70、モモ、自力でお金を得る~誰かに渡す贈り物を悩む時間も楽しいよ~
初めてのお仕事を無事に終えたモモは、帰り道で請負屋に寄って依頼書と引き換えに白銀貨2枚を手に入れた。鈍く光る硬貨が嬉しくて、大事に大事に巾着にしまってバル様のお屋敷に帰って来たのである。
レリーナさんが玄関の扉を開いてくれる。モモが入ると、ロンさんがお出迎えしてくれた。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、モモ様。レリーナも護衛ご苦労様。お食事はおすみですか?」
「うん、食べてきたよ。手間じゃなければ、明日は簡単につまめるお菓子を頼んでもいい? 多めにお願いしたいのだけど」
依頼の間はエマさんが用意してくれるって言ってたけど、デザート的な物なら迷惑にはならないだろう。もしかしたら、ギルと話すきっかけにもなるかもしれない。
「そのくらいでしたら構いませんよ。お食事をご用意出来るとなれば料理長が喜びますね。持ち運びとなると、バスケットがいいでしょう。ご用意しておきます」
「ありがとう、ロンさん」
「いいえ。モモ様のお願いは細やかですからね。こうして頼っていただけるのは喜ばしいことです」
上品に微笑むロンさんに、モモは感嘆する。紳士だね! 包容力が半端ない。バル様も包容力がすごいし懐が深いけど、使用人の人達も似たの?
「料理長がケーキを作っていますよ。もうすぐ焼きあがりますから、ティータイムはいかがですか?」
「ほんと!? 食べたい!」
「では、焼きあがったらお呼びいたしますね」
「はーい。レリーナさん、私ちょっと二階に戻りたいから階段だけ見ててくれる?」
「お運びしましょうか?」
「ううん。抱っこしてもらうのは嬉しいけど、今日は自分で上るよ。レリーナさんも疲れたでしょ? 私は自分のお部屋に戻るから、休憩しててね」
「そうですか……」
残念そうなレリーナさんには悪いけど、いっぱい運動しておけば背も伸びるかもしれないからね! 可能性は低いって知ってるけど、もしかしてを信じたい。1年後、3センチでも背が伸びてたら喜びのダンスを踊ると思う。
桃子はレリーナさんに見守られながら二階を登って、自室に向かう。今日は頑張ったから、ちょっと疲れちゃった。五歳児もお疲れで、眠いよぅって目を擦っている。桃子はドアを背伸びして開いて、欠伸をしながらベッドに行く。そして、しゃがんでその下に潜り込んだ。
五歳児ならではの隠れ場所だ。バル様のお屋敷のメイドさん達はしっかり掃除をしてくれているので、埃まみれにならなくてすむ。のそのそと四つん這いで奥まで進むと手を伸ばす。掴んだのは桃子の半分くらいの大きさの編み箱だった。
上にはパタンと閉じる蓋が付いている。蓋を押し上げると、透明な瓶が一本入っていた。この編み箱は桃子の宝物入れだ。バル様がなにか買った時に入れられるように用意してくれたものである。
瓶はロンさんに頼んで料理長さんから使っていないのを一つ貰った。五歳児でも両手で持てる大きさで、コルクの栓がしてある。中には数枚の銅貨と白銀貨が入っていた。
「今日のお金を入れておこうっと」
桃子はポケットから巾着を出すと、そこから白銀貨を2枚、瓶の中に落とす。チャリチャリーンといい音がした。
「へそくりー」
正しくはプレゼント用の貯金のつもりだ。お金はあんまり持ち歩きたくないので、桃子は必要だと思うお金以外は全部この中に入れることにしている。こつこつ溜めていけば、お屋敷の人達にもちょっとした贈り物が出来るかもしれない。なにがいいかなぁ。お洒落なハンカチ? 花束? お菓子? こうして悩むのも楽しい時間だ。
桃子は瓶を戻すと、再び四つん這いでベッドの下から抜け出る。お掃除のメイドさんはともかく、ここならバル様には絶対にバレない。寝る時は一緒の部屋だしね。
「疲れたなぁ……」
ちらっとベッドを見ると、誘惑された。こっちおいでよ、ちょっとだけ横になって休憩したら? ケーキが出来るまでの時間なら大丈夫だよ。ほら、真っ白なシーツに飛び込んでおいで!! ……ちょっとだけ、いいよね?
桃子はベッドによじ登ると、白いシーツにダイブする。ぽふっと受け止められて幸せになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます