救いの在り方
ちじん
第1話
いつかSNSで呟きを残した。少し前、友人に笑いながら話した。最近、家族に諦観を込めて告げた。この価値観は、きっと醜いものなのだろう。
しかしながら、きっと一定数は理解してしまえるものなのだろう。嫌われ、いじめられ、孤独を好むようになり、歪められた価値観。
……最初はただの自虐ネタだったはずだ。けれど、それを否定してくれるような人は身近に居らず、何度も言っているうちにそれが芯になっていた。しかもそんな歪んだ価値観は、諦観と妥協と、支えとなる趣味を作った。
それらは皮肉にも趣味の合う友人と、失いたくないと強く思う親友を引き寄せ、決して間違っていないのだと疑う機会を失わせた。とんだ麻薬のような代物である。決して良い価値観ではないとわかっていても、自己嫌悪を進め続けるだけの悪癖だと自覚していても、この価値観に救われたならば、もはや疑うことはできない。
────少なくとも、俺にはできなかった。
「僕を好きになるような人は、趣味の悪い変態でしょ」
*
「……ん?あれ、なんで外こんなに暗いんだ?」
ある初夏の放課後、俺は帰りのHRが終わってしばらくラノベを読んでいたのだが、徹夜でゲームしていたことが祟って気づかぬうちに爆睡していたらしい。口の中の不快な感覚と痛む身体に苛立ちを覚えながら時計を見てみれば、その針はもうすぐ六時を指し示そうとしていた。
「……マジかぁ」
スマホをスリープ状態から起こしてみたところ、親から連絡は来ていなかった。恐らくまだバイトから家に帰ってはいないのだろう。だが連絡は時間の問題だろうと、無料通話・メールアプリの『繋がり』を開いて「寝てた。今から帰る」と送る────
「おはようございます、萩村くん」
────と同時、隣から女性の声が届き、思わず肩をビクリと震わせてしまう。
未だ寝起きで、意識が浮いたような感覚の最中だったこともあり、心臓が早鐘を打っている。非常に心臓に悪い。
未だ心臓がうるさい中、恐る恐ると隣を見てみると、案の定というか女子の姿があった。それも普通に可愛い女子だ。ふわりと優しい笑みを浮かべ、俺を見つめている────が、知らない相手だったために思わず首を傾げてしまう。
「……えっと、誰?」
「へ?」
俺の問いかけに、その女子から笑みは消えて驚愕の表情が支配している。反応から察するにどうやら話したことくらいはありそうだ。
「えっと……同じクラスで、しかも一昨日まで隣の席だったんですけど……」
「あ、本当に申し訳ないです」
知ってるとか知らないとか、そういう問題じゃなかった。同級生の顔すら覚えていなかったらしい。特徴のない顔立ちというわけでもないのにそれって、俺の記憶力がとても不安である。
「……改めて自己紹介が必要みたいなのでしておきますが、私は
……まずい。苗字は授業中の名指しでなんとなく浮かぶし、そういえば声もこんな感じだったなって感じなのだが。いかんせん、一昨日まで隣にいたクラスメイトの顔が出てこない……。
「…………いいです。英語の授業中にペア読みとかもしたはずですけど、もういいです」
明らかに凹んでいる。いいと思っている表情じゃないぞ渡里さん。というか怒っていいんだぞ渡里さん。
「……本当にごめんなさい。そんな薄情な僕にいったい何の御用でしょうか?」
「…………うん、そうだね。これから覚えてもらえばいいし」
と、渡里さんは真剣な目を俺に向ける。あたかも、一世一代の告白でもするかのように。
「
「…………は?」
本当に告白でした。
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