(二)-8

 そして店を出て、港を行き交う人たちなどにも父のことを聞いてみた。

 港の管理をしている男性は長くここで働いているが、父のことを尋ねると「そんな人間見たことも聞いたこともない」と言った。

「実際には見たかもしれないし、聞いたことがあるかもしれない。でもこの港は小さいとはいえ、船乗りは毎日大勢出入りする。もちろん商会の人間や船長みたいな人間なら話をするが、ただの水夫とは話しなんかしない。俺には俺の仕事があるからな。船乗りたちの顔や名前なんか、いちいち覚えてらんねえよ」

 僕たちが生まれ育った漁村では、出入りする船はみんな地元の知り合いばかりだった。だから、この男性の話はそういうなものなのかと思った。


(続く)

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