第5話 林三佐
教授の話が終わってロビーに戻ると凛が飛びついてきた。
「遅い」そう言いながら腕をまとわりつかせる。
「ああ、ちょっと話したいことがある」
「大丈夫?顔が青いよ?」
「大丈夫、じゃないかな」
「なにがあったの?」
「家に着いてから話すよ」
2人はきまずい沈黙のまま西ヶ原のマンションまで一緒に戻った。
金曜日、2人でゼミ室を訪れると明らかに一般人と異なる雰囲気を持つスーツ姿の男性が教授と一緒にいて、2人が入ってくると視線が注がれた。
「情報本部の林です」そう言って名刺を差し出す。
肩書は情報本部三佐となっている。
どうもと言いながら受け取り、「神木瞬です、こっちが木島凛」瞬の後ろに隠れるように立っている凛を指さして紹介した。
「端的言えば、神木さんの研究には我々が資金を提供する価値があるということです」
林が切り出した。
「神木さんには現状の研究を進めて頂きたい、そして何か進展があれば逐一我々に報告を頂きたいということです」
「資金は毎週15万円、何か特段の進展がある場合はさらにボーナスを出します、期間は12週間」
「私たちに断る選択肢はあるんですか?」凛が少しだけ強い口調で問いかけた。
教授と林は互いの顔を見合わせた。
「ないっていうことですか」瞬が察してそう呟いた。
契約書が提示された。
先ほどの報酬と情報漏洩の際の違約金、その額が飛んでもないほど高額だった。
それを神木と木島がそれぞれ2通ずつサインし1枚を林に渡し、1枚を自分の控えとした。
身分的には非常勤の国家公務員らしい。
2人は次の週から12週間大学の授業を公休扱いとされ出席しなくていいということになっていた。
石田教授曰く成績も全て優にしてくれるらしい。
林三佐から今後の報告と情報解析用に超軽量のノートパソコンを貸与された。
神木がそのパソコンを受領したが、その軽さに驚いた。
スマートフォンくらいの重さしかないのではないかと思えた。それでいてWi-Fiがなくても通信でき、対衝撃性能があり、防水らしい。
神木は機械ヲタクなところもありパソコンにかなり興奮していた。
どのメーカーが作っているのか知りたかったがメーカーのロゴは入っていない。ただ、防衛省からの貸与品ということはおそらく日本のメーカーのどこかなのだろう。
「一つ質問していいですか?」瞬が切り出した。
「私に分かることであれば」
「防衛省や政府は魔女のこと、どこまで掴んでいるのですか?」
「私のような立場の者にはそれは分からないな、それに知っていたとしたらなおさら答えられないだろう」
「なるほど」
最後に必要なものはこれで買ってくれと言われて封筒に入った現金を渡された。
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