短編ss

琉夢レダ

カプセルトイ

 ふと偶然、一つの機械が目に止まった。──ガチャガチャか。


 正式名称は……なんだったか。まあ別に何だっていいだろう。昔からガチャガチャと呼んできたし、それで十分に伝わるのだ。ならば正しい名前など、なんだって構わないのだろう。ガチャガチャはガチャガチャだ。それ以上でも以下でもない。


 スーパーやショッピングセンターの隅によく並んでいる、コインを入れてハンドルを回すと玩具が出てくるアレだ。なんの変哲もないこれが、今日に限って目に止まったのは何故だろうか。


「久々に、やってみるかな」


 理由はわからないが、偶にはこういった遊びもいいかもしれない。並ぶガチャガチャの中から、ザッと見て興味の持てそうなものへ硬貨を入れる。百円玉を六枚……どうやら、知らないうちに随分と値上がりしたらしい。


 六枚を全て投入してから、ゆっくりとハンドルを握り回した。プラスチックがぶつかり合う軽い音が響く。幼い頃は、大層胸を膨らませながらこのハンドルを回したものだ。自分の世界が変わるような、そんな錯覚さえ感じたような気がする。


 カラン、と安っぽい音を立てながらカプセルが転がってくる。……見たことの無い形だ。色々と変わったものもあるのだろう。


 中身を取り出して、一応確認。といっても、別に何か欲しいものがあったわけじゃないからな。


 手のひらの上に転がる玩具を弄びながら眺める。


 ガチャガチャはガチャガチャだ。それ以上でも以下でもない。世界を変える力なんて持ってない。ハンドルを回したところで、欲しいものが手に入るとは限らない。


 それでも、自分の手で回すから楽しいんだ、きっと。


「ん? ……塗装、剥げてんじゃん」


 一瞬だけ顔を顰めて、すぐに失笑した。


 ──まあ、なんだって大体そんなもんだ。

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