一章 学園編入と共通点のある銀髪 その6

「……ってことで、改めて聞くけど。どうしてもダメか?」

「あ、貴方ねぇ……!? 勝手に話を進めた挙句それは無いでしょ!?」

「話長くなりそうだったからな。お前が首を縦に振ればそれで終わるし?」

 フューラの精一杯の文句にも全く悪びれることも無くセルトは言う。

 言い方と得られた結果はどうあれ確かに話は丸く収まっている。

「なんか勝手に約束も取り付けられたから、組んでくれると本当に嬉しいんだが」

 えて煽るような真似をしたのは、二人して追い詰められた状況を作る為。

 勧誘成功の可能性を少しでも高める為にやったことだとフューラは薄々気づく。

「私まで逃げたことになるってこと……? それだけは嫌よ、私は」

「存外賢い。分かってるなら同意してくれよな」

 明日の面倒ごとよりも、まずはこの先も続くであろう厄介ごとの解消を。

 チームのメンバーを見つけるという難題を先延ばしにだけはしたくなかった。

 ある意味でめられたフューラはセルトを睨み付けるが、セルトは意にも介さない。

 それどころか当初の予定であった昼寝の体勢にいそいそと入り出す始末だった。

「……貴方は、私がチームに入れば喜んでくれるの?」

「え? そりゃ喜ぶだろ、このままじゃ学園から追い出されるし」

 せっかく手に入れた平穏を手放さなくて済むとなれば喜ばない訳が無い。

 適当に取って付けただけの発言だったが、どうやら少しは彼女に響いていたらしい。

 そういえば無理矢理チームを抜けさせられていたな、とセルトは一度身体を起こす。

「お前がチームを抜けるのは勝手だが、俺は絶対に切らない。また他探すの嫌だからな」

「!! 貴方って、呆れちゃうぐらい正直者なのね……」

「無駄に建前言ったところでどうせすぐにバレるからな~」

 セルトが言いたいことを理解したフューラは不意に微笑を浮かべた。

 要は組めれば誰でもいいということ。裏の意図など一つも無い。

 勇者の娘として期待されていない、肩書きで見られていないことがやけに心地が良く。

「──いいわ、貴方と組んであげる」

 そしてフューラはセルトの勧誘に乗ることにした。

 無事に勧誘出来たセルトは、彼女の発言を聞いてご満悦だった。

「セルト=ハーレスティアだ。今日は名前だけでも覚えて帰ってくれよ」

 簡潔に自己紹介だけ済ますとセルトは日陰に移ってゆっくり腰を下ろす。

 今日やることは無くなったのでそのまま惰眠をむさぼろうとしたのだが。

「フューラ=カルベリアよ。誇り高き勇者の娘、よく覚えておきなさい」

 フューラの自己紹介を聞いて、セルトは少しだけ目を見開いて彼女をよく見る。

「……やっぱギャラガさんの娘だったか。そういや髪とひとみの色が同じだもんな」

「!? お、お父様の知り合いなの!? ……もしかして、編入したのも」

「そ、あの人に誘われた。娘なら言っといてくれ、『よくもだましたな』って」

 そして言いたいことは言い終わったのか、セルトはその場に寝転んで目を閉じる。

「んじゃ、俺は昼寝するから~。今後ともよろしく~」

 そのまま完全に寝る体勢に入ったセルトに、フューラは呆気に取られる。

 聞きたいことは山ほどあるが、有無を言わさぬ態度の前にそれもはばかられた。

「セルト=ハーレスティア……。一体何者なのよ、こいつ……」

 結局フューラがちゃんと知れたのは、唯一教えてもらった名前だけ。

 そのつぶやきは閑静でひとのない校舎裏に吸い込まれていった。


    *


 翌日チーム編成の申請を学園側に提出し正式にセルトはフューラとチームを組むことになったが、もちろんチームランクは最低のFから始まることに。

 そしてセルト達は彼等との約束の十五時ギリギリに第三演習場に到着。

 原因はセルトの寝坊と迷子。今も尚眠そうにしているのだから緊張感が無い。

 二人は控え室のような場所で模擬戦開始の合図を椅子に座りながら待っていた。

「十五時は遅いよなぁ。やらなきゃいけないことがケツにあると、惰眠もままならん……」

あきれるぐらいののんさね……。今からBランクの相手とやるっていうのに」

 チーム対抗の模擬戦。唯一チーム間でポイントの移動があるが、上のランクからすればデメリットしかないということで同ランク以外では滅多に組まれることが無い。

 しかし今回ばかりは状況が違う。セルトの煽りによって組まれた今回の模擬戦は、ランクだけ見れば格上対格下という滅多に無い異例の対決になっていた。

「こっちには失うものが無いんだから当然気を張る必要も無いな」

「……確かにそうね。あっちが負ければ恥をく、そう考えると気が楽だわ」

 つまりこちら側に気負う必要など全く無い。フューラは少しだけ息を吐いた。

 反対方向の控え室で彼等は一体何を思っているだろうか。自分達が負けるなどじんも思っていないか、それとも今更になって少しだけ不安を覚え始めている頃か。

「一応言っておくけど、相手は普通に強いし全員が高名な家の出身で個人順位は百位を切ってるわ。こっちは二人だけだし簡単に勝てる相手じゃないのは間違いない」

 全体の人数が八百人強なので、相手は全員が選ばれし強者ということになってくる。

 翻ってセルトは何もしてないので最下位、フューラは一年にしては高いが四百位程度。

 はたから見れば全く勝ち目のない勝負だが、それを聞いてもセルトの表情は変わらない。

「そういや、お前はこの勝負勝ちたいのか?」

「当然やるからには勝ちたいわ。……私を切った彼等を見返してやりたいしね」

「そうか。俺は正直どっちでもいいから適当にやらせてもらう」

 そもそもこれはフューラの勧誘を円滑に行う為に持ち掛けさせた蛇足の勝負。

 勝敗はセルトにとって重要ではない。むしろ負けた方が早く終わるなら負ける。

 そして勝つ方が早いなら勝つ。そんなふざけたモチベーションで臨んでいる。

「……貴方あなた、確か私に借りがあるわよね?」

 適当にやる。それは勝てると思っていなければ出てこない発言だとフューラは解釈。

 それならば、いちの可能性に懸けてみるのも悪くないと交渉を始めた。

「そんなのあったか?」

「学園への道を教えた、貴方の為にチームを組んだ。二つもあるわよ」

「ふむ……俺みたいに忘れてればよかったのにな」

 提示された二つの借りを前にして、セルトはフューラの言いたいことを理解する。

「要は勝つ為に協力しろと。そう言いたいわけだ」

「えぇ、そうよ……というかチームなら当たり前のことだからね!?」

「当たり前を押し付けるな!! 俺は編入生だぞ!!」

 そうは言ったものの確かに借りっぱなしというのも今後に響いてくる。

 これで弱みを握られるよりはマシか、とセルトはおもむろに立ち上がった。

「いいよ。勝たせてやる」

 あまりにもごうまんな発言だが、妙な説得力があるとフューラは思わず気圧される。

「今後変に絡まれるのも嫌だしな、うん。二度と手を出せなくしたろ」

 そしておよそ最下位の一年生とは思えない強気な発言が続く。

 相変わらずやる気が無さそうなのは変わりないが、口元には笑みが浮かんでいた。

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