43、モモ、胸をわくわくさせる~神様からの贈り物は一番嬉しいものでした~前編
……ううん、重いよぅ。桃子は身体の上に圧迫感を感じて目を覚ました。ぼやけた先にバル様が険しい顔で見下ろしていた。うん? どういう状況?
「どうしたの、バル様?」
「……モモか?」
「え? うん、もちろんそうだよ?」
なんで今更そんなことを聞かれるのだろう。首を傾げて答えると、バル様の眉間から皺が消えて、ため息をつきながら上から退いてくれた。とってもお疲れ?
バル様はシーツを桃子の肩までしっかりとかけ直すと、目を逸らした。
「身体が大きくなっている」
「え……えぇ!?」
桃子は慌てて起き上がった。その瞬間、シーツから肌が見えかけて慌てて胸元を押さえる。うわっ、本当に戻ってる!? シーツの中では五歳児の洋服が散り散りに破れていた。要するに今度は十六歳で全裸というわけだ。
さすがにこれはアウトだよぅ。恥ずかしくてシーツに潜り込むと、バル様にシーツの上から頭を撫でられた。
「違和感に目覚めれば、腕の中にお前が居たから少し焦った。押さえつけてすまなかった。待っていろ、お前の服を頼んでくる」
「お願いします……」
シーツの中でもごもごと返事を返すと、笑う気配がして足音が遠ざかる。バル様からしたら、いきなり全裸の女の子が一緒のお布団に居たんだからびっくりさせたよね。自分の手をしみじみと見下ろす。十六歳の私の手だ。にぎにぎして感動する。こそっとシーツから顔を覗かせて天井に向けてお礼を伝える。
「軍神様、ありがとうございます」
これはガデス様の贈り物だろう。半日だけと言っていたけれど、それでも戻れたのが嬉しい。お昼まで何をしようかなぁ。今ならお手伝いも出来る。全然足りないだろうけど、少しでもバル様達に恩返しがしたい。何をしたら喜んでくれるだろう。それを考えるだけで、わくわくしてきた。
十六歳につかの間戻った桃子は、レリーナさんを筆頭にしたメイドさん達三人に囲まれて、お世話を受けた。服は着替えられると訴えたので着替えさせられる難は逃れたものの、現在、髪を整えられております。
五歳児が十六歳になっちゃったから、嫌がられちゃわないかなと心配していたのに、きゃあ! っと黄色い悲鳴を上げられた。普通の容姿の桃子に悲鳴を上げる理由がわからない。日本人マジック? 日本人の顔は童顔に見えるっていうもんね。
実際、皆背がモデルさんばりに高い。五歳児の時は小さいから気にしてなかったけど、日本人と外人さんみたいに違うよね。これが身長格差の世界か……。
水色のブラウスに、暖色の膝丈までのふんわりスカートを身に着けると、レリーナさんが恍惚とした顔でため息をついた。
「小さかった時と変わらずに、モモ様は成長してもお可愛らしい。こちらのお洋服もとてもお似合いです」
「えぇ、本当に。これはあの方の鉄壁の無表情にもヒビが入るかもしれませんわ」
「うふふ、さぁさぁ、バルクライ様がお待ちです。モモ様、参りましょう?」
上品な笑い方をして、メイドさんが扉を開く。桃子は一階で待つバル様の元に向かう。服は可愛いけど、顔は見慣れた自分のものだしなぁ。自分では似合うのかどうなのかよくわからないのが本音だ。
まぁ、変じゃなきゃいいや。桃子は禁止されていた階段を嬉々として降りていく。下でバル様が待っている。今なら全然危なくないもんね! と調子に乗っていたら痛めた左足ががくっと滑った。
「わぁっ!」
「きゃあっ、モモ様!!」
後ろで悲鳴が上がる。女の子らしい悲鳴を咄嗟に上げられない自分を残念に思いながら、桃子は前のめりに落ちていく。うぅ、これ絶対痛いパターンだ。ぎゅっと目を閉じて、身体を丸めてせめて受け身を取ろうとする。とさっと軽い音がして何か弾力のあるものに身体が当たった。
吐息と一緒に美声が落ちて来た。
「階段は危ない。ゆっくり降りた方がいい」
「バル様……」
端正なお顔が間近にあってどきっと心臓が跳ねた。……なんで? 桃子は不思議に思いながら胸を押さえる。それをバル様に鋭く見とがめられた。
「痛むのか?」
「う、ううん! 痛くない。ちょっとびっくりしただけだよ。助けてくれてありがとう、バル様。もう大丈夫だから下ろして?」
「いや、このまま運ぼう」
「えぇ!? あの、今は恥ずかしいよ……」
「……駄目だ」
目の前で落ちかけたからか、心配してくれているようだ。バル様は桃子をお姫様だっこしたまま、階段を下りていく。周囲からの温かい視線が居たたまれない。五歳児ならともかく、十六歳に戻ったら、羞恥心も戻って来たようだ。顔が熱を持っている。うぅ、優しさが辛いよぅ。
一階まで降りきるとバル様はそのまま食堂に向かっていく。あれぇ!? 下ろしてくれるんじゃあ……?
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