第19話〜秘密は意外と……〜
「でさぁ……」
「ん?」
「何で私なのよ」
俺の隣を歩くミナモが頬を膨らませる。
「しょうがねぇだろ?ロウエンは村の人から頼み事されちゃったし、ユミナはフーと魚取り。エンシさんは近所のエルフの奥様達の料理教室に引っ張られて行っちゃったし」
「だからなんで私!?一人で行けないの!?」
「だってほら聖装持っているしか。何かあったら大変だろ?」
「もー……」
「ミナモの事は信頼しているしさ」
「……そ、そう言う事なら」
「…ちょれぇ」
「何か言った?」
「何も?」
「ワオン!!」
「ワフン!!」
俺への追及を妨げるようにウルとルフが歩きながらミナモにじゃれつく。
「ちょ、ちょっと。歩きにくいから!!」
「ワフワン!!」
「ワオンオンオン!!」
「こらー!!」
そのまま押し倒され、顔を二匹にベロベロと舐められるミナモ。
あぁ、涎で顔がベトベトになっていく。
「全く……王都に入る前から災難だわ」
「お、お疲れさん」
王都に入る前に関所で、騎士が水の入った桶を用意してくれたので顔を洗い、涎を落としてスッキリしたミナモ。
「にしてもあの騎士驚いていたね」
「そりゃ子どもとはいえレイブウルフを二頭も連れているんだ。驚きもするさ」
そう言って俺は俺達の真横を行儀良く歩く二頭を見る。
連れ帰ってからもう一週間程経ったが、すでにその体長は最初の頃の倍以上になっている。
成長が早いのか、それともたくさん食べて運動させているからか。
成体一歩手前ぐらいの大きさにまで育っている。
そのせいか子どもの頃の可愛さは減っており、ウルとルフもキッとした顔付きに変わってしまっている。
ちょっと悲しい。
「でも会ってくれるかなぁ」
「どうだろうな。ロウエンが一応手紙を出してくれているけど王様は王様で仕事があるだろうし」
「まぁいざという時は聖槍を見せれば会わせてくれるんじゃない?」
「まぁ……そりゃ見せりゃぁなぁ……」
「できれば見せて通すのは嫌だ?」
「まぁ……うん」
見せてゴリ押しは正直言って好きじゃない。
「ま、私も同感だわ」
そう言いながら隣を歩くミナモ。
「さて、来ちゃったな」
「だね。話、聞けると良いね」
「だな」
王城の前に到着する俺達。
初めての王城に最初は驚くウルとルフだったが、次の瞬間には見張りの門番にじゃれついていた。
「こちらでお待ち下さい」
「あ、ありがとうございます」
謁見の間に通された俺達。
ロウエンからの手紙を受け取ったウゼル王が時間を調整してくれたのだ。
「やっぱ手紙出しといて良かったね」
「だな。アニキも前回突然来て門番と言い合いになってたし」
「へぇ〜……でもさ、いくら手紙を出したとはいえこうすんなり行くのかな?」
「…怪しい?」
「というかロウエンさ、エンシの事でも手紙出してたじゃん?」
「おう」
「手紙がというより、彼が出す事に意味があるんじゃないかな?」
「……何かつながりが?」
そう言えば前回来た時も先代王に用事があると言っていた。
「まさか王族とつながりがあるとか?いやそれよりロウエンって歳幾つなの?」
「そういえば知らないな……」
「ま、獣人とかいるんだし。そこまで気にする事じゃないか」
「だな」
「にしても……」
「ん?」
「ウルとルフを預けた騎士さん」
「あ〜……」
「「大丈夫かなぁ」」
俺達の心配は的中し。
その頃、ウルとルフを預かった騎士は既に限界に達しており、第二第三の騎士がその相手をさせられていた。
「すまないな。待たせて」
「お久しぶりですウゼル王」
「元気そうで何よりだ。急な手紙で驚いたぞ?」
「申し訳ありません。実は」
「聖装の一つを手に入れたそうだな」
「…はい。こちらです」
そう言って俺は聖装を見せる。
形は槍だがアクエリウスの人達は聖剣と呼んだ聖装。
槍の様に長い柄。
先端の刃はロングソードに似ている。
「ふむ……確かに聖剣だな」
「え?」
「む?どうした?」
「あ、いえ。これは聖槍ではないのですか?」
「……ハハッ。そなたもそう思うか。ふむ、そうかそうか」
「え、違うのですか?」
「うむ。それは確かに聖剣だ」
「……では何故、槍のように長いのですか?」
「それはな」
「それは?」
「折れたからだ」
「……は?」
「…えぇ」
俺とミナモはその答えに思わずポカーンと口を開けてしまった。
「あれは確か……いつの勇者の時だったかな」
「そんな昔の事なのですか!?」
「うん。そもそも聖剣に選ばれる者は少なくて記録自体が少ないんだ。ただ分かっているのはその時の聖剣の担い手が戦いの最中で柄を折ってしまったという事。そして柄が無くては持てないと困っていた所で聖槍の担い手がこう言い出したのだ。槍を付けるか、とな」
「まさか……」
「そう。その時まで聖槍は二本あってな。一本の刃を折り、聖剣を付けたのだ」
「……そんな事が」
「秘密なんてものは案外そんなものだぞ。にしても聖剣に選ばれるとはな……たいした男だ」
「…ど、どうも」
そこから更に話を聞くと、今までで聖剣を抜いたのは俺を含めて片手で数えられる程しかおらず、その理由も聖剣の在り方が聖剣と聖槍を兼ねているからではないかとウゼル王は言っていた。
他の聖装に選ばれる事も簡単ではないが聖剣の場合はその難易度が格段に上であり、それに選ばれた事は誇って良いとまで言ってくれた。
「……さて、他には何かあるか?」
「あ、いえ。ありません。ありがとうございます」
「そうか……なら、次はこちらから聞かせてもらう」
「はぁ…」
「ロウエンからある文が届いた。エンシに危害が加えかけられたとな……本当か?」
「…そうと、彼女からは聞いております」
「……相手は、勇者だとも書かれていた。本当か?」
「……先程と同じ答えです」
「……そうか」
天井を見上げ、溜め息を吐くウゼル王。
「残念だな……勇者ともあろう者が」
「……それで、どうするのですか?」
「手紙にあるように見張りをつけようと思う」
「まぁそうよね。騎士にそんな事するんだし、一般人に手を出さないとも限らない」
「あぁ。それに被害に遭いかけたのは王国の騎士。一応休職扱いにはしているが、見逃す訳にはいかん」
「当然だ。それに彼女は今群狼のメンバーだ。次手を出せば俺達だって」
「……ほう」
「…どうかしましたか?」
「いや。良い仲間を持ったのだなと思ってな。少し安心したよ」
「そうですか」
「そういえば今君達はどこを拠点にしているのだ?」
「はい。ウインドウッド村です」
「あそこか。うん、良い所だ」
「はい。皆さん良い人ばかりですよ」
「そうか。うん、あそこには小さい頃遊びに行ったものだ……皆の事、よろしく頼むよ」
「…はい。この槍にかけて」
「良い返事だ」
俺の返事を聞き、笑顔で頷くウゼル王。
まだ少し話したそうな感じだったが、仕事もあるのだろう。
騎士に呼ばれて去って行った。
「さて、俺達も帰るか」
「そうだね。ウル達は良い子にしてるかな」
「んー…どうだろうな。アイツ等結構やんちゃだし」
「確かに……騎士さん達に怪我させてなきゃ良いんだけど」
そんな会話をしながらウル達を預けた騎士のもとへと向かう俺達。
そんな俺達の進行方向から来る数人の人影。
先頭を見覚えのある女性があるいており、その背後を黒紫色の鎧を着た騎士が歩いている。
「あ……」
「ん?知り合い?」
「まぁ、な……」
すると相手もこちらに気付いたようだ。
「おぉ、確かロウエンと共にいた…ハヤテ、だったか?」
「はい。お久しぶりです」
「うむ。久しいな」
艶のある黒髪に黒紫の瞳の美女。
ウゼル王の姉であるローザ様だ。
彼女は城の中であるにも関わらず、ドレスでは無く黒のドレスアーマーを着ている。
そんなローザ様の胸を見てから自分の胸を見て落ち込むミナモ。
うん、ミナモはエルフにしては慎ましい胸だもんな。
それに対してローザ様は結構立派だからな。
ミナモはショックを受けているのだ。
「えっと、何か用ですか?」
「ん?あぁ、まぁな。特に用は無かったのだがな…出会ったしな。あの時の約束を果たしてもらおうと思ってな」
「え?」
「ほら、約束しただろう?」
そう言うと彼女は護衛の騎士の一人から剣を抜くと
「次会った時に手合わせをしてもらうとな!!」
「っ!?」
薙ぐように振るわれる剣を愛槍の柄で受け止める。
「ふむ。この程度は止められるか……」
「お、おいおい」
受け止めていなかったら首が飛んでいるコースだったぞ。
「危ないコースで来ますね」
「この程度に反応できぬのなら切り捨てていたわ」
「怖いな……アンタが王様になってたら暴君になってたんじゃねぇか?」
「言ってくれるな」
「事実か?」
「……ふん」
鼻を鳴らしながら剣を離すローザ様。
「もう良い。突然すまなかったな」
「え、あぁ……いえ」
剣を騎士に返すローザ様。
それを見て俺も槍の構えを解く。
「荒削りではあるが伸び代はあるか……ふむ。貴様、ハヤテと言ったな」
「あ、はい」
「今どこにいる?」
「えっと、ウインドウッド村にいます」
「…ウインドウッド村か……オウワシの繁殖地の近くだったな」
「そう、です、ね…」
「良い所と聞くし、あの辺に避暑用の別荘でも建てるか」
「マジっすか……」
「そうすれば、将来の有望株をいつでも見に行けるからな」
「あ、あはは……」
なんかもしかして、俺目付けられたようです。
「ふっ。気にするな。私には許嫁がいる」
「そ、そうですか〜」
「む、もう少し残念がれ」
「何故!?」
「全く、からかいがいのない奴め」
「そ、それは…すみません?」
「ま、気にするな。王族に生まれた時点で諦めていた事さ」
「そ、そうですか」
「まぁ精進しろ。強くなれば私の近衛兵に取り立ててやる。ではな!!」
そう言って去って行くローザ様。
「……嵐みたいな人だな」
「本当ね。羨ましわ」
「え?」
「何でもないわよ。ほら、ウル達を迎えに行く!!」
「お、おう……」
ミナモに促されてウル達を迎えに行くが、そこで見たのはウル達の遊び相手をして限界に達して突っ伏す数十名の騎士達と、尻尾を振りながら騎士達をベロベロと舐めているウル達の姿だった。
「そう言えば聞いたぞ」
ローザは廊下を歩きながら護衛の騎士に話す。
「ウゼルが帝国の勇者に見張りをつけようとしているとな」
「はっ。その事でしたら私の耳にも届いております」
「それにお前が自ら立候補した事も、私の耳に届いているぞ」
「……申し訳ありません」
「…私の下では不満か?」
「いえ。不満など」
「では何故だ?何故見張りなんぞに」
「それは……」
そこで騎士は一度言葉を止める。
言って良いのだろうかと迷うが、結局は言うのだ。
と彼は意を決して言う。
「見張りにつく者は本来は別におりました」
「ほう?ではそれで」
「ですが彼は死にます。その未来が、見えました」
「…それは本当か!?」
「はい。私のスキルの未来視が見せましたので、高い確率でそうなります」
「そうか……」
「ですので、その事を知る私が見張りに行こうと」
「…そうか」
「申し訳ありません」
「いや構わん。そういう理由があるのなら止められはせん」
「…ありがとうございます」
「だが、見張りの任から帰ったらまた私についてもらうぞ。お前でないと安心できんからな」
「分かっております。それに、じきに子も産まれますのでね。稼がないといけないのですよ」
「ふふっ。十分な給料は払っているつもりだったのだがな……良いだろう。産まれた時は祝金をたっぷりくれてやる」
「はっ!!ありがとうございます!!」
「……ウゼルには私からも言っておく。しっかり励めよ。アル」
騎士としての彼では無く、幼馴染みである彼に対して言葉を送るローザ。
騎士の家に産まれ、ローザを守る為だけに生きてきたアル。
その途中で妻を迎え、子が産まれるという。
勇者の見張りの任務が終わったらまた自分の護衛に戻しはするが、少し仕事を減らしてやるかと思うローザ。
ただその願い。
その優しさ。
そして彼を想う気持ち。
だがその全てが叶う事は無かった。
だが、確かに願いは叶った。
ただ、それと同時に泣く者もいた。
それと同時に、笑う者達もいた。
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