第18話〜仲間ではなく〜
「お、主〜。傷の具合はどうだ〜?」
「あぁ、ロウエンおはよう。もう大丈夫だ」
「そうかい。そりゃ良かった」
レイブウルフを倒して三日後の朝。
傷もすっかり治った俺はのんびりと朝の散歩に出かけていた。
散歩を終え、家に戻るとちょうど薪割りを終えたロウエンがいた。
「にしてもそいつらも随分と慣れたもんだな」
「あぁ。慣れてくれて良かったよ」
そう言って二人で俺の足元の二匹の狼を見る。
「ウルとルフか……安直だがまぁ……良いか」
「まさかユミナに懐くとはね」
「驚きだったが、アイツがテイム持ちで助かったな」
「本当、ユミナには感謝だよ」
ウルとルフ。三日前に倒したレイブウルフの子どもで、一緒に散歩に行っていたのだ。
ウルもルフも全体を灰色の毛に覆われている。
違いとしてはウルがオスでルフがメス。
ウルは目が青でルフは緑。
ウルは背骨に沿うように黒い毛が生えており、ルフは耳の先端の毛が白っぽくなっている。
「バウ!!」
「ワウ!!」
二匹共群狼全員に懐いているのが幸いだ。
「それと、ありがとうな」
「……エンシの事か?」
「おう。入るのを認めてくれて」
「ふん。回復を使えるのがミナモだけだったからな。もう一人欲しいと思っていただけだ」
「……そうかい」
「何か言いたそうだな」
「別に?」
「……主も悪くなったな」
「そうかな?」
「ま、成長したって事か」
「グルン!!」
「ワウン!!」
「おうおう。腹減ったな。飯にしような」
「ワウ!!」
「ワフ!!」
尻尾を振りながらロウエンと共に先に家に入るウルとルフ。
その一人と二匹を追うように俺も家に入る。
「あ、おかえり〜!!」
「ご飯できてるよー!!」
家に戻るとミナモとユミナがちょうど朝食の支度を終えた所だったらしく、エンシさんがテーブルに皿を並べ、出来上がった朝食が入った皿を置いている。
「ほーら男子も手伝えー」
「へいへい」
「お、おう。すまん」
ミナモに言われて俺達も手伝う。
木の実と野菜のサラダ、キノコのスープに焼き立てのパン。
フーとウルとルフには生の肉だ。
「お、うめぇなこのサラダ」
「本当だ。この木の実も美味いな」
「えへへ〜。この前エルフの赤ちゃん助けたでしょ? そこのお母さんがくれたんだよ〜」
「そうなのか。今度お礼言わないとな」
「そうだな」
サラダに入っている木の実。
柑橘系の味をしており、サッパリしていてとても食べやすい。
「でも良かった。ハヤテの傷が良くなって」
「本当だね。エンシさんのおかげだよ」
「い、いやいや。私は私のできる事をしただけでして」
「そのおかげで、主はもう動けるようになった。感謝しているよ」
「そ、それなら……良かったです」
皆に向かってペコリと頭を下げるエンシさん。
その姿は騎士だった頃からは想像できない程穏やかなものだ。
「ごちそうさま」
「ワウワン!!」
「ワフ!!」
「グルッ!!」
朝食を終え食器を片付ける俺達。
ウル達も肉をのせていた皿を自分達で持って来て偉い。
フーはフーで二匹も新入りが増えた事もあり、しっかりした所を見せようと頑張っている。
「さて主。今日はどうする?」
「んー? そうだなぁ……」
「特に決まっていないのなら行ってもらいたいクエストがある」
「どんなやつ?」
「簡単な物だ。森で木の実やらキノコやらを採取する初歩のクエストだ」
「マジか……そのクエストに俺達全員で行く必要は」
「無いな。だから主にはユミナとウルとルフを連れて行って欲しい」
「人選理由は?」
「ウルとルフのレベル上げ。それとユミナとの連携強化だ」
「分かった。そっちはどうするんだ?」
「俺はエンシとミナモ共に別の狩猟クエストに行ってくる」
「分かった。気を付けてな」
「主もな」
そう言って俺は少し休憩してから採取クエストへとユミナ達と出かける。
クエストの依頼主はウインドウッド村の八百屋の旦那さんだ。
一応この村にも集会所のようなものがワシブサさんの家の隣にあり、そこに張り出されていたのをロウエンが持って来たのだ。
「えへへ。久しぶりだね」
「ん?」
「こうやって一緒に森に入るの」
「そうだな……あの時はまだ俺達小さかったしな」
「バウ!!」
「ワウ!!」
「今じゃ仲間も増えたけどな」
「だね。賑やかになったね……本当に」
「……どうした?」
「……賑やかになったけど、私が知っているのはハヤテしかいないよ」
「ユミナ……」
「だからね。私、今の皆と仲良くしたい。もう、バラバラになるのは……」
「……そう言えばお前、親父さん残して来たのか?」
「……」
その話題を振って俺は後悔した。
俺を見るユミナの目にみるみる涙が溜まっていく。
「……まさか」
「お父さん、食べられちゃった……もう、私、一人なんだ……」
「……悪かった」
「ううん。いつかは話そうと思ってたから……」
ユミナの家は代々狩人を生業としていた。
狩人の父親に狩人の母親。
母親は彼女が幼い頃に狩りの最中に死に、父親も狩りの最中に死んだ。
幼い頃から狩りに行っていた彼女は母親が死んだのは敵より弱かったから仕方ないと言っていたが、その陰で泣いていたのも知っている。
「……慰めにしかならねぇけど」
「ハヤ兄……」
「ん?」
「ハヤ兄達は、いなくならないで……」
「……あぁ。極力頑張るよ」
泣きながら俺にそう言う彼女の頭を撫でてやる事しかできない。
それがたまらなく悔しかった。
「あ、えっ……ちょっと。くすぐったいよ」
そこにやって来たウルとルフがユミナの涙を舐め取る。
「あはは。励ましてくれてるの? もー……ありがとー」
そのまま二匹を抱きしめながら泣くユミナ。
今だけは声をかけないでおこう。
時にはそっとしておくのも必要なんだ。
そう思い、俺はしばらく周囲の警戒をしていたのだった。
「……ふぅ〜。泣いてスッキリしたー!!」
「なら良かったよ」
「えへへ。ごめんね?」
「謝るなよ。仲間……じゃねぇな」
「ん?」
「新しい家族みてぇなもんだろ?」
「……えへへ〜。その響き、なんかくすぐったいねぇ」
「元気になったのなら良かったよ」
「さ!! 依頼の物集めて帰ろー!!」
「おう」
「ワン!!」
「キャウ!!」
そこからはウルとルフも手伝ってくれた事もあり、探していた木の実やキノコに加え薬屋がもう少しで無くなりそうだと言っていた薬草を見つける事も出来た。
「クン!!」
「ガウ!!」
「おぉ〜……ウル、ルフ。よく獲ってきたな〜」
更にウルはシノビヤマネを捕まえ、ルフはイカヅチウサギを捕まえている。
シノビヤマネは知能が高い小型動物で簡単な命令ならこなせる。おまけに素で消音スキルを持っている為、簡単な潜入を命ずる事が出来るのだ。
おまけに基本は夜行性で動きも俊敏。その為小さな村では見回り役として飼っている所もある。
イカヅチウサギは名前通り電撃攻撃を得意とする小型動物。ただし体内に発電器官を持っていないので共生関係にあるビリビリマイマイから電力を補給するか自身の毛を擦り合わせて発電するしかない。
ビリビリマイマイとは体内に発電器官を持ったカタツムリのような生物だ。
ただ蓄電量がそれ程多く無いので許容量を超えると強制放電してしまう。
その放電した電気をイカヅチウサギは吸収して体内の蓄電器官に蓄えておき、敵に襲われた時に使うのだ。
現にルフに咥えられながら放電しているが、ルフはその電撃を吸収している。
子どもとはいえレイブウルフだ。
おそらく俺達と出会う前に蓄電能力を持つ獲物を食べたのだろう。
イカヅチウサギの電撃を受けてケロッとしている。
対するウルは電撃が苦手なのか、バチバチッという電撃の音を聞いて尾を股の間に丸めてしまっている。
「ウルとルフ、よく獲って来たな。偉いぞ〜」
獲物を獲ってきた二匹の頭を撫で褒める。
褒められた事でもっと褒められようと思ったのか、新たな獲物を獲りに行こうとする二匹。
「あ、おい。待って」
「ダメだよ〜。もう帰るよー」
「クゥン……」
「ウゥン……」
ユミナの言葉に耳を倒して落ち込む二匹。
だが二匹ともまだ成体ではないので無理はさせられない。
二匹には悪いが、目的の物も入手できたしさっさと帰る事にする。
「……また来ような」
「……ウォン!!」
「ウォンウォン!!」
二匹の頭を撫でながらそう言うと楽しみだとでも言うように尻尾を振る二匹。
ここの近くに来る依頼があれば来よう。
その時はウルとルフも連れて来れたら良いなと思う。
そのまま二匹は俺達の周りを楽しそうにグルグル周りながらウインドウッド村へと帰った。
「はい。ではこちらが報酬になります」
「ありがとうございます。では」
「またお願いしますね」
俺は窓口に納品し、ユミナには医者の元に薬草を持って行かせた。
こっちはすんなり終わり、簡易集会所をあとにする。
ユミナの方もすぐに終わったのだろう、俺が外に出た時にはもういた。
「待たせた?」
「ううん。ウル達があっちこっち走っちゃったからホントに今来たところ」
「そっか。待たせなかったのなら良かったよ……二匹ともありがとうな」
「ガル!!」
「ウォン!!」
俺の礼に軽く吠えて返事をする二匹。
そのまま俺達は、受けている依頼もないので家に帰る事にした。
「ウル達のおかげですんなり終わったな」
「そうだね〜。やっぱ鼻が効くからすぐ見つけてくれたし、ほんとウルとルフ様々だね」
「そうだな。でも、こいつ等の母親……」
「……私達が殺したね。でも、彼等はそれを知ったうえで私達について来た」
「……やっぱ分かるのかな」
「そりゃあれだけ戦ったんだもん。匂いだってついている。バレない訳が無いじゃん」
「……」
「でもウルとルフは、そんな母親の仇である私達を受け入れて私のテイムを受けてくれた。嫌な相手だったら、テイムに失敗していて今頃逃げられているよ」
「……そうか」
「だから、気に病む事は無いと思うよ」
ニコリと笑って話すユミナ。
「ほら、私ってよく狩りに行っていたからなんとなく分かるんだ。あのお母さんウルフはさ、私達になら子ども達を託せるって思ったんだと思う。だから子ども達が心配しない様に立ったまま逝った。彼女なりに最後に見せた、親の愛だと思うよ」
「……そっか」
「だーから!!」
「うわっ!?」
バシッと俺の背中を叩くユミナ。
「そんな辛気臭い顔しない!! ウルとルフが心配しちゃうよ」
「……そ、そうだな」
「家族に心配かけさせちゃ、ダメだよ」
「家族、か……」
「ハヤ兄が言ったんだよ? 新しい家族みたいなもんだろって。だったらさ、笑って」
「……おう。ありがとな」
そうだ。
ウルとルフを仲間に入れたんだ。
彼等を幸せにしなければ、あの時に討った母親に怒られてしまう。
あの母親に心配をかけさせないためにも、しっかりしないとな。
と思っていると
「あ、ハヤテ兄ちゃーん!!」
「お、ハモル。どうした?」
「壊れたから直して!!」
「お前なぁ……ちょっと貸せ」
俺の元に駆け寄って来たエルフの子どもから壊れたおもちゃを受け取り、直して返す。
「ありがとー!!」
「おう、もう壊すなよ!!」
「あーい!!」
ここに来て俺達だけじゃなく、彼等も俺達にだいぶ慣れてくれた。
おかげで今では村の一員として認められている。と思う。
俺だけじゃ無い。
ロウエンはこの前エルフのお婆ちゃんの家の戸を直していた。
ミナモは確か捻挫したエルフの青年の足を治していた。
エンシさんはエルフの青年達に料理を教わっていた。
ユミナはエルフの青年達と狩りに出かけていた。
俺はさっきみたいにエルフの子どもが持って来たおもちゃを直したり、薪割りを手伝ったりした。
「あ、そういえばさ」
「うん?」
「聖槍手に入れた事って王様に報告しなくて良いの?」
「……あ〜……やっぱ伝えた方が良いかな?」
「伝えた方が良いと思うよ?」
「……じゃあ、いったん王都に行くしかないか」
「行くしかないね〜」
「……そうだな。せっかくだし行くか。王都」
「お!?」
「ちょっと調べたい事もあるしな」
「調べたい事?」
「おう。ちょっとな」
そう、調べたい事。
聖槍をメーアさんは最後まで聖剣と呼んでいた。
もしかしたらその理由が分かるかもしれない。
それにアクエリウスは王国の領土。
一応聖装の一つを手に入れた事は報告した方が良いだろう。
勇者でも、勇者パーティーでもない俺が手に入れてしまった聖装。
「あ、でも行く前にちゃんと皆に話してからね?」
「分かってるよ」
その秘密を俺は知る事になる……のだろうか。
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