118、モモ、さすってもらう~緊張した時に日常の切れ端を見つけると、ちょっぴり安心するよ~前編
害獣に襲撃された翌日、水色のお子様ドレスを装着した桃子は、お城の煌びやかで広い廊下をカイにだっこされて、バル様が従えたルーガ騎士団の団員達と一緒に進んでいた。張り詰めた空気を漂わせて進んでいくバル様の背中をすぐ後ろから見上げているんだけどね、真っ直ぐな背中から漂う迫力がすごい。オーラが般若だよぅ。
侍女らしき女の人達は最初から端に寄って頭を下げているんだけど、貴族っぽい派手な格好をした人達は、バル様に声をかけようとして出来ずに端に除けているようだった。迫力勝負はバル様の圧勝みたい。桃子だって怖いもの。少―し脅えながらカイを見上げると、苦笑しながら背中をさすさすと撫でてくれた。
「モモには怒ってないからね」
「うん……」
こそっと囁いてくれる。優しいなぁ。気遣ってくれてありがとう。バル様のお怒りの原因はルーガ騎士団の団員を率いてお城に来たってことから、なんとなく想像がつくよねぇ。ルーガ騎士団のおまけに桃子がついてるのは、害獣の襲撃の件と、民衆の前で軍神様を呼んでしまったことを併せて、王様に報告するためなんだろうけど……その前にもう一波乱ありそう。怖さでドキドキするから、きゅっとカイの胸元を握って心の防御力を上げてみる。
バル様が大きな扉の前に立つと、左右に立つ近衛兵さん達が両側から扉を押し開いていく。開き切った扉の向こう側では、王様と王妃様が椅子に座り、その前に左右に分かれて貴族然とした八人の男の人達が並んでいた。四十代から六十代くらいの人と、銀の甲冑を身につけた真っ白なお髭の人と三十代半ばくらいの強面の男の人が二人。その中には驚いた様子のダレジャさんの姿もあった。
ミラのお父さんは今日も真っ赤でど派手な衣装を着てる。お似合いですね! 厳粛でぴりついた空気の中に、日常の切れ端を見つけた気分で、ちょっぴり、ほっとできた。だけど、桃子のほっとタイムは大きなダミ声で強制終了となる。
「
びっ!? 驚きが言葉にならないまま内心叫んで、桃子は両耳にぱっとグーの手を当てる。心臓が跳ねあがったよぅ! けれどバル様は意に介さず室内に入っていく。団員の屈強なお兄さん達が堂々と後を追うように進む。必然的にカイと一緒に桃子の視界も前に向かう。すんごい見られてる! 場違いな五歳児ですみません。
「ルーガ騎士団と言えども、陛下と王妃様の御前ですぞ! これはあまりに無礼な振る舞いだ!」
「いや待て、ルーガ騎士団師団長としてお越しになれたのやもしれぬ」
「で、ではなぜこのような場に?」
「──黙れ」
国王様の一声で、ぴたりとおじさん達の声が止む。自らの臣下を睥睨するように眺めて、ゆったりと肘をつく。威圧感が半端ないです! 肌がぴりぴりして、腰が抜けそうなほど、こあい。隣の王妃様は面白そうに口端を上げているけど、平気なのかな?
「これは報告を受けて、私が許可を出した。──バルクライ」
「エイデス公爵、バーク侯爵、プランク伯爵の三名を捕らえよ」
【はっ】
「なに!?」
「よ、よせ! 無礼者が!」
「殿下、なぜこのような……っ」
バル様の指示を受けて、団員達が三人のおじさんを拘束に向かう。その中には最初に怒鳴ったおじさんも入っていた。風船のように膨らんだ身体で激しく抵抗しているけど、あっと言う間に膝を突かされて、手を後ろにされて縄で縛られていく。拍手したくなるほど、速い!
「バルクライ殿下、いくら殿下といえども、陛下の忠臣であり大貴族であるこのわしにこのような仕打ちをなさるとは、どういうおつもりか! 返答いかんによってはエイデス家は総力を持って抗議いたしますぞ!」
「そうです! なぜ私共が拘束されねばならぬのです! 私とて、こんな辱めを受ける謂れはない!」
「陛下、どうかバルクライ殿下をお諫めくださいませ! 我等は潔白です!」
「大罪人が陛下の忠臣だというか」
バル様が冷たく切り捨てる。冷気を帯びた低い声は、美声なだけに重みが増す。ひいっ! こあいぃっ。五歳児と一緒に脅えていたら、再び落ち着きなと言うように、カイに背中をさすさすされた。はぅ、あったかい。
「な、なんのことだ!?」
「まだシラを切ろうとはあきれ果てた忠義者だ。貴族であるならば、この国の法も知っているはずだ。人身売買が忌むべき大罪だと知りながら、卑怯にも抵抗の出来ない孤児院の子供達を買いあさるなど、それが陛下の忠臣たる者のすることか! 連れて行け!!」
バル様が鞭打つように指示すると、団員さん達が冤罪を訴えるおじさん達を連れて行く。攫われかけながらも最終的に手に入れた青い帳簿に、たぶん証拠となるものが書かれていたんだろうね。予想通りな展開だったけど、なんか一気に室内が広くなった気がするよ。うん、最初から広くはあるから気分的なものなんだけど。
「さて、バルクライ、報告せよ」
「はっ。昨日、害獣による襲撃を受けましたが、請負人とルーガ騎士団、そしてモモの声に応えた軍神の助力を受け、全ての討伐が完了。現在は破壊された商店や害獣の死骸の後始末に当たっています。また、今回の件を受け、今期の討伐には通常よりも危険が大きいと判断。情報の共有の為に、現在偵察部隊として動いている隊には伝令を走らせました」
「ほぅ、お前から見てそれほどに危険か?」
「はい。害獣を街に放った男はフィーニスと名乗りました。神の座より堕ちた悪しき存在と軍神が呼ぶほどの相手です。幸いにも彼の神はモモに力を貸して下さるとおっしゃいました。しかし、フィーニスが不可思議な力を使い害獣を凶暴化させた事実や、人の世に苦しみを与えることに悦楽を感じている様子があることから、来月の害獣討伐時にも密かに毒を振りまく可能性があるかと」
「なるほど。それほどに危険な男ならば害獣討伐には万全の態勢を整えねばなるまい。同盟国にも影響があるやもしれぬな」
「親書を送ってはどうだ? カローン街で起こったことはいずれ人の口から伝わり他国も知ることになるだろう。不確かなことが人伝てに伝わるくらいならば先手を打ち、害獣に凶暴化の傾向ありと警告してやればいい。我が故国、ルクルクにもぜひ知らせてやりたいぞ」
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