エルフ ルルーナ・エルクライナ

第2話エルフ

「あのー、俺はこれからどうなるんだ」


 木のぬくもりがひしひしと伝わるような、素材をそのまま使った大きな屋敷の、俺にあてがわれた部屋でそう尋ねる。


「そ、そりゃあ馬車馬のように働かせて、その後に苛めぬくに決まってますわ!」


 何故か知らんが顔を真っ赤にして、苛烈なことをおっしゃるエルフのお嬢様。

 今俺がいる場所はエルフの国だ。城で国王が外国との関係を重視したため、俺は一応このルルーナと共にいることになった。

 その時の国王の言葉的に、ルルーナに、と言う感じだったので、この後どうなるかはわからんが。

 だってご主人が五人いるしね!


「元婚約者なのに酷い扱いだなあ……。ルルーナ?」


「そっそれは! あなたが私と婚約破棄なんてするから……その罰です! 私はあなたなんかき、嫌いなんですから!」


 そう、このお嬢様、俺のことが嫌いなのである。

 というのも、昔ルルーナは笑わないことで有名で、当時婚約者だった俺は悪戯心でルルーナをくすぐったのだ。それ以降、こんな悪口を言いながらずっと付きまとってくる。

 何がしたいのか。


「へえ。つまり、嫌いな元貴族を奴隷にして、それを見て優越感を得たい、みたいな?」


「え、そ、そんなこと……」


「ん? 違うの?」


「そ、そうですわっ! ふん!」


 なんで怒っているのかよくわからないが、ルルーナはぷんぷんと部屋から出て行った。


「なんで嫌いな奴を奴隷にしたんだ……。ん? なんだこれ」


 ルルーナがいたところには、鈍色に光る輪っか。

 手錠だ。

 これで俺を縛ってなにかするつもりだったのか……?

 拷問まがいなことを想像して、軽く絶望していると、部屋の扉が開いた。


「飲み物を持ってきましたわ」


 そう言って、コップを一つ持ってくる。中に入っているのは紅茶みたいで、いい香りがする。


「ありがとう、今俺は奴隷なんだから言ってくれたらやるのに」


 なんでコップ一個しかないんだろう、と疑問に思いつつもそれを口にする。

 ……なんか変な味すんな。

 チラッとルルーナを見ると、射殺すような目でこちらを見ていた。

 飲まなかったら殺されそうなので、変な味だと感じたことをおくびにも出さずに紅茶を飲み干した。

 ふと見ると、ルルーナの服装が変わっている。先ほどまでは着飾っていたが、今は薄い布地の服。いわゆるネグリジェというやつだ。

 全く。男に警戒心がないのか?


「なあ、男と二人の時にそういう服着るの、よくないぞ。襲われても文句言えないぞそれ」


「んんっ……。ふ、ふん。やってみたら?」


「いや奴隷がそんなことできないだろ」


 あほなのだろうか。しかし、確かにルルーナの格好はやばい。色々透けて見えそうでなかなかエロい。


「はぁっ……そんな舐め回すような目で見て……最低ですわ!」


 ビクビクと身体を震わせたルルーナは、蔑むような視線を俺に送る。

 そんなエロい服を着て色っぽい声を上げてそんな目を向けられても……とちょっと引いた目をしていると、ルルーナは身体をぶるぶると震わせて倒れた。


「あ、あへぇ」


 顔を見てみると、幸せそうなをしていたが、それは人に見せちゃいけない顔だった。

 この惨状を見て、ルルーナの昔からちぐはぐだった行動が、一つの可能性と結びつく。


「……もしかしてお前、ドM?」


「〜〜っ!」


 図星らしく、声にならない声を上げて、ルルーナは気を失った。

 俺は、意識のない女の子を背負う奴隷の姿を想像する。完全に犯行に及ぶ前の姿である。これは人に見せられない……。

 なので俺はしぶしぶ俺のベットにルルーナを寝かせ、俺は硬い床に寝転んだ。


 こうして、俺とルルーナの主従生活が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る