第2話 形成

彼について考えた事は自分でも不思議なくらいほとんど無かった。彼に初めて会ったあの年から20年近く経っているということもあるが、それを差し引いても彼は48個目に嵌めたパズルピースのように覚えにくい顔だった。そしてあれこれ考えているうちに彼の声色、身長、着ていた服等の食べかけの記憶が脳を浸し、しわにじっくりしみこんで脳を彼との透明な思い出の色にしていくのを侵された脳で足を動かしながら感じていた。遭難していた僕を介抱し、少なくとも学校よりかは役に立つアドバイスをくれた彼に今一度礼を言いたいという美しい理由を表面に、ただ彼を思い出して彼と同じ空間にいて慎ましい悦に浸りたい心情を裏面にして、ただその不純な動機を原料に坂を登った。僕はそれらを頭で掻き回し、絶えず意識を彼に向けていたので前から女性が下って来る事に気づかなかった。深く考えなくても山奥で、ましてスーツの女性が歩いてるのは異質なことだった。そしてこのことを気にするのは、この場所では木に止まっていたメジロを含めて誰も居なかった。

しばらくするとゴツゴツした岩や急な斜面により道が険しくなり、彼と、僕の彼に対する感情を思考することすらも濾過され始める。そして透明な脳のしわから彼との記憶でできた水玉が踏み出すたび汗と息と共に溢れて気化し、ようやく脳が砂漠になった時、彼の家が見えた。

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