緑の一陣の風
シメ
第1話
ぼくの町では郵便配達の人たちは空を飛ぶ。
といっても自力で飛べるわけではなくて、小型の翼竜に乗っているのだ。
お日さまが真上にある頃に空を見上げると、何頭もの翼竜が配達人と手紙を乗せてバサバサと飛んでいく姿が見える。翼竜につないだ手綱を握り、空を飛ぶ配達人の姿はとてもかっこよかった。
この町にいる翼竜の大きさは大型の馬に翼をつけたぐらい。基本的には草食で、よく配達人は郵便物を届けたご褒美に腰につけたポーチに入れたきのみをあげている。
竜にも色んな種類がいて、基本的には人間に懐かないというのはみんな知ってる話だと思う。でもぼくの町の空を飛ぶ竜はみんな人間と仲良しだ。卵がかえるときに専属の配達人の顔を見せて、大きくなるまで丁寧に面倒を見るとしっかり懐いてくれるらしい。
でも、配達人は自分の竜には他人を乗せることはない。ぼくも一度頼んでみたことがあったけど、決して首を縦に振ってはくれなかった。
ぼくはいつか配達人になりたい。だから運動したり、勉強したり、翼竜を観察したり……とにかく翼竜に乗るために必要なことを毎日していた。熱心すぎて友達に呆れられているのは知っていたけど、本当になりたいんだから必要なことだ。
配達人のイェスタフさんはそんなぼくにとても優しくしてくれた。
イェスタフさんはぼくの家のある地域の担当だった。まだ配達人になりたてのお兄さんだったけど、ぼくからしたら翼竜さばきや町の人たちとのやり取りはとても上手に見えた。イェスタフさんが翼竜に乗って空を飛ぶと、後ろで一つにくくった長い髪の毛が風になびいてまるでしっぽのように見えた。
そんなイェスタフさんは郵便を届けるついでによくアメをくれたり、色んな話をしてくれたり、何より相棒の翼竜を近くで観察させてくれた。
イェスタフさんの翼竜は「
そしてとても温厚な竜だったので、ぼくが近くでじっと観察していても特に気に留めるような様子もなかった。イェスタフさんはぼくとフォルフィッタの様子を見てよく嬉しそうに笑っていた。
でも、そんなフォルフィッタでもさわることは許されなかった。お母さんからも、お父さんからも、もちろんイェスタフさんからも、「絶対に竜にはさわっちゃいけない」と何度も言われてきた。運が悪いと、食べられて死んでしまうかもしれないからだ。
隣の町の女の子が竜に食べられて死んだのだと噂で聞いた時、お母さんはまる一日ぼくの行動を観察する勢いで心配してきた。
フォルフィッタを観察するぼくを観察するお母さん、そしてそれを眺めるイェスタフさん。「私がいるから大丈夫ですよ」とイェスタフさんが三回言ってから、やっとお母さんは納得して家の中に戻っていった。
お母さんは心配性すぎる、とぼくが言うと、イェスタフさんは「親はみんなそういうものだよ」とぼくの頭を撫でた。そして甘酸っぱい果実のアメをくれた。フォルフィッタにはまんまるなきのみを食べさせた。
イェスタフさんは「そのアメはフォルフィッタの食べてるきのみから作られてるんだ」と言った。ぼくはなんとなく嬉しくなった。
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