一章 学園編入と共通点のある銀髪 その5

 翌日。昨日の一件が生徒間で噂になっており、セルトへの注目度が上がっていた。

「聞いたか? 例の編入生があのシュルキを一方的に倒したっていう話」

「それも虐められてた生徒を助ける為とか。私ちょっと見直したかも」

「つっても結局順位は最下位なんだろ? 実際は何かの間違いなんじゃね?」

 その注目のされ方は大きく二分されている。肯定的な意見もあれば、もちろんのこと否定的な意見もある。それでも、当初よりは彼を見る目は少しだけ変わっていた。

 少なくとも、昨日と今日では明らかに否定的な意見が減ってはいた。


「……? 何だか今日はやけに周りが騒がしいわね……」

 そんな中、学園内を一人歩いている少女が、周りのけんそうを気にしていた。

 歩く姿は実に優雅でかつたんであり、そうしているだけで人の目を集めてしまう。

「あ、フューラさんだ!! 相変わらずしいなぁ、あこがれちゃうよ」

「実にれんだ……。是非ともお近づきになりたい……」

「無理無理。だってあの勇者様の娘だぜ? 俺達みたいなのは相手にされないよ、それこそ入学直後にいきなり上級生のチームに誘われちゃうぐらいなんだからさ」

 フューラと呼ばれた少女を見た生徒達はその美しい容姿にれ、たたえている。

 そして彼女こそこの学園の創始者である勇者の娘。目立ってしまうのも道理だった。

「それにしてもこんなところに急に呼び出すなんて、何の用かしら」

 疑問を口に出しながら、フューラはチームを組んでいる人達の呼び出しに応じていた。

 今日は特に集まる予定などは無かった。そして呼び出された先は本校舎の裏。

 とにかく彼女もチームのメンバーに言いたいことがあったので、早足に向かう。

 そこで待っていたのは三年生の男女三人。現れたフューラを見て、すぐに口を開いた。

「──来たな。お前、クビだ。今日限りでチームを抜けろ」

「はぁ!?」

 そして開口一番のその宣告に、フューラは思わず声を荒らげる。

「い、意味が分からないわ!? ちゃんと説明しなさい!!」

 予想外だったその展開に、フューラは彼等に詰め寄ってその真意を問う。

 問われた三年生達は、三者三様にあきれたような表情を隠さなかった。

「勇者の娘ってことでチームに入れてたが、これ以上足引っ張られるのも迷惑なんだよ」

「実際剣の腕前も魔術も大したこと無いし。その割には一人で勝手に突っ走るからフォローが本当に大変なんだよね。言っておくけど全く役に立ってないから」

「その上にわがままぎよし難い。クエスト決める時にめるのももう嫌なんですよ」

「!! ……それは」

 一斉に告げられたのはフューラに対しての不満と文句。そのどれもが思い当たる節があるのか、フューラは先程のように強く出られていなかった。

 思わず口に出てしまうぐらいの悩み。全く上手うまくいっていないことは分かっていた。

「本当に期待外れだったよ。お前ので思うようにランクも上がらないし」

 リーダー格の少年は制服の胸に付いている勲章をいじりながら言う。ランクのあかしであるそれはBランクを表しているが、彼等はその程度であることが不満であるらしい。

「他の生徒から憧れられてるのも容姿と肩書きだけだよ? 気付いてた?」

「三人で話し合った結果です。納得していただけるとうれしく思います」

 どうやら三人の意志は固いようで、彼女を外す話はどんどん進んでいく。

「ちょっと待ってよ……。私、もっとやれるように頑張るから……」

 今日彼等に会って言おうと思っていたことをフューラはようやく口にする。

 ばんかいするチャンスが欲しい。その為の努力なら惜しまないと続けて言おうとしたが。

「もういらないんだよ。勇者の娘の癖に弱いお前は、誰だって持て余す」

「ッ!!」

 そして彼女が一番気にしていたことをストレートに告げられた。

 周りからの期待にこたえられていない、認めてほしい人にも認められていない。

 自分が正しく勇者の娘であることを証明する為にこの学園で首席を取る。それが目標。

 こんなところでつまずく訳にはいかなかった。だから彼女は食い下がる。

「まだまだ未熟なのは自分でも分かってるわ!! それでも、私は──」

 なんとか彼等を説得しようと、声を荒らげながら自分の想いを口にしようとした時。

「──あ? なんだよ、先客居たわ……。そこ日陰だから寝るのに丁度いいんだけど」

 不意にその場所に向かってゆっくり歩いてきたのは、噂になっている編入生。

 彼はボサボサの髪をきながら全く覇気の無い顔で四人を見ていた。


「あ、貴方あなたは、この前の……」

「……あぁ、この前の銀髪少女じゃん。あの時は助かったわ、結局迷ったけど」

 フューラは彼に見覚えがあった。つい数日前に学園までの道を教えた少年だ。

 学園の制服を着ているということは、この学園の生徒になったということ。

 それが驚きなのか、フューラは彼等に伝える言葉を置いて心底意外そうな顔をしていた。

「おい、邪魔をするな。今大事な話をしてるんだ」

 忠告されたセルトは、彼の勲章についているリボンの色が青であるのを確認する。

「取り込み中でしたか、それは失礼。じゃあ、そこ空くの待ってますね」

 上級生らしいので敬語で対応。邪魔をする気も無いのでその辺の壁に身体を預ける。

「……いや、邪魔だからどっか行けって意味だったんだが!?」

「あ、お構いなく。空気のようなものだと思ってくれればそれで」

 そして大きな欠伸あくび。早く気持ちよく昼寝をしたいのか、そこを動く様子はなかった。

 そのあまりのマイペースぶりに四人はあつに取られるが、すぐに話を再開させる。

「はぁ……とにかくもうあきらめてくれ。もう何を言われても撤回するつもりはない」

 突然の乱入者で勢いががれたのか、やんわりともう無駄だとフューラを諭す。

(なんだ、何か揉めてたのか。長くならないといいんだけど)

 黙ってその様子を見ていたセルトは、正直早く終わってほしいと思っていた。

 場所を移動しようかとも思ったその時、彼の耳がとらえたのは興味深い発言。

「てか、他の誰かとチーム組めばいいだけじゃん。また拒絶されるのが怖いの?」

「……そんなことない。そんなこと、ないわ……」

 話が平行線を辿たどりそうなところで少女がまたフューラを追い詰めていく。

 そこでようやくセルトは、そこで行われていた話の全容というものを理解した。

「空気扱い撤回します。それ立候補してもいいですかね?」

 そしてセルトはノータイムでその話に唐突に割り込んでいく。

 こちらから探すことも無く、チームメンバーが見つかりそうな好機を逃すまいと。

 再びのセルトの乱入にその場の誰もがまた置いて行かれていた。

「もっとストレートに言った方がいいな。銀髪少女、俺と組まないか?」

 そして伝えたいことだけを簡潔に。無駄を省いて空気も読まずに勧誘をしていた。

「は、ははは!! 良かったじゃんか、こんなに早く他が見つかって!!」

 思わぬ助け舟にリーダー格の少年は大笑いし始める。周りも同様に笑っている。

「ちょ……!! 貴方、余計なこと言わないでよ!?」

「いや、普通に無駄な抵抗っぽかったから。え、ダメか?」

「だ、ダメとかそういう問題じゃなくて、タイミングが最悪って言ってるのよ!!」

「俺からすれば最高のタイミングだったわ。で、ダメなの?」

 自分の利益しか見ていなかったセルトはお構いなしに勧誘を続けていく。

 その謎の押しの強さにフューラはされるが、何とか持ちこたえて二の句を継ぐ。

「だから!! 私はまだ諦めてないの、その邪魔をしないで!!」

 途中から聞いていたセルトでも明らかに厄介払いをされているのは分かる。

 それでも諦めないと言うその理由が分からないセルトは疑問を呈した。

「いいこと一個もなくねーか、これ以上あの人らと組み続けても。性格悪そうだし」

「……はい?」

 セルトは彼等を指差して、思っていたことをそのまま言葉にする。

 フューラはその言葉に大口を開けて、目を点にしながら呆気に取られていた。

「その点俺は優良物件だ。休みも多くするし、何より俺がとても喜ぶ」

 そしてそのまま自分を売り込み始める。その売り込み方も何とも微妙だった。

「つか聞き捨てならねぇこと聞こえたぞ!? 誰が性格悪そうだって!?」

「すんません、今彼女と交渉中なので黙っててもらえますかね?」

「っ、クソ生意気だなこいつ……!!」

 絶好の機会を邪魔されたくないセルトは先輩達に対しても非常に塩対応。

 セルトは半分無自覚に彼等をあおっている。もう半分はちょっとした打算があった。

「お前絶対後悔することになるぞ!? そいつは足手まといにしかならないんだ!!」

 混乱しているのか忠告とも取れるような形で彼はセルトを追い込む。

 それを聞いてもなお、セルトは特に気にする様子も無かった。

「あれ、思ったよりいい人だったか? つっても、り好み出来る身分でも無いんで」

 そしてセルトはフューラの肩をポンとたたいて、三人の先輩を見やる。

「実はあんたらがこいつを上手く扱えなかっただけだったりしないですかね? チームを抜けさせるのも手間取ってたみたいだし、相性の問題もあるかもしれないですわ~」

 まるで自分ならもっと上手くやると言わんばかりのその発言。

 それは的確に彼等の地雷を踏みぬいていたのは言うまでもなかった。

「良い度胸だな……。俺達にけん売ったことを後悔するなよ?」

「嫌だな、喧嘩売っただなんて。事実を事実のまま述べただけですよ」

 あからさまにめ腐った態度を崩さないセルトを前にして、彼は大きく息を吐く。

「お前らに模擬戦を申し込む。その生意気な鼻っ柱ごと叩きつぶすから、覚悟しろよ」

 叩き潰すと大きく宣戦布告をした彼は思い切りセルトをにらみ付ける。

「いいか、明日の十五時に第三演習場に来い。逃げるなよ?」

 大いに気分を害した彼等はセルトの拒否を無視してそれだけ吐き棄てるときびすを返す。

 セルトは頭を掻いてそれを見送る。その場に残ったのはセルトとフューラだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る