第50話 幼児退行


 加賀副隊長このみと山田がいた場所は命令違反だ。


 しかし、山田は死亡しており加賀副隊長は呆然と下を向いており何か聞ける状態ではない。


 倒れている襲撃犯を尋問しようと胸ぐらを掴んで立たせようとするも、そこに倒れていた全員が死亡していた。


 最上隊長や近藤の攻撃は致命傷となるようなものではなかったはずだったが。



 山田の遺体だけでもほうむってあげたいところだが、時間と体力を割きたくはない。


 山田を仰向けに寝かせ、まぶたを閉じさせるとその横にミネラルウォーターを置き、西へ歩きはじめる。


 少しだけ気を取り直したこのみは山田のほうをちらりと見て涙を流した。




 山田が背負っていたバックパックを近藤が背負い、瞬が近藤のバックパックを背負うことになった。瞬のバックパックには少量の水と食料が入っているのみである。


 2時間歩くころには加賀副隊長も顔に少し精気が戻ってきていた。


 現在は近藤、瞬、凛、加賀副隊長、最上隊長という順番で進んでおり、10メートルくらいの距離に全員がいる。


 加賀副隊長が仮眠を取れていないこともあって休憩を取ることにした。


 時刻は午前4時15分


 2時間休憩することとし、最上隊長と近藤は立哨して周囲を警戒する。


 加賀副隊長は少しほっとしたのか休憩と同時に眠ってしまった。


 このみを真ん中にして瞬と凛は川の字になって横になる。


 自分たちよりも12歳は上であるこのみがなんだかひどく子どものように思えた。


 凛はこのみの短い髪の毛をなでつける。


 うなされているのかこのみの額には玉のような汗が浮かんでいる。



 2時間の休憩が終わり再出発となった時、困った事態が起きていた。


 このみが幼児退行してしまったかのように、あーとかうーといった言葉しか発せず凛にべったりくっついて離れないのだ。


 女王様系のキャラと言っても過言ではないような加賀副隊長の変わりように驚くが、凛が歩くとどうにかそれについて歩くことはできた。


 今は脱出することが最優先でこのみはとりあえずこのままで歩いてもらうことにした。

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