第3話 巨木ダンジョン

 階段を下りダンジョンに入ると、意外にも明るい事に気付いた。天井から微弱な光がダンジョンを照らしているのだ。俺は『ライト』の魔法を解除した。


 巨木ダンジョンの一層で遭遇する魔物は、狂乱ネズミと血吸コウモリだ。狂乱ネズミは猫ほどもあるネズミで、鋭い牙で攻撃してくる。


 一方、血吸コウモリは天井にぶら下がっており、急降下して背中に張り付き人間の血を吸う。こいつは素早いので、気を付けなければならない。


 ダンジョンの一層は、迷路のような通路が縦横無尽に伸びているというものだ。石の壁で挟まれた通路の空気には湿り気があり、その空気を吸い込んでから右に進む。薄暗い通路は石畳の上に埃や砂が溜まっており、歩くとジャリジャリと音がする。


 少し進んだところで、狂乱ネズミと遭遇した。手に持ったマトックを構える。猫ほどもあるネズミなら、素早い動きをするだろうから仕留めるのは大変だろうと思うかもしれないが、狂乱ネズミは大きくなった代わりに素早さを失っていた。


 俺に向かって飛び掛かってきた狂乱ネズミに『プッシュ』の魔法を発動する。空中に形成されたD粒子のプレートが、狂乱ネズミに向かって押し出され衝突する。空中で一回転した魔物が、頭から落下して目を回す。猫ほどの大きさは有ってもネズミなのだ。そいつにマトックを振り下ろす。


 マトックの尖った先端が狂乱ネズミを貫き致命傷を与える。魔物は光の粒に分解してから収縮し、魔石に変わった。


「ふふふ……生活魔法も使い方次第なんだよな」

 生活魔法を使って、魔物を倒せた事が嬉しい。小さな魔石を拾い上げた。


「初めての魔石だ。色は黄色か」

 魔石は色によって特性が変わる。黄色い魔石は、ある溶媒に浸けると崩壊しながら電気を放出するそうだ。だから、黄色い魔石の需要は多い。


 魔石をポケットに入れて先に進む。赤鉄は二層にあるので、最低でも二層までは行かないと。

 狂乱ネズミと戦いながら、迷路を行ったり来たりして一層の半分ほどを探索した。そして、吸血コウモリに遭遇する。


 ひらひらと飛びながら襲ってくる血吸コウモリに、『プッシュ』の魔法を発動。空中に形成されたD粒子プレートが押し出されると、無色透明なはずのプレートが見えているかのように、血吸コウモリは躱した。


「クソッ、もう一度」

 何度か『プッシュ』の魔法を発動したが、コウモリはひらりと躱す。


「あっ、そうか。コウモリには超音波があった」

 コウモリは喉から超音波を発し、反射してきた超音波から周囲の情報を読み取る能力があるというのを思い出した。


「別の魔法を……何が使えるんだ?」

 生活魔法で使える魔法の種類は少ない。


 今の俺が使える魔法は、

 『ライト』……………明かり

 『イグニッション』…発火

 『ホール』……………穴掘り

 『ウォーター』………出水

 『ムービング』………草刈り

 『ブリーズ』…………送風

 『クリーン』…………浄化清掃

 『ロール』……………回転

 『エングレーブ』……刻印

 『プッシュ』…………押す

 『リペア』……………修復

 『ピュア』……………純化

 の十二個だけである。


「よし、『ムービング』だ」

 『ムービング』は庭の雑草を刈る時に使う魔法である。空中にD粒子で形成されたハサミのようなものが生まれ、高速でジョキジョキと動き、コウモリの背中の毛を刈り取った。


 あまりに意外な結果を見て、頭が真っ白になる。吸血コウモリも驚いたようで身を翻して距離を取った。

「何て事だ。『ムービング』は生き物に対して使うと、毛を刈る魔法になるのか、って感心している場合じゃない」


 慌てた俺は『イグニッション』『ウォーター』『ブリーズ』を使ったが、どれも効果が小さかった。

 そして、吸血コウモリに対して『ロール』の魔法を発動した時、絶大な効果を発揮した。コウモリの全身が空中で高速回転したのだ。


 回転した吸血コウモリがピタリと止まる。そして、魔物が通路に落下した。俺はマトックでトドメを刺す。


 『ロール』は重いものを回転させられない、という制限があったから、期待していなかったんだけど、コウモリ程度なら回転させられるんだな。実戦は勉強になる。


 黄魔石を拾い上げポケットに仕舞う。

 生活魔法を駆使して一層を通過した俺は、二層への階段を見付けて下りた。


 二層も迷路型のエリアだった。そして、遭遇する魔物は猫である。山猫みたいにワイルドな奴で、リッパーキャットと呼ばれている。


 階段を下りた俺は、すぐに斑模様の猫と遭遇した。普通の猫より一回り大きそうな体格で、鋭く長い爪を装備している。


 マトックを構えたまま接近すると、リッパーキャットが素早い動きで襲い掛かってきた。俺は反射的に『ロール』を発動する。猫がバランスを崩しそうになったが、そのまま飛び掛かってきた。


 マトックで爪を防ぎ、跳び退いたつもりだった。だが、距離を取った時、腕から血がポタリと垂れてダンジョンの通路を汚す。


「防いだつもりだったのに……」

 また襲い掛かってきた。今度は『プッシュ』を発動する。D粒子プレートが猫の頭に衝突し撥ね返す。リッパーキャットは空中で胴体を捻って、足から着地した。


「『プッシュ』でもダメなのか? ……いや、もしかしたら」

 リッパーキャットが迫力のある鳴き声で、俺を威嚇する。次の瞬間、飛び掛かってきた。『プッシュ』を発動し、今度は上へと撥ね上げる。


 空中に浮き上がった魔物に向かって、マトックを振り抜いた。尖った先端が猫の首を貫く。魔物は魔石に変化し、通路に転がった。


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