戦争孤児は執事となり、そして可愛がられます
ACSO
第1話プロローグ
炎が轟々と唸りを上げ、僕の故郷の家々を焼き尽くしていく。耐えきれなくなった木造の建物はボロボロと崩れ落ち、昨日までのゆるやかな日常は見る影もなくなっていた。
その景色をぼんやりと見ている僕も、崩れ去った建物と同様、地面に横たわっている。家の崩壊に巻き込まれたのだ。
――数刻前、ここは人間同士の戦さ場となった。国境間近にあるこの村は、属する国からの知らせが届くことなく、戦争に巻き込まれたのだ。
武力を持たない村人はなす術なく凌辱され、殺され、奪われた。
偶然お父さんに連れられて街へ行っていた僕とお父さんは、戦争の知らせを聞いて飛んで帰ってきたが、時既に遅し。全てが終わったあとだった。
「お、とうさん……」
僕の上にのしかかるようにして倒れているお父さんは、家の倒壊から僕を庇って動かない。頭から血を流しているが、もしかしたら……。
「……死ぬのかなあ」
僕とお父さんを覆うように燃え盛る炎は、僕の皮膚をじわじわと焼き、ゆっくりと命を削ってくる。
死が僕に近づいているのを感じ、底知れない恐怖を感じるが、不思議と安堵の気持ちもあった。
みんなと同じ場所に行ける、という安心感だろうか、それとも何もかもを失って、生きる気力をなくしているからだろうかはわからない。
僕も、もうすぐ行くよ……。
そう思い、目を閉じる。
「ゆ、ユウ……無事か?」
「お父さん!?」
今まで目を覚さなかったお父さんが、僕に声をかけたのだ。
「良かった……無事で……うぐっ……!」
僕に微笑みかけるお父さんは、痛みに顔を歪める。
当然だ。瓦礫から僕を庇ったんだから……。
「大丈夫なの!?」
僕の問いかけに、お父さんは肯定しようとして、そして首を横に振った。
「お、お父さんはもう助からない。どうにも寒くてな。こんなに炎があるのに変だろ……?」
よくわからないけど、お父さんに異常なことが起きていることは伝わった。熱さで頭がおかしくなりそうなのに、寒いなんておかしい。
「そ、そんなことないよ! 僕も寒いから!」
でも、僕はその事実を認めたくなくて、嘘をつく。唯一の拠り所を目の前で失うのが怖くて仕方なかった。
「お、おい!? どこか怪我してるのか!?」
お父さんは僕が怪我したと思ったらしく、心配の声を上げる。お父さんに心配をかけさせたくはない。
「し、してない」
「そうか……。ユウ、よく聞いてくれ……ぐっ」
「う、うん」
ただならぬ表情に僕はお父さんの目を見つめる。
「お父さんには、ここから出してやる力もない……けど、なん、とか生きてくれ……!」
五年しかない人生だけど、今までで一番真剣なお父さんの頼みだった。
でも、それは聞けない。
「む、むり! 一人じゃ無理だよ!」
「は、は……頼む……」
それでも、お父さんは少し笑って、そう言い残して力なく僕の上に頭を落とした。
「お父さん……! 起きてよ! ねえって!」
しかしお父さんはもう目を開けることはなかった。
僕はせめてお父さんの最後の願いを叶えようと、瓦礫からもがくが、しっかりと身体が埋まっていてなかなか抜けない。
そうこうしているうちに、火が僕の身体の近くまで広がってきた。
「や、やだ! 抜けてよっ!」
子供の力では到底瓦礫は動かせず、遂に足に炎が燃え移った。
「あ、熱っ! だ、誰か助けてッ!」
僕は狂ったように悲鳴を上げ、助けを求めるが、ついさっきまで戦場だったこの地に誰もいるはずがなく――
「――沈めろ、水玉」
「吹き飛ばせ、風鈴」
低く、落ち着いた声が聞こえると同時、僕の身にのし掛かっていた瓦礫と、燃え移ってとても熱かった炎が消え去った。
「まさか生き残りがいるとは……君、大丈夫か?」
「お、お父さんがっぁ……」
僕は、お父さんを助けてと言うことすらできずに、意識を手放した。
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