第14話〜新しい家〜


「い、いてぇ……」


 ウインドウッド村へ向かう道中、俺は身体中を襲う筋肉痛と闘っていた。


「だ、大丈夫?」

「フーに乗る?」

「ンギュウ?」


 ミナモ、ユミナ、フーが心配そうに俺の方を見る中、ロウエンは俺の方を見る事無く歩きながら話す。


「おそらく聖槍の負荷だな」

「聖槍の負荷?」

「あぁ。聖槍だけじゃなく、聖装には持ち主の力を底上げするスキルがあってな。分かりやすく言えば、筋力アップスキルが付与されると思えば良い」

「そうだったのか…」

「ただ、その上昇幅と言えば良いかな。それが半端じゃない。だからレベルが足りないと今の主みたいに身体中が痛みに襲われる」

「え、じゃあ俺……」

「あぁ。レベル不足って事だな」

「成程な……」


 納得した。

 俺達にはレベルが存在し、そのレベルに応じたスキルを習得する。

 そうする事で身体にかかる負荷を極力下げているのだ。


 例えば俺が使える脚力強化のスキルもそうだ。

 低レベルの時に高レベルのスキルを使ってしまうと身体が耐えられずにダメージを負ってしまい、最悪骨が折れるでは済まなくなる。


 筋力アップだってそうだ。

 上がり過ぎた筋力に自分が耐えきれず骨が砕ける。


 その身に合ったレベルのスキルを習得するのだ。

 ただ聖装はそうでは無いらしい。


「そうだな……簡単に言うと強化の具合の最低ラインが決まっているんだ」

「つまり?」

「体が耐えられなくても強引にそのラインにまで引き上げられる」

「え、それって……」

「聖装が使い手を選ぶのはそういう理由もあるんだ」

「心技体揃って初めて使えるって事か…」

「そういう事だ主。おそらく主は心技体揃ってはいるがギリギリ合格ラインだったのだろうな」

「だから使えたのか…」

「まぁ主の場合は合格ラインギリギリだったから今こうして身体中を痛みに襲われている」

「じゃあレベルが上がれば」

「その痛みともお別れできるだろうな。今主が感じている痛みも、ギリギリラインの主が半ば強引に聖槍を使った反動に過ぎない。きっちりレベルを上げれば、問題は無い」

「成程な。じゃあもしかして、ウインドウッド村にレベルアップにうってつけの場所があるのか?」

「いや、無いぞ」

「え?」


 ロウエンの答えに思わず痛みを忘れる俺。


「ウインドウッド村には無いが近くにはある」

「あぁ、成程。じゃあなんでウインドウッド村に行くんだ?」

「そろそろ、腰を据えようと思ってな」

「え、もうか?」

「もうって……俺達四人に加えて飛竜がいるんだぞ?十分どころか遅過ぎるぐらいだ」

「……あ、そっか」

「主……」


 あちゃーといった具合に顔に手を当てるロウエン。


「でもなんでウインドウッド村なんだ?」

「あそこで採れる果実が好きなんだよ」

「そんな理由!?」

「それだけでは無いがな。言ったろ。ウインドウッド村には無いが近くにはあると」

「お、おう」

「そこにお前を放り込む」

「ヒデェ!?」

「十分良心的だと思うがな」

「え、マジで?」

「大マジだ」

「ち、ちなみにウインドウッド村には何があるんだ?」

「……行けば分かるが、オウワシって覚えているか?」

「あぁ。王都の旗に描かれている鳥だろ?それがどうかしたのか?」

「それの繁殖地が近くにあるんだ。だからウインドウッド村は王都によって保護されているんだ」

「マジで!?」

「だからその村に住むエルフ達は割と平和に暮らす事ができている」

「え、エルフが住んでるいるのか?」


 初耳だった事もあり、俺だけでなくユミナとミナモまで驚いている。


「あぁ。エルフが住んでいる村だぞ。昔はそれなりにエルフを狙った奴隷商に雇われた密猟者のせいで危険と隣り合わせだったらしいが、オウワシの繁殖地が近くにある事と奴隷関連の法整備が行われて今ではそこまで危険では無いらしい」

「そこまではって事はまだ危険なのか……」

「あぁ。未だにエルフの赤ん坊の生き血は万病に効くと言われているし、骨を砕いて薬として飲めば長寿を得られると思われている。が、全て確証は無い」

「それなのにまだ狙うのか……」

「いつの世も権力者という者が求めるものは変わらないな……」

「取締りはちゃんとやっているんだけどね……」

「それでも完璧では無いのが辛い所だな……さ、そろそろ着くぞ」

「おーう」

「ギャーウ」


 ロウエンの先導のもと俺達は森を進んだ。




「ここか」

「すご……」


 森を抜け、目的地であるウインドウッド村に辿り着いた俺達は上を見ていた。

 というのもこの村、木の上に家が作られているのだ。

 中には木そのものを家に改造している所もある。


「下にもちゃんと家あるのね」


 ユミナの視線の先には地上に建てられた普通の家。

 木だけでは場所不足なのだろうかと思っていると


「当然だ。昔は人間の手から少しでも逃れるべく木の上に住んでいたが、今は事情が変わってからな」

「うおっ!?」


 背後にヌッと現れた巨漢のエルフに驚く俺達。

 金髪モヒカンの筋肉ムッキムキ。

 丸太の様に立派な腕と足。

 綺麗に割れた腹筋。

 なんていうか、一般的なエルフのイメージからかけ離れたエルフがいた。


「…んだよ」

「あ、いや……」

「村に何か用か?」

「この村の者か?」

「そうだが」

「それは良かった。しばらく厄介になりたいのだが、村長のもとへ案内してはくれないか?」

「…この村に?」

「何か問題でもあるのか?」

「……いや、分かった。ついて来てくれ」


 顎に手を当て、少しだけ考えるとエルフは頷いてくれた。


「助かるよ。えっと」

「……アイワンだ」

「ありがとう。アイワン」

「…フン」


 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら歩くアイワン。

 その背後を黙ってついて行く俺達。

 途中、住人達が俺達を珍しそうに眺めていた。


 まぁ無理もないだろう。

 飛竜を連れたパーティーなんて滅多にお目にかかれるものじゃない。

 ただ珍しいのだろう。

 と思いたい。

 が、中には明らかに敵意を持った目を向けてくるエルフもいる。


「……迫害されれば、こうもなるか」

「…だよな」

「……すまないな」

「ん?」

「みな悪気があってしている訳では無いんだ」

「分かっているさ……エルフは長命な種族だ。となりゃ、人間共に狙われていた時の事を覚えていて不思議では無い」

「…お前の様な者が、人の中にもいてくれたらな」

「ほう?分かるか?」

「…まぁな。ここだ、ここが村長の家だ」


 アイワンが連れて来てくれたのは普通の二階建ての一軒家。

 その家の戸を開け、アイワンが先に中へと入って行く。


「おい、言われた通り道の整備して来たぞ。それとお客さんだ」

「おー。ご苦労だったな。給料は後で持って行くよ。客?」

「その金は村の為に使ってくれよ。あぁ、なんでもこの村にしばらく泊まりたいそうだぞ」

「何?」


 家の中から出て来たのは爽やかな青年だった。

 彼が村長なのだろう。


「彼等か?」

「あぁ。んじゃ、俺は馬の様子でも見てくる」

「あ、あぁ。頼んだ……入りな」


 アイワンと別れると俺達を家に入れる村長。


「まぁ、ゆっくりしてくれ」

「あぁ。失礼する」

「ではお言葉に甘えて」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

「ングルルル……」

「…飛竜か。大丈夫なんだろうな?」


 戸の幅が狭い為に家の中に入れず、家の外から俺達の様子を見るフー。

 出会った頃と比べるとだいぶデカくなったと思う。


「フーはエルフ食べないよーだ!!」

「ユミナ。すまない。安心してくれて構わない」

「そうか……遅れたな、私の名はワシブサ。さっき聞いたと思うが、ここウインドウッド村の長をさせてもらっているよ」

「随分と若いのに凄いじゃないか」

「そうでもないさ。私以外に適任者がいなかった。ただそれだけさ」

「成程な…」

「それで村に泊まりたいそうだが、理由を聞いても良いか?」

「あぁそれなんだがな、この村の近くにある渓谷を」

「その話なら断る」


 なんとワシブサさんはロウエンの話を最後まで聞く事なく、断った。


「……訳を聞いても良いか?」

「…まぁ、そのぐらいなら良いだろう。君が、えっと」

「ロウエンだ」

「ロウエン。君が言っているのはこの村の北にある闘士の渓谷の事かな?」

「他にあるのか?」

「いや、ならばなおさらダメだ。今あそこは封鎖している」

「何?確かあそこには高レベルのモンスターがいるから腕試しに冒険者達が通っていると聞いたが?」

「あぁ。確かに来ていたさ。でも……」

「でも、なんだよ」

「……渓谷に今厄介な魔獣が住み着いていてな。それのせいで数名が食い殺された」

「…なるほど。これ以上犠牲を出させない為に渓谷を封鎖したってところか」

「その通りだ。分かってくれたか?」


 ワシブサさんの話を聞き俺達全員が頷く。

 ワシブサさんの言うことも分かる。

 村の近くで冒険者を食い殺す魔獣が出てその犠牲者が出て、その魔獣を退治できない。

 だからこれ以上犠牲を出させない為に封鎖する。


「それは分かるが、王都に退治を頼まなかったのか?」

「頼んださ。でも、彼等も食われた」

「そんな!?」

「主、少し黙っていてくれ。ワシブサさん、ちなみにだがその魔獣ってのは?」

「……レイブウルフ」

「レイブウルフか……そりゃ退治も難しいな」

「知っているのか?」

「ロウエン、知っていんの?」

「聞いた事がある程度だがな。特定の縄張りを持たずに彷徨うように大陸を駆け回り、食らった獲物の力を自分の物にする魔獣だな」

「うわ」

「こわ…」

「だから同じ力を持つ個体はいないと言われている。まさかそのウルフがいるとはな……騎士が手こずる訳だ」

「分かってくれたか?……だから」

「なら俺達が退治しよう」

「は?」

「えっ」

「ちょっ!?」

「えぇっ!?」


 ロウエンの言葉にワシブサさんを含めたその場にいる全員が驚愕する。


「ろ、ロウエン!?」

「き、君は何を言っているか分かっているのか?レイブウルフだぞ?あのウルフがいるんだぞ?」

「あぁ。分かっているさ。だが、いつまでも渓谷を封鎖するのも良くは無いだろ?」

「だが……」

「俺達なら倒せる。なんせ、アクエリウスの聖装を手に入れた主がいるからな」

「…それは本当か!?」

「えっ、ま、まぁ……本当だけど」


 魔法袋から取り出し、ワシブサさんに聖槍を見せる。

 木よりも軽く、金属よりも硬い柄。

 薄っすらと水色を帯びた白銀の刃を持つ槍。


 それを見てワシブサさんは感心したように息を漏らす。

 ロウエンは一歩引いた感じで見ている。

 ミナモは感心したように見ている。

 ユミナは綺麗と呟きながら見ている。

 皆聖装を初めて見るのだろう。

 やはり珍しいようだ。


「っといけないいけない。だが聖装を持っているからと言って……」

「確かに、主は聖装の一つである聖槍を持っているがそこまでレベルは高くない」

「なら」

「だが、聖槍は彼を選んだ。それなりに、力はあると思うぞ」

「…だがなぁ」

「俺達ももちろん行く」

「……」

「いつまでもウルフをいさせる訳にもいくまい」

「それは、そうだが……」


 とワシブサさんが言った時だった。


「き、キャァァァァッ!!」


 と外から悲鳴が聞こえたのだ。

 何事かと慌てて外に出ると二軒隣の家の前で女性が両手で顔を覆って泣いていた。


「何があった!?」

「わ、私の赤ちゃんが……」

「拐われたのか?」


 ワシブサさんの問いに泣きながら頷く女性。


「……そんな」

「…酷い」


 その話を聞いて驚くミナモとユミナ。

 驚いていた二人だったがすぐに女性に寄り添い、背中をさすり始める。


「クルル……ゴウッゴウッ」


 少し離れた所ではフーが吠えている。


「どうした?フー」

「…見つけたか。村長、馬を借りるぞ」

「え?何を……」

「追う。匂いは捉えたからな。逃しはしない」

「追えるのか!?」

「あぁ。俺達なら、な」

「お、お願いします!!どうか赤ちゃんを!!」

「任せろ……行くぞ主」

「お、おう!!馬、借りますよ!!」

「あ、あぁ。頼む!!」


 女性とワシブサさんの声を背中に受けながら、俺とロウエンは借りた馬に跨り駆け出した。




 ロウエンと共に馬で駆ける。

 ロウエンが言うには森を抜け、道なりに進めば犯人に追い付けると言う。

 彼の言う通り地面には馬の足跡が残されており、それを頼りに進む。

 馬は得意では無いが一応乗れる。

 

「あれだ!!主!!」

「あぁ、見えた!!」


 しばらく駆けていると前方に黒い馬が一頭見える。

 その背にはフード付きマントを見に纏い、顔を隠した誰かが乗っている。

 その左脇にはエルフの赤ん坊を抱いている。


「ロウエン!!」

「無理だ。俺の刃では赤ん坊ごと切り裂いてしまう!!」

「ちっ……」

「追い付くしかない!!」

「分かってるよ!!」


 ロウエンの力だけでは助け出せない。

 とにかくまずは追い付く事からだ。

 と馬を加速させた瞬間だった。

 前を行く犯人が何かを投げたのだ。

 それの正体は粒の小さな砂。


 俺は片腕を顔の前に持ってきて防げたのだが、馬は違った。

 砂をモロに顔面に受けた馬はパニックになり、バランスを崩す。その結果


「あだっ!?」


 俺を振り落としてしまった。

 幸いな事に馬に踏み付けられる事はなかった。


「主!?」

「大丈夫だ!!それに……」


 ロウエンに追い抜かれつつも即座に起き上がり、少しだけ身を屈めて足に力をためる。


「こっちの方が速い!!」


 そのまま、自分の足で走り出す。


「は?」


 先程俺を追い抜いたロウエンを追い抜き返す。

 長距離だったら多分スタミナがもたないだろうが、この距離なら追い付ける。

 飛ぶ様に駆け、瞬く間に追い付く。


「なっ!?」


 並走する俺を見て目を向く犯人。

 並走して分かったが犯人は女性だった。


(ロープの類で結ばれてはいないな……よし)


 赤ん坊の状況を確認し、俺は馬の前へ躍り出る。

 当然、槍を構えてだ。


「ちっ……踏み殺せ!!」


 馬で俺を蹴散らす気なのだろう。

 良いぜ、来いよ。


「そういやフーの奴にそろそろ肉を食わせないとな」


 馬が俺と激突する直前。

 俺は右に動くと同時に槍で、馬の四肢を切り飛ばす。


「なにぃ!?」


 驚き、宙を舞う女性の手から赤ん坊が放り出される。

 ポーンと宙を舞う赤ん坊。

 その赤ん坊を


「頼んだぞ、フー」

「キュルルルッ」


 空から俺達を追っていたフーが優しくキャッチする。

 後ろ足でムンズッと赤ん坊を掴むが爪で怪我をさせない様に力加減をしっかりしている。


「ぐっ、くそっ!!」

「大事ならしっかりロープで結び付けておくんだな」

「ちっ、捕まってたま……」

「逃すと思っているのか?」

「くっ……」


 赤ん坊を諦め、逃げようとする女性。

 だが先回りしたロウエンが刀の切っ先を彼女に突き付ける。


「に、二対一…卑怯だぞ!!」

「赤ん坊を拐ったお前が言えた事か。フー、赤ん坊を主に渡してコイツを掴め」

「キャルルッ」


 赤ん坊を驚かせない様に声のボリュームを抑えながら返事をするフー。

 飛竜でも相手を思いやれるのに、となんか残念な気持ちになる。


「ちょっ!?離せって!!イタッ、イタタタッ!!つ、爪!!爪食い込んでいるから!!」


 赤ん坊を俺に渡すとフーはロウエンの指示通り女性を両足で掴む。


 しかも今回は爪を立てているらしく、女性はギャンギャン喚きながら暴れている。

 暴れた女性を逃さない様に力を入れるフー。

 力を入れられると痛みから暴れる女性。

 以下ループ。


 村に戻る頃にはすっかりおとなしくなっていた。




「本当にありがとうございます!!」

「キャッキャッ、あ〜う〜」

「はいはい、お腹空いたね〜」


 赤ん坊は母親の腕の中で、母親は赤ん坊を抱きながら笑っている。

 やはり、親子の関係はこうでなくては。


「……」

「…どうかしたか?主」

「…いや、何でもないよ」

「そうか」

「あ、あの。お礼なのですが……」

「い、いやお礼なんて……そんな」

「当たり前の事をしたまでです」


 報酬目当てで助けに行った訳では無い。

 その事はロウエンも同じらしく、お礼は結構ですと丁寧に辞退している。


「それは困るな」

「村長」

「ワシブサさん…」


 するとそこへワシブサさんがやって来た。


「お礼は結構と言われても、それではこちらの気が済まない。ハヤテ、ロウエン。こちらへ来てはくれないか?」

「あ、あぁ」

「分かった…では」

「あ、あの。本当にありがとうございました!!」


 ワシブサさんに連れられて歩き出す俺達。

 そんな俺達に向かって頭を下げるエルフ。

 そのエルフに手を振りながら別れる俺。


「……赤ん坊を取り戻してくれた事。村を代表して感謝する」

「感謝される程のことでは無い」

「お前達からすればそうかもしれないが、我等からすれば忌まわしい歴史を思い起こすものだ」

「…エルフ狩りか」

「あぁ。ここ数年出なかったのだがな……まだ狙われていたとは」

「王都に保護されていてもいるか…」

「だから、皆感謝している」

「…そうかい」

「犯人も生け捕りにしてくれた事、皆が感謝しているよ」

「あの女はどこに?」

「村の牢に入れられているよ。まぁ……村の様子からするとタダでは済まないだろうけど」

「今までの同胞の恨みが」

「あぁ。死なない程度にしておけとは言っておいたが……」

「容認していんのかよ」

「悪いか?」

「いんや。否定はしねぇよ」

「そうか。助かるよ……着いたよ」

「着いたって、これは」

「ほぉ。なんと立派な…」


 話しながら歩く俺達が向かった先。

 それは家だった。

 と言っても普通の家ではない。

 木を改造して作った家だ。

 外に部屋が取り付けられているが、通路は中にあるのだろう。

 ドアが木の側面。

 つまり目の前にある。


「これは?」

「家が必要なのだろう?彼女達から聞いたよ」

「彼女達って、ミナモとユミナか?」

「そうだ。それに、村の皆も君達にならここを貸しても良いと言っている」

「村のみんなって……」

「そもそもここは作ったは良いが手に余ってね。住む人がいなかったんだ」

「…成程な」

「安心してくれ。手入れはしてある」

「そりゃどうも」

「でも、本当に良いのか?」

「あぁ。それに君達はもとから長期滞在するつもりだったのだろう?」

「アイツ等全部話したのか」

「まぁまぁロウエン」

「どうだい?うってつけの物件だとは思わないかい?ここなら君達の仲間のフーだって伸び伸びできるだろうしね」

「本気で言っているのか?」

「僕達エルフは子ができにくい種族。その子を取り戻してくれたんだ。本当ならもっと何かお礼をしたいところなんだ」

「成程な。ま、確かに拠点を探していたしな。ありがたく使わせてもらう。そうだろ?主」

「…あぁ。助かるよ。ワシブサさん」


 俺の言葉を受けて笑うワシブサさん。

 多分、会ってから初めて笑ったと思う。


「そう言えばミナモ達は?」

「ん?彼女達は……」

「あ、おかえり〜。先に中見てるよ〜」


 先に部屋の中を案内されていたミナモとユミナが玄関から現れる。


「中凄いよ!!」

「お風呂もちゃんとあるし!!」

「キッチンも綺麗だし!!」

「部屋は個室だし!!」

「むしろ部屋余るぐらいだし!!」

「「凄いよ!!」」


 大はしゃぎの女子二人の前にして俺どころか何と、ロウエンですら驚きのあまり呆然としている。


「…それと、ウインドウッド村として君達に依頼を出したい」

「え、依頼?」

「渓谷にいる、レイブウルフを退治してほしい」

「それって……」

「無事退治できたら、渓谷の封鎖も解除できるだろうしね」

「…ありがとうございます!!」

「その言葉はまだ早いよ」

「で、でも…」

「この依頼が完了したら解放するよ。どうかな。受けてくれるかい?」

「そりゃもちろん。なぁ?主」

「…その依頼、受けるよ」

「ありがとう。では、よろしく頼むよ」

「おう!!」


 俺の答えを聞いて微笑むワシブサさん。


「あ、いたいた。村長〜」


 とそこへ青年エルフが手を振りながらやって来たのだが、どうやら客人を連れている様だ。


「おっ、どうしたフウマ」

「いやね、そこのハヤテさんに会いたいって人が来てさ」

「ハヤテさんに?」

「あぁ。んじゃ、俺はこれで」

「あぁ、ご苦労さん」

「どうも……って、あなた」


 フウマさんが連れて来た客人を見て俺は驚いた。

 だってその客人は氷の様な水色の目をしていて、所々外側に跳ねた髪は藍色で、中性的な顔をした知り合いだった。


「久しぶりだね。ハヤテ」

「エンシさん!?」


 その知り合いとは王都にいるはずの女騎士だった。

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