第6話〜新しい仲間と共に〜

 風月の群狼を正規登録して三日経ったのだが……


「何か良いクエストねぇかな……」

「そうだなぁ……」

「ねぇこれとか良いんじゃない?」

「ん? いやぁ……ミナモには無理だろ」

「んー、じゃあこれとか?」


 集会場にあるクエスト募集掲示板で今日受けるクエストを探す俺達。

 今は集会場にある宿泊所を使っているので宿代は平気だが、食費はやはりかかるのでクエストに出るなりして稼がないといけない。


 昨日は薬草集めのクエストを受けたのだが中々見付からずに日が暮れるまでかかった。

 今日はできるだけ楽なクエストにしようと思って探しているのだがなかなか良いのが見付からない。


「……なら主、これはどうだ?」

「これ? 洞窟の飛竜の退治?」

「数も少ないし、これなら行けるだろう」

「うーん……ミナモはどう思う?」

「良いんじゃない? 私どっちかっていうとサポート系だから前に出ないし」

「そうか。じゃあこれ行くか」


 掲示板からクエスト内容が書かれた紙を取って受付へ持って行く。

 そこで受付の人にそれを渡し、クエストの受注処理をしてもらう。

 受注作業はものの数分で終わり、ギルドが所有する馬車で向かう。


 馬車で向かいながら改めて依頼内容を確認する。今回の依頼主は牧場主。

 近くの洞窟に住み着いた飛竜が出て来ては家畜を食い荒らして困っているそうだ。

 飛竜の数は三頭。種族はスワローワイバーン。

 下顎が左右に分かれる為、捕食時口が大きく開くのだ。その為、大型の獲物も難無く捕食する事が可能な飛竜なのだ。


 昼夜問わず活動し、空腹時ともなると目に映った物を片っ端から襲うぐらいには獰猛な性格をしている。

 それを三頭倒すのが目的だ。

 またその飛竜の角は薬にもなるので出来れば採って来て欲しいとの事でその分報酬に上乗せされる。

 個体にもよるが最大で三本生えている。

 最大で九本。

 最低でも三本持って帰ればそれなりの金額になる。


「俺とロウエンが前衛を務めるとして、ミナモには」

「私はそうね、回復とかすれば良いでしょ? あとは角の回収とかさ」

「そうだな。それが良いだろう。飛竜共も凶暴ではあるが落ち着いて対処すれば問題は無い。何があっても落ち着いて対処する事。そうすれば死にはしない」

「おぉ〜、流石」

「やっぱこういう事は先輩なだけあるな。ロウエン」


 先輩でもあるロウエンからすれば敵では無いのだろう。

 敵では無いからこそ、いざと言う時の為の余裕を残せる。


「これはお前達の特訓も兼ねているからな。たいした経験値は入らないと思うが、頑張ってくれ」

「お、おう!!」

「任せなさい!!」

「フッ。そう言ってもらえると頼もしいな」


 期待しているといった目で俺達を見るロウエン。

 いつまでも彼に頼り続ける事は出来ない。


(早く強くならないとな……)


 そう思いつつ俺は愛槍を撫でた。



「ん、んん〜……疲れた〜!!」

「やっと着いたな。目的の洞窟はすぐ側だ。行くぞ」

「おう」

「お〜う!!」


 巻物状に丸めていた地図を広げ、洞窟への方角を確認して歩き出す。

 が、そんな俺達の背中に声がかけられる。


「ようようよーう。これはこれは愚弟。まだカザミ村に帰っていなかったのか」

「アニキ? どうしたんだよ」


 振り返ってみるとそこには一台の馬車が止まっていた。


「ふん。この先にある洞窟からスケルクリスタルを採って来るクエストを受けたんでな。向かう最中さ」

「へぇ〜……」

「スケルクリスタルが採れる洞窟と言うと……深淵の洞窟か?」

「そう、その洞窟さ!!」

「にしてもお前が乗っていた馬車。ギルドの馬車じゃなかったな」

「そうなのか? ロウエン」

「あぁ。ギルドが保有する馬車や契約している馬車にはギルドの紋様が取り付けられている。お前、まさかまだ正規登録できていねぇのか?」

「ふ、ふん!! 馬車の用意に時間がかかると言われたから仕方無しにだよ!!」

「あっそ。まぁ良いや。取り敢えず気を付けて行けよな。我が主の肉親である以上、死なれると夢見が悪い」

「言ってろ言ってろ。ほら行くぞ!!」


 結局何が言いたかったのか分からないが、言いたい事を言い切ってスッキリしたのか、馬車を再出発させるカラト。

 ただ……


「……どうした? 主」

「え、いや……何でもないよ」

「そうか? なら良い」


 最後にチラッとカラト達の事を見る。

 俺達が乗って来た馬車とは違い、屋根の無いタイプに乗っているせいかカラト達の姿がよく見える。

 当然カラトとイチャついているセーラ達の姿も見えたのだが、そのせいで俺は勝手に見て勝手にダメージを受けたのだった。




「にしても、やっぱり真っ暗だな」


 洞窟にそのまま入り目当ての飛竜を探す。寝ているのだろうか、気配すら感じない。


「もう少し明るさを強くする?」

「いや、この程度で良い。これ以上明るくすると他の獣まで寄って来かねない」

「そう、じゃあこのままにしておくわ」


 俺達が壁にぶつからずに歩けているのはミナモが作り出した光球が周囲を照らしているからだ。

 洞窟の中は思ったよりは広いのだが、槍を振り回すと場所によっては引っ掛けてしまいそうだ。


「……ねぇハヤテ」

「ん? どうしたミナモ」

「ごめん、気になって仕方ないから聞くけど怒らないで?」

「お、おう」

「追放とかしないでね?」

「おう。分かってるよ。で、何だ?」

「さっきのが彼女さんを取ったお兄さん?」

「うぐっ……そ、そうだよ」

「ふぅ〜ん。じゃああの馬車に乗っていた中に」

「も、もうやめない?」

「ご、ごめん……」


 やはり気になるよな。

 いつかちゃんと話した方が良いだろうか。

 いや、でも出来れば忘れたいし。

 うーんと悩んでいると


「ほ、本当にごめんって。そこまで思い詰めるとは思わなくて」

「い、いやもう良いんだ。気にしないでくれ」


 もう別れたんだ。

 さっさと忘れようと思いつつ先を急ぐ。


「にしてもいないな」

「いてもネズミや虫、か……こりゃ寝ているかこの洞窟を捨てたか?」

「その可能性はあるが、低いだろうな。これを見ろ」

「ん? それは……」


 しゃがんで道端に落ちている茶色い物を確認するロウエン。


「飛竜の排泄物だ。まだ温かいからな。おそらく近くにいるはずだ」

「マジか……いや、魔物退治をするのならそういうのも覚えた方が良いのか」

「なんなら今度教えようか? 主」

「良いなそれ。ぜひ頼むよ」

「あぁ、頼まれた。是非とも任せてくれ」


 頼れる兄貴分とはこの事を言うのだろうか。

 ただこうも頼りがいがあると、慌てていたり驚いているロウエンも見てみたくなってくる。


「なぁロウエン」

「ん? どうした」

「ロウエンって彼女とかいた事あるの?」

「……彼女か?」

「うん。彼女」

「……そうだなぁ……俺は」

「……ロウエン?」


 急に言葉と歩みを止めたロウエンを不思議に思い、俺とミナモも歩みを止める。

 ロウエンは腰に下げた刀に手を伸ばしながら、明かりの届かない闇の向こうをジーッと睨み付けている。


「主、ミナモを!!」

「おう!?」


 ロウエンに言われ、俺はミナモが何か言うより早く頭を掴んでしゃがませる。

 それと同時にロウエンは腰の刀と背中の太刀を抜刀。

 闇の向こうから、猛スピードで突っ込んで来た敵を切り裂く。


「ギェギャアァァッ!!」


 ロウエンが切り裂いたのは目的の飛竜の一体。

 俺達に掴みかかろうと迫った足の爪を刀で弾き、体勢を立て直される前に太刀で袈裟斬りにしたのだ。

 その姿は一般的な飛竜と同じく、後ろ足と一対の翼を持った中型の竜だ。


「よ、よく気付いたね。流石はロウエン。それとハヤテ、ありがと」

「おう、気にすんな」

「今の悲鳴を聞いて来るぞ……構えろ」


 ロウエンの言葉に俺は槍、ミナモは鞭を構える。


「グゲアァァァァッ!!」

「来たぞ!!」

「前衛はロウエン、俺はサポートで行く!! 良いな!!」

「了解だ!!」

「私は臨機応変にサポートするか……」


 その時だった。ミナモの真横の壁を突き破り、飛竜が現れたのだ。


「ら……」

「しまった!?」

「ミナモ!!」


 クルッと反転し、ミナモへと跳ぶ。

 襲いかかる飛竜がミナモに噛み付くより先に彼女に辿り着いて抱き寄せ、飛竜の牙から守る為に右腕を構える。


「……っ!!」

「主!!」


 俺の右腕に噛み付いた飛竜はそのまま力任せに前進。

 薄かったのだろう。俺は背後の壁を破り押し込まれてしまう。

 そして運の悪い事に、突き抜けた先は崖になっていた。


「やっ……」

「キャアァァァァァッ!?」


 とりあえず俺は抱き寄せたミナモだけは手放さない様、腕に力を入れたのだった。




 次に俺が目を覚ましたのは崖の底。

 背中の痛みで目が覚めたのだが


「いてて……」


 痛みのせいで動くのが怠い。

 そんな俺の胸の上ではミナモが気を失っている。

 見た所たいした怪我はしていない様なので一先ずは安心だ。

 ただ危険はすぐそこにいるのだが……


「グガルルルル……」


 落ちた時に怪我をしたのか、左翼をダラリと垂らしている。

 あれなら飛べないだろうが警戒するに越した事は無い。

 向こうは向こうで俺達の事を警戒しており、一定の距離の所から威嚇している。

 まぁ向こうからすれば俺に怪我をさせられた様なもんだが、俺からすれば落ちる前に離れればよかったのにって感じだ。


「うっ、ん……うぅぅん」

「お、大丈夫か?」

「あれ……えっと……私」

「どうやら一緒に落ちたみたいだ」

「嘘……って!?」

「ん?」

「ピャァァァァァァァッ!?」


 小鳥の鳴き声の様な悲鳴をあげつつ俺から離れるミナモ。

 どこか変な所でも触っただろうかと思っていると


「お……」

「お?」

「重くなかった?」

「は? ……まぁ、重くはなかったぞ」

「そ、そう……良かった」


 エルフでも体重とかは気にするそうだ。


「さて、どうしよっか」

「ミナモ、照らしてみてもらえるか?」

「分かった。とりあえず行けるところまで浮かせてみるから」


 そう言うと生成した光球をポワポワと浮かび上がらせるミナモ。

 天井までどれ程あるのか見上げているが……


「……見えなくなったわね」

「結構落ちたんだな」

「光が消えた訳じゃ無いからもしかしたらロウエンが見付けるかもだし……」

「……動かない方が良さそうだな」

「そうね」


 とりあえず、飛竜を警戒しつつ俺達はロウエンの事を待つ事にした。

 その間近くをたまたま流れていた川で魚を取り、空腹になって俺達に襲い掛からない様飛竜に食わせたりした。


「これで一先ずは安心ね」

「満腹になれば寝る。人でも竜でも一緒か」

「エルフでもね」

「そうなんだ」

「まぁね」


 俺の隣に座るミナモ。

 仲間になってからやっと落ち着けた気がする。


「ん? なーに〜? お姉さんに見惚れちゃったかな〜?」

「お姉さんって……」

「だってエルフだからね。ざっと君の……倍は生きてるよ」

「倍の前の間は何ですか間は」

「青二才よ、気にしてはいけないよ」

「何すかそれ」

「気にしなーい気にしなーい」

「全く……」


 俺より歳上なのだが、まるで同年代の友人と接する様に話してくれるミナモ。

 鞭を自在に扱いつつ、魔法でサポートをしてくれる。


 おまけに彼女の保有スキルに節約という、消費魔力を抑える事ができるスキルと支援強化という支援魔法限定ではあるが効果を強化できるスキルを持っている為、支援時はかなり頼もしいのだ。

 他にも鑑定眼スキルも持っているので最近では新鮮な魚や野菜をよく買って来てもらっている。


「そう言えばさ、蒸し返す様で悪いんだけどさ」

「うん」

「何で旅に出たの?」

「……どういう意味?」

「いやだってさ、傷心旅行で旅に出るって珍しいな〜って思ってさ」

「そうか?」

「うん。だって村に残るのだって選択肢にある訳だしさ」

「……うーん。何て言ったら良いんだろうなぁ」

「うん?」


 少しだけ考える。

 言いたい事は分かっているのに言葉が見付からない。

 その気持ちを表す言葉を探す。


「……あぁ、きっとさ」

「うん」

「村にいた時の俺を、俺自身が否定したかったんだと思う」

「君自身を?」

「兄貴に彼女取られたって言ったじゃん?」

「う、うん。ロウエンが言ってたね」

「彼女とはさ、将来一緒に暮らそうって約束してたんだ。でも俺の知らない所で兄貴に取られてたんだ。本当に、毛程も疑っていなかったんだ……」

「そうだったんだ……」

「そんな情けない自分を否定したくて、村を出たんだ」

「……」

「それに母さんにとって俺は邪魔だったみたいでさ」

「え……それ、どういう」

「母さんの中での息子は勇者になった兄貴だけみたいでさ、俺は……違ったみたいなんだよ」

「そんな……」

「でもさ、村を出たおかげてロウエンやミナモに会えたしさ。悪い事ばかりじゃ無いんだよ」

「そっか」


 俺の話を聞いて励まそうと思ってか微笑むミナモ。


「それにまぁ、村を出たおかげで王都にも行けたしさ」

「そのおかげで私も助かったしね」

「村を出るきっかけは最悪だってけどさ、村を出て俺は後悔していないよ」

「そう。なら、良かったわね」


 後悔していないという俺の言葉にさっきと違い、柔らかい笑みを見せるミナモ。

 何て言うか、やはり歳上としての安心感がその笑みから感じられる。


「なら、貴方の旅で後悔する時が無い様にちゃんと支えないとね」

「ミナモ……」

「ふふん。何よ嬉しかったの?」

「ま、まぁな」

「言っとくけど、私に惚れないでね?」

「はぁ?」

「私のタイプはもっとしっかりした人なの。だからハヤテみたいなお子ちゃまはね〜」

「言っとくけど俺だって恋愛は暫く御免だし、もう少しなぁ……」

「もう少し、なによ……」

「……いや、辞めておこう」

「よーし。お前、吊るすわ」

「やめろやめろ!?」


 エルフにしては慎ましい胸を見て言葉を切る俺を見て鞭を構えるミナモ。

 エルフとはいえやはり女性だ。

 今後そう言った事を言うのはやめよう。

 だが、彼女の為にも言っておくが決して悪い訳じゃ無い。

 むしろスタイルは良い!! 

 俺がいた村にはいなかったし、なんならセーラだって及ばない。

 だから……


「き、気にする事無いと思うぜ」

「……首か足首、吊るされるならどっちが良い?」

「すみませんでした」

「……全く。まぁ元気が出たようだし、今回は見逃してあげるわ」

「ありがとうございます」

「それはそうとして」

「ん?」

「起きたわよ。飛竜」

「マジで!?」


 ミナモが指さした方を見ると先程まで眠っていた飛竜が目を覚ましており、ググーッと伸びをしていた。


「ど、どうする?」

「どうするって依頼だ。討伐する」


 槍を手に立ち上がる俺。

 俺に気付きクルルと鳴く飛竜。

 飛竜は俺が構えた槍を突き出すより速く動くとそのまま俺にタックルし、押し倒してきた。


「うおっ!?」

「ハヤテ!!」


 目の前に奴の大口が迫る。

 食われると最期を覚悟した時だった。


 ヌチャ……


 と生温かく、柔らかい物が俺の左頬を撫であげた。

 何だろうと恐る恐る目を開けて見るとそこにいたのは


「グルゥッ」


 俺の上に乗っかった飛竜が俺の頬を舐めていたのだ。


「えっと……これは……」

「ちょっと待って。見てみる」


 そう言って飛竜の様子を観察眼のスキルで見るミナモ。

 解析自体はすぐに終ったようだが、その顔は驚きに染まっていた。


「う、嘘……」

「な、何だよ。何が……」

「懐いている」

「はぇ!? 何で?」

「多分、さっきの餌付けね。ほら、この竜達って近くの家畜を襲ってたんでしょ?」

「あぁ。そう聞いているけど」

「多分、この洞窟に住み着いたは良いけれど餌が足らなかったのね。ほら、ネズミとかしか見なかったでしょ?」

「そ、そう言えば……」

「だから、餌に飢えていたのね。魚ををあげただけでこの懐きよう。テイムのスキルは持っている?」

「い、いや……持っていない」

「そう。となると……私のでいけるかな」

「テイムのスキルを持っているのか?」

「いいえ。スキルじゃないけれど似た物なら持っているわ」


 そう言ってミナモが取り出したのは騎士が乗る馬の頭に付けられる頭絡という馬具に似たアイテムだ。


「これね、擬似テイムができるの。ただ余程懐いていないと失敗しちゃうから……ちょっとごめんね〜」


 そう言いつつ飛竜に擬似テイムのアイテムを取り付けるミナモ。


「ど、どうだ?」

「……よし!! 成功ね。これからよろしくね」

「クッギャウ!!」


 ミナモの言葉に元気に頷く飛竜。

 これなら飛んで上に上がる事ができる。


「よし、これでロウエンと合流できるな。早速頼むぜ!!」

「ギギャン!!」


 俺が飛竜の背中に跨り、ミナモは飛竜の足で両肩を掴んで飛び上がった。




 飛び上がってからロウエンが俺達を探しに動いていたら意味が無い事に気付いた俺だったが、上に上がってから無事ロウエンと合流する事ができた。

 彼は彼でどう探すか考えていたらしい。

 ので、出発する前に合流できて幸いだった。


「にしても、まさか手懐けるとはな……驚きだ」

「これで戦力もアップね!!」

「ほう、スワローワイバーンか。レベルは25ぐらい。戦力としては主とどっこいどっこいか……」

「おい……」


 レベル29のミナモにレベル25の飛竜、俺のレベルは23。

 未だロウエンはレベルを教えてくれないが、俺は30半ばぐらいかと予想している。

 ちょっと待てよ……


「俺が一番下じゃねぇか!?」

「あら、パーティーリーダーが一番下なんて」

「……そういう時もあるな」

「えぇ……」

「まぁ気を落とすな。油断したせいでレベルが下の奴に負ける奴だっているからな」

「あ、そう言えばロウエンが戦っていた飛竜は?」

「とうの昔に倒して角も回収済みだ。一頭分無いが、それでも結構な収入にはなるだろう」

「そうね。今夜は新入りの歓迎会も兼ねてパーッと行きましょ!!」

「お、それ良いな!!」

「ウギャウ!!」


 最後は笑顔で洞窟を出る俺達だったのだが、もう一つの洞窟では……






「うっわサッミィ!!」


 王都から北東に進んだ所にあるイノース山。

 その中にあるスケル坑道にカラトのパーティーは来ていた。


 理由としてはここで採れるスケルクリスタルの採掘を依頼されたからだ。

 そのスケルクリスタルというアイテムだが軽くて頑丈。

 しかも加工もしやすい為、騎士が扱う鎧や盾、騎士が乗る馬の馬具に使われているのだ。


 その為需要は高い。

 それの採掘の為に彼等は来ているのだがこのイノース山。

 とても寒い為、その壁は氷に覆われている。


 防寒装備は必須なのだがそれをカラト達はそれを忘れてしまい、今は魔法の心得があるエラスとヒモリが全力で防寒魔法を発動させて何とか寒さを凌いでいたのだが……


「全っ然寒いじゃねぇかよ!! もっとあったかくしろよ!!」

「ヒーン!! 早く終わらせてお風呂入りたいよー!!」


 文句を言いながらツルハシを振るカラトと泣きべそをかきながらツルハシを振るモーラ。


「ご、ごめんなさい。今はこれが限界で」

「これでも最大なのよ!!」


 その背後では防寒魔法を発動させているエラスとヒモリ。


「か、かじかんで指が……」


 その足元ではセーラが二人が採掘したスケルクリスタルを袋にしまっていた。


「くっそ、こんな事なら受けるんじゃなかったぜ……」

「うぅー!! 早く帰りたーい!!」


 八つ当たり気味にモーラが振り下ろしたツルハシが壁を削り、ガキンッと何か固い物に当たって止まる。


「もー!! 早く帰りたいんだから邪魔すんなー!!」


 早く帰りたい一心でツルハシを繰り返し同じ箇所に振り下ろすモーラ。

 するとやがてバキンッと割れた音と共に穴からコロリと何かが転がり落ちてくる。


「これ……クリスタルじゃないな」

「これは、鎖か?」

「氷に取り込まれていたのか。手すり代わりの鎖か?」

「ま、まぁ鎖は放っておいてさっさとやるぞ」

「お、おー!!」

「全く、欲張って奥まで来るんじゃなかったぜ……」


 グチグチと文句を言いながらクリスタルを掘り出すカラト達。

 だかその割った鎖が後に彼等を巻き込む騒動に発展する事となるのであった。


「あー!! 早くお風呂に入りたーい!!」

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