ち上がった迷宮狼が、襲い掛かってきた。今度はトリプルスイングで迎え討つ。警策プレートが迷宮狼の頭に叩き込まれる。
カウンター気味に入った一撃は大きなダメージを与えたようだ。雪上に倒れた迷宮狼の首に狩猟刀を突き立てた。動かなくなった迷宮狼は、光の粒に分解し消えた。
その光の粒はD粒子なのだという。なので、一部は俺の身体に吸収されてD粒子量が増えたはずだ。
また、身体の内部でドクンという音がした。
『セルフ・アナライズ』の魔法で調べてみると、生活魔法が魔法レベル4になっていた。
「目標の魔法レベル5は難しいかもしれないな」
最終層まで来ているのに、やっと魔法レベル4だ。この調子では今日一日で魔法レベル5になるのは無理だろう。
雪山の洞穴を目指して進んだ。途中、二匹の迷宮狼と遭遇したが、『プッシュ』と『スイング』を駆使して倒した。洞穴に到着した時、午後を少し過ぎていた。
やった、ゴールインだ。後は黒鉄を採掘して帰るか。俺は用心しながら洞穴に入った。中は暗かったので、生活魔法の『ライト』を使う。
洞穴を先に進むと、二股に分かれており左に進んだ。その先にはドーム状の大きな空間があった。ここに黒鉄の鉱床があるのだ。
黒鉄は赤鉄と同じく鉄がダンジョン内で変異したものだ。鋼鉄よりも硬く丈夫な素材となるので、冒険者ギルドに持っていけば高値で売れる。
黒鉄の鉱床を探し出し、そこにマトックを突き立てて鉱石を掘り出す。その鉱石をリュックに詰める。また安全地帯である階段で黒砂鉄に変えよう。
俺は分岐点だったところまで戻り、右側の道を選んで進んだ。校長が最終層にはサプライズがあると言っていたので、それを知りたかったのだ。
「サプライズって、何だろう? まさか、ダンジョンボスでも居るのか?」
ダンジョンボスというのは、ダンジョンの最終層に居る魔物の事だ。この魔物を倒すと、特別なアイテムを残すと言われている。
但し、巨木ダンジョンのような初級ダンジョンだと、必ず居る訳ではない。初級ダンジョンはダンジョンボスが存在せず、普通の魔物だけというケースが多いらしい。
校長の言ったサプライズとは、ダンジョンボスの存在なのではないか、と俺は予想した。とは言え、一人でダンジョンボスを倒すのは難しいだろうな、とも考えている。
校長だって、俺が最終層まで到達するとは思っていなかったはずなので、サプライズを確かめるだけにするつもりだった。
奥へ奥へと進み、黒鉄鉱床と同じようなドーム状の空間に遭遇した。入り口から中を覗くと、一匹の巨大な狼が寝そべっていた。大きさは牛ほどもある巨大狼である。
うわっ、あんなのがダンジョンボスなのか。今の俺じゃ倒せそうにない。引き返そう。
そう思って振り返った時、目の前に迷宮狼が居た。反射的にトリプルプッシュを発動する。迷宮狼を撥ね飛ばしたが、俺もバランスを崩して後ろによろめく。
結果、入るつもりがなかったダンジョンボスの部屋に入ってしまう。入った瞬間、入り口が閉じてしまった。
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