132、モモ、手に入れる~保護者様をびっくりさせるのは子供の特権だよね~後編

 個人プレーが多いってことかな? でもわかる気がするね。トーマは正直だけど不器用さんみたいだからねぇ。上官のキルマにもズバズバ言っちゃってるくらいだから、部下の人達にもズバーッと言っちゃって、グザーッと心を突き刺しちゃったりしてるのかも。


 その性格を好印象に受け取ってくれる人もいると思うんだけど、気の弱い人とか繊細な人はそれだと傷ついちゃうよね。フォローする人が誰もいなかったのかな? トーマ、卵焼みたいにふわっとソフトにだよ、って。鋭い言葉は甘い卵焼きに包めばいいと思うの。バウムクーヘンでもいいよ!


「トーマのことはさておき、モモがやってきた理由を聞いてませんでしたね。なにもないのならそれはそれで歓迎しますよ」


「あっ、えっと、皆に渡すものがあって……バル様、下ろして?」


 プレゼントを渡す前に床に足をつけたいです。無言のバル様の目が、どうしてもか? って聞いている気がしたので、うんって頷く。無表情のなかにどことなく残念そうな気配を感じる。そこまでしてようやく丁寧な仕草で床に下された。ありがとう! 短い二の足でしっかりと踏みしめて、きりっと顔を正す。今の私の気分は季節外れのサンタクロースです! 


「いつもありがとうって気持ちなの!」


 桃子は袋の中から包みを取り出した。一番最初にバル様に両手でプレゼントを差し出す。


「オレに、か?」


「うん! 請負屋さんに行ったのは、バル様達にこういうお返しがしたかったからなの。大したものは買えなかったんだけど……貰ってくれる?」


「あぁ、有り難く受け取ろう」


 バル様の瞳が甘く撓み、うっすらと口端が上がった。本日2回目の眼福頂きましたーっ! 心がぽわぽわしてきた桃子は照れながら、続いてキルマの元に向かう。


「キルマにはこれをあげる!」


「モモ、なんて健気な……っ。私、感動で気持ちが抑えられそうにありません! こんなに嬉しい贈り物は初めてですよ。大事にします。包み紙まで大事に取っておきますから」


 キルマは胸元にしっかりと包み紙を抱きしめて微笑むと、目元からハラハラと涙を零す。美人さんは涙しても美人である。でもどうしよう、泣かせちゃった! 桃子はあたふたと意味もなく手を振りまわして美麗なお顔を見上げる。


「キルマ、落ち着こう!? 泣かないで!」


「モモも落ち着こうな? ほら、お前が突然泣くもんだから、お姫様が混乱してるぞ」


「これが泣かずにいられますか!? いいえ、いられません!」


「オレも……泣くべきか?」


「バル様!?」


「いや、団長まで便乗しないでくださいよ! わかったから、そのただ漏れの蛇口を締めろよ。女性ならともかく野郎の泣き顔なんて見たくないぜ」


「失礼ですね! …………こほんっ、お見苦しいものをお見せしました。私達に贈り物をするために一生懸命働いてくれたと思ったら、感動してしまったのですよ」


「キルマ達が毎日頑張ってるから、私も頑張りたくなったの」


「えぇ、えぇ。モモ、本当にありがとうございます」


 ようやく笑ってくれたのでほっとする。目元をハンカチで擦ったせいで赤くなってるけど、それがまた艶やかで美しい。見惚れるくらい美人さんだね! 途中でバル様の真顔の冗談にびっくりしたけど、場を和まそうとしてくれたんだね、きっと。……本気じゃないよね? 確認の意味で顔を向けたら、バル様の目が笑ってた。もう、また騙されかけたよ! 


 涙が止まったキルマにひと安心した桃子は、今度はカイの元に向かう。そしてプレゼントを差し出しながらお礼を伝える。


「ずっと黙っててくれてありがとう! カイのおかげでバル様達をびっくりさせることが出来たよ」


「オレの方こそ、ありがとう。共犯者で居られなくなるのは残念だけどね。今度、モモに素敵な秘密が出来た時も、こっそりオレには教えて? こんな素敵な隠し事ならいくらでも協力するからね」 


 片膝をついて甘い笑顔を寄せるカイはやっぱりホスト属性だねぇ。これで女の子をぽっとさせちゃうんでしょ。わかってんだかんね! ……でも、思わず照れちゃう。あの、バル様、そんなじっと見ないで!


「カイばかり狡いですよ。今度は私を共犯者にしてください。団長にも秘密にしますから」


「言ってくれる」


「まぁまぁ。団長だってこんなに可愛い秘密なら許しちゃうでしょう?」


「……モモに危険がないことを限りにだ」


「お許し下さるそうですよ」


 キルマが笑いながらバル様の言葉を代弁をする。やったーっ、お許しが出たよ! でも心配をかけるやり方はしないように気をつけなきゃね。プレゼントにたどり着くまでの長い道のりを振り返って桃子はしみじみとそう思った。反省終わり! じゃあ、最後の人にプレゼントを渡さなきゃね!


 桃子は短い足を動かして、扉の傍でこっちの様子を見守っていてくれたレリーナさんの前に立つ。そして、美人な護衛さんに手の平サイズのプレゼントを掲げる。


「はいっ。これはレリーナさんの分!」


「本当に、本当に私まで頂いてしまっていいのですか?」


「レリーナさんが護衛さんになって助けてくれたおかげだもん。ずっとお礼がしたかったんだよ」


「モモ様、ありがとうございます! 我が家の宝にします!」


「使ってね!? 4人共、中を開けて見て!」


 レリーナさんは目を潤ませながら喜んでくれた。嬉しいけど宝にするより使ってほしいよね。桃子はにこにこしながら四人にプレゼントを開けるように促した。


「これは……」


「素敵な贈り物ですね」


「男ぶりが上がっちゃうな」


「毎日付けさせて頂きます!」


 4人の反応に桃子は笑った。


 バル様に贈ったのは綺麗な茶色の革を使ったブックカバーとおしゃれな銀の栞のセットだ。本を読んでいた姿を思い出して、これなら喜んでくれるかもしれないと思って選んだ。


 キルマには使いやすいペンを選んだ。柄の部分にさりげなく金のリンゴ、もといリンガが彫られていたのが決め手だった。男の人が持っていても持ちやすい変じゃない形だし、インクを入れれば何度でも使えるのがいいと思った。


 カイには丈夫な黒革の巾着を贈った。表面に馬のシルエットが刻印がしてあって、上品さの中に男らしさが隠れてる。色男のカイにはぴったりな品だろう。手触りがいいのも選んだ理由である。


 この中では唯一の女性、レリーナさんに選んだものはメイドさん達と同じデザインのブレスレットである。でもちょっと違うのはレリーナさんのは全部の宝石が青を使っていることだろう。一番似合いそうな色を厳選したうえで決めた。


「気にいってくれた?」


「あぁ。大事に使わせてもらう。贈り物をありがとう、モモ」


 バル様の穏やかな声に同意するように、三人の笑顔が返ってくる。喜んでもらえてよかった! 桃子は嬉しさに心の中でバンザイした。プレゼント作戦、大成功!

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