第2話〜最悪の再会〜


 エルード村を発ち、ロウエンと共に近くの町に入った俺。

 ハツヤドという名のその町は冒険者や魔法使い、旅に出始めた者達がまず立ち寄る町で、王都を囲む様に四つ存在しており俺達が今いるのは西のハツヤドだ。

 で、そこで俺達は何をしているかというと……


「おう親父さん。それとそれと…あとそれをくれ」

「あいよニイちゃん。旅の出発前の準備かい?」

「まぁな。コイツの装備が心許なくてな。良い物を探していたんだ」

「それで俺の店に来たのか。くぅ〜。見る目あるねぇ!! よし決めた!! コイツはサービスだ持って行け!!」

「そいつは有難い。大事に使わせてもらうよ」


 俺の道具を揃えに来たのだ。

 ロウエンは何を買うのか予め決めていたらしく、町に入るや目当ての店に向かってスタスタと歩いて行った。


 今買ったのは魔法の袋。

 マジックバッグとも言われており、見た感じ肩にかけるタイプの物で、口を紐でキュッと締めるタイプのバッグだが、収納用の拡張魔法がかかっており、大量の物をしまう事ができる。


 次に買ったのは槍用の鞘だ。

 鞘と言っても剣やロウエンの刀の様なタイプとは違い、鳥の足の様な三本の爪で槍の柄を保持するタイプとなっており、背中に着けられる様になっている。

 そこに槍を通すと斜め掛け状態になり、両手が空くので楽だ。


 最後に買ったのは回復用のポーションを五つ。

 ガラスの瓶に水色の澄んだ液体が入っている。

 前に一度だけ飲んだ事があるが、味は柑橘系のフルーツ味で少しシュワシュワしたのを覚えている。

 このガラス瓶を取っておいて店に持って行くと、その瓶に新しいポーションを入れてもらう事ができるだけでなく少し代金が安くなったりする。


 そして店主のサービス品である干し肉だ。

 店主の手作りらしく、また欲しくなったら来いと言っていた。

 そして次にする事としてロウエンが俺を連れて行ったのは集会所だ。

 ここに冒険者として登録する事で宿屋に泊まる際に代金がタダになったり割り引きが行われたりする。

 他にもギルド本部が管理する施設の利用が可能になるのだ。


 ただギルド施設の利用を完全にしたいのであれば王都にある集会場で正式に登録しなければならないのだ。


「という訳だ。登録して来い」

「え、俺が?」

「あぁ。俺が持つスキル的にはお前がパーティー主の方がありがたい」

「そ、そういう事なら……」

「頼んだ。俺は少し買い物をして来る。仮登録が終わるまでには戻るさ」

「分かりました」


 了承し、受付へと行く。


「あのー……パーティー登録をしたいんですけど」

「はい。えっと、初めてですか?」

「初めてです」

「そうしましたらこちらの書類に記入をお願い致します」

「分かりました」


 受け取った書類に記入する為背の高いキノコみたいなテーブルへと移動する。

 立ったまま記入する為椅子は無い。

 そこで書類に必要事項を書き込んでいると……


「よーう。ハヤテじゃねぇか」


 聞き慣れた、だけど今は聞きたくない男の声が聞こえた。


「おいおーい。無視かよ〜?」


 その声の主が近付いて来る。

 俺を置いて行ったくせに。

 いや、初めからそうするつもりだったのか……と思いつつ、無視し続けて書いていると別の声が耳に届く。


 キンキンと高い、女性の声だ。


「無視とかハヤテのくせに生意気じゃね?」


「っ!!」


 その声も俺にとっては聞き覚えのある声。

 俺と将来共に暮らそうと交わした約束を破って捨てた女。


 昔はサラサラの茶髪だったのに、今ではどうやったか知らんが自然ではない派手な金髪に染め、髪型を整える為に整髪料を付けている。

 そのせいでサラサラからは程遠くなっている。

 彼女の名前はセーラ。俺の幼馴染みだった子だ。


「お、やっと顔上げたなぁ」

「……何だよ。俺に何か用かよアニキ……」


 セーラの隣に立つ、今は聞きたく無い声の主が話す。

 金髪、両耳になんかの宝石が付いたピアス、ニヤニヤとした笑みを浮かべた、皮の鎧を着た青年。

 俺の双子のアニキのカラトだ。


「いや〜? 我が愛しの弟がこんな危険な所にいるのを見つけてなぁ〜? ほら俺は勇者の痣を継いだ者だしよ。慈愛の心で家に帰れって言いに来てやったんだよ。なぁ〜?」

「そうそう。有り難く思いながら帰りなよ」

「それが一番よね〜」


 カラトの言葉に、両脇に控えるセーラと茶髪の女性が頷き、俺を馬鹿にする様に言う。

 更に発言はしないがカラトの後ろにいる水色の髪の女性と黒髪の女性も頷いている。


「んで〜? お前はここで何してる訳?」


 口を開いたのは茶髪の女性。

 名前はヒモリと言い、俺と同じ槍使いだ。


「お前等には関係無いだろ」

「はぁ? ハヤテのクセに生意気なんだけど!!」


 叫びながら俺の襟首を掴んだのは水色の髪の女性。

 名前をモーラと言い、両腕には手甲がはめられている。


「いけませんわぁモーラさん。その様な勇者の痣を継げなかった可愛そうな方を構ってわ」


 そう言ったのは黒髪の女性。

 名前はエラスと言い、俺の村にあった教会のシスターだった女性だ。

 と言うより、カラトのパーティーのメンバーは全員同じ村出身の為、顔見知りだ。


「おらおら〜、何とか言えよ〜」


 そう言いつつニタニタ笑いながら俺を前後に揺らすモーラ。

 やり返しても良いが集会所で騒ぎを起こすのはよくない。

 今ならただ俺が顔見知りに絡まれただけで済ませられる。

 と、俺が考えているのに……


「おらおら〜。何とか言えって〜言えよ〜」

「言えって言ってんだろ!!」


「うぐぅ……」

「あはは!! うぐぅだって〜!! ヒモリもやりなよ〜」


 モーラに揺らされる俺の脇腹を殴り付けるとセーラはケラケラと笑いながらヒモリを焚き付ける。

 それに乗っかりヒモリは俺を蹴り始める。


 周りの人は関わらない様に距離を取り始め、ギルドの人達はこれ以上騒ぎが大きくなるのなら警備の人間を呼ぼうかと話し始めている。


(マズい、これ以上は……)


 そう思っている時だった。

 モーラが動きを止め、セーラとヒモリも距離を取ったのだ。

 何が起きたと思っているとモーラの首に刃が添えられる様に、数ミリの所で構えられていた。


「あ、あんた…いつの間に」

「俺の連れに何か用か? 格下」


 ロウエンが抜いた刀の刃をモーラの喉に突き付けていたのだ。


「なっ、てめっ……」

「俺が聞いている。俺の雇主に何か用か?」

「っ……」


 ロウエンさんは何と二つ目の刀も抜くとその切っ先をカラトの喉仏へと突き付ける。


「や、雇主…だと?」

「あぁ、俺は傭兵でな。コイツに雇われている」


 驚くカラトにロウエンは薄っすらと笑みながら説明する。


「は、はぁ? 何で?」

「共に旅をする為だ。それ以外に何がある?」

「くっ……そ、そうだアンタ。俺のパーティーに入らないか?」

「……何故?」


 刀を鞘に納めながら尋ね返すロウエン。


「なぜって俺は勇者なんだぜ。名声だっていずれ……」

「悪いな。俺はそう言った物に興味は無い。俺が仕えるのは、俺より強い奴か興味深い奴だけだ」


 ロウエンは兄貴に向かって名声にはトント興味無い、とでも言うように片手を振る。


「……けっ!! 行くぞ!! こんな奴相手にしてる時間がもったいねぇぜ!!」

「……騒がせて済まなかったな。大丈夫か?」

「あ、あぁ」


 そう吐き捨ててパーティー登録の為に受付へと向かうカラト。

 そんなアイツとは対照に俺に右手を差し出して立ち上がらせつつ、周囲に詫びるロウエン。

 何て言うか、こう言う事に慣れている感じがする。


「で、用紙は書けたか?」

「もう少しです。書いてたら邪魔されて」

「そりゃ災難だったな」


 俺の言葉に肩を竦めるロウエン。

 そんな彼の様子を見て俺の肩から少し、力が抜けた気がする。


「……全くだよ」

「でもまぁ、見た所レベルはお前の方が上みたいだな」

「……え?」

「エルードから此処に来るまでに多少はレベルアップしているからな。それとは反対にアイツは何処で道草を食っていたか知らんが、まだレベルは一桁の様だ」


 呆れたように言うロウエン。

 彼の目には、兄貴達がどんな道を歩んできたのかが見えているようだった。


「……分かるんですか?」

「まぁ、鑑定眼よりランクは下がるが識別スキルは持っているからな」

「へぇ……因みに俺って今レベルいくつ何ですか?」

「……自分で見れるだろ」

「え? ……あ、本当だ」

「全く……まぁ、今までそんな事が必要無い生活だってもんな。無理も無い」


 ロウエンに言われて自身のレベルを確認すると、今の俺のレベルは14。


 ついでに保有スキルも確認しておく。


 俺が今保有しているスキルは四つ。

 風から魔力補給を可能にする魔力補給(風)、高速移動を可能にする縮地、攻撃箇所が急所だった場合威力を上げる急所特攻、風に言葉を乗せ遠方の仲間との会話を可能にする風歌というスキルだ。

 ただスキルレベルがまだ低いのでたいした効果は望めない。

 あれば良いなというレベルだ。


「あ、そういうロウエンのレベルは幾つなんだ?」

「ん? 俺か……20は超えているとだけ言っておくよ」

「教えてくれねぇのかよ」

「失望させたくないからな」

「どういう事だよ」

「……そのまんまの意味だ。そら、さっさと出して来い」

「お、おう……」


 ロウエンに言われ、用紙を受付に渡しに行くが……


「あ、ここに記入漏れが」

「え? ……あ、パーティー名忘れてた。どうすっかな」

「どうした?」

「あ、ロウエン。パーティー名忘れててさ……」

「パーティー名? ……そうだったな。ならこれはどうだ?」

「何か良い名前があるのか?」

「まぁな……」


 筆を取り、ツラツラと書いていくロウエン。

 彼が書いたパーティー名というのは……


「風月の群狼?」

「嫌か?」

「ま、まぁパーティー名は後から変更も出来ますから」

「良いっすね!! ロウエン良いよこれ!!」

「だろ〜?」

「んだその名前だっせぇ」

「とかいう低レベルな奴等は放って置いて、飯に行こうぜ」

「お、おう。そうだな。あ、色々とありがとうございました」

「あ、何かありましたらまた来てくださいね〜」


 カラトを無視し、受付に別れを告げて集会所を出る。

 昼飯を食べる為にロウエンについて行く。


「ロウエンはここに来た事があるのか?」

「似た町には何度も行った事がある。要領さえ分かっていれば困らん」

「そうか……」

「にしても、えらい違いだったな」

「何が?」

「お前とお前の兄さん。兄弟とは思えんな」

「……」

「気に障ったか?」

「いや……よく言われていたから」

「……でも、俺はお前に雇われている方が良いと思うぞ」

「……ありがとう」

「良いって事よ。さ、着いたぞ」

「ここか……美味そうな店だな」

「美味いぞ」


 ロウエンに連れられて来た店に入る。

 中は観葉植物が飾られており、お洒落な感じなのだが……


「げっ……た、高い」

「安心しろ。金ならある」

「そ、そうですか。なら……良かった」

「何でも食え。全部出世払いだ」

「そう言えばそうでしたね」


 そう返しつつメニューを見ていると……


「おいおい、お前の稼ぎじゃここ払えねぇだろぉ〜?」

「またお前か……」

「ゲッ……人斬り」

「ロウエンだ」


 カラトの奴等が同じ店に入って来たのだ。

 が、先程のロウエンとのやり取りもあってか少し距離を置いている。


「お前達も飯か?」

「とーうぜんだ。輝かしく勇者デビューする為にはまずは腹ごしらえをしないとな」

「成程ねぇ。金あんの?」

「は?」

「ここ、高いんだよ?」

「え……た、高いってどんぐらい

「それはメニュー表を見てみると良い」

「ケッ……どうせお前等だって」

「ねぇカラトォ〜。ハヤテなんて放って早くご飯食べよ〜?」

「お、おうそうだな。むさっ苦しい男しかいねぇパーティーと違って俺は女に囲まれて最高だぜ!! ガハハハハハッ!!」


 とセーラの肩に腕を回して席へと向かうカラト。


「やっと行ったか」

「同じ親から生まれたとは思えないな」

「何て言うか……本当すみませんね」

「あぁいう輩とは真面目に話すだけ無駄だ。流しとけ」

「ですね……あ、これ美味しそうですね」

「ん? あぁ、ダイナマイトボアのステーキか。重いと思うぞ? こっちの方が良くないか?」

「こっちですか? ……デザートバッファローのハンバーグ。こっちも美味そうですね」

「美味いぞ。何なら両方頼んで半分ずつ食うでも有りだ」

「じゃあそれで!!」

「よし決まったな。と店員さんは……あぁいたいた。店員さん、オーダー頼む」

「はいは〜い」


 可愛い系のウェイターさんが俺達のテーブルに来る。

 デザートバッファローのハンバーグとダイナマイトボアのステーキ、更にパンとオニオンスープ、ベーコンと季節の野菜のサラダも追加する。

 と……


「グレートバードの唐揚げを頼む!! あとパンとスープを人数分!!」


 向こうでカラトが怒鳴る様にムキムキマッチョな店員に注文していた。


「金、持っていないんだな」

「どうやらその様だな。来る前に下ろしてくれば良かったのに」



 クスクスと笑いながら俺の言葉に返すロウエン。

 因みに金額的に言うと、こちらが頼んだメニューの方が桁が二つ程多い。

 が……


「へっ、その分良い宿に泊まるからな。楽しみにしてろよ!!」


 と女達に言っている。

 そうか、俺達も宿を決めねばと思っていると……


「お待たせしました〜♪」


 と明るい口調で店員さんが料理を持って来てくれた。

 焼き立て出来立ての為、湯気が昇っており美味しそうだ。


「お待たせ〜♫」


 向こうのテーブルにも山盛りの唐揚げが乗った皿が運ばれて行く。

 カラッと揚がった唐揚げも美味そうだ。

 と思いつつ俺達はステーキとハンバーグを半分ずつ分けて食べたのだがどちらも食べ応えが非常にあり、美味かった。

 どちらもとてもジューシーで力が漲ってくる様な味だった。


「んじゃ、これね」

「はい、毎度ありがとうございました〜」


 食べ終わり、会計も済ませて店を出る俺達。


「ったく……さっさと宿に行くぞ」


 その後ろから出てくるカラト達は早速宿に行く様なので、俺達も宿を探す事にする。


「宿街となると……あっちか」

「ここにはどのぐらい滞在しますか?」

「そうだな…何かしらのクエストをこなしてから発とうと思っているがどうだ?」

「勢いを付けてからって奴ですね。賛成です!!」

「よし、じゃあまずは宿探し…と言ってもここも支払いは俺に任せとけ。良い所を見つけてやる」

「は、はい!! よろしくお願いします!!」

「おいおい。お前は俺の雇主なんだぜ? タメ口で良い」

「じ、じゃあ頼むぞ」

「おう、任せとけ」


 そう言ってロウエンと宿に向かって歩く。

 やはり旅人としてもロウエンの方が先輩らしく、どの宿が安全とかどの宿が安いとかを知っている。

 そうこうしていると……


「チッ。また出来損ないの弟かよ。着いて来てんじゃねぇぞ」

「別に追いかけているつもりは無い」

「ケッ。どーせお前もここに泊まんだろ? だが生憎様。俺様達、この黄金の聖騎士団が使わせてもらうぜ!!」

「はいはいどーぞどーぞ。俺はロウエンオススメの宿に泊まるから」

「んだよロウエンロウエン。お前頼ってばかりだな」

「俺は雇主に頼られて悪い気はしないがな」

「チッ。来やがったよ……で? 一応何処に泊まるか聞いてやるよ」

「聞いても来れないと思うぞ?」

「あんだと?」

「俺達が泊まるのはあそこだからな」


 そう言ってロウエンが指差した宿を見てカラト達は口をアングリと開ける。


 と言うのもロウエンが指差した宿は、カラト達が泊まる宿と違って支払いがシルバーではなくゴールドで支払う宿なのだ。


 別にシルバーでも支払えるのだがそうすると大変な事になるのだ。

 因みにだが、1Gはだいたい10000Sとなっている。


「さぁ、主人様。我らの宿へ」

「お、おう。苦しゅうないぞ」

「では」


 カラト達と別れロウエンが用意した宿へと入るが、別れ際の悔しそうな表情のカラトは面白かったし、少し気分がスッとした。

 もしかして俺、性格悪くなったかも。


「さぁさ、どうぞくつろいでくださいな。我が主」

「おう、ってその主ってくすぐったいな」

「事実、俺は雇われている身だからな。おかしくは無い」

「そうだけどさ」


 そう言いつつテーブルを挟む様に置かれたソファーに座る。

 フカフカでいつまでも座っていたいと思ってしまう。


 この部屋、宿の最上階にあり小さいがバルコニーがある。

 室内にはテーブルとソファー、フロントと連絡が取れる水晶、よく分からないが高そうな絵画やカーペットがある。


「ま、ふざけるのはここまでにして英気を養おうじゃないか。我が、主殿」


 そう言って室内に置かれたハンドベルを鳴らすロウエン。

 すると室内に料理が運び込まれテーブルへと次々と並べられて行く。

 透き通った赤い酒や柔らかく煮込まれた肉料理、揚げられた小魚、フルーツの盛り合わせ。

 村から出たばかりの俺が見た事の無い料理ばかりが並んでいる。


「すげぇ……」

「旅の門出祝いと、あの野盗からの礼だ」

「え、あのおっさん達の?」

「あぁ。オサメさんからでもあるな」

「え……なんで?」

「アイツ等の就職先を見つけただけでなく、あの村を守る手段も与えたんだ。たいした奴だよ」

「……まぁ聞いてみたら、あの人達人殺しはしていないみたいだったし。根は悪い人に見えなかったからさ」

「成程な……良い目をしているな。お前」

「……どうも」

「それはそうと」


 赤い酒を一口飲むとロウエンは俺の首に下げたネックレスを指差し


「何で指輪を首から下げている? 普通指にはめる物じゃないか?」

「あ、これは……」


 俺が首から下げているネックレス。

 実は金属製の指輪に紐を通しただけの物なのだが、ただの指輪では無い。


つがいの指輪って知っていますか?」

「番の指輪? ……あぁ聞いた事があるな」


 番の指輪とはペアで持っていて初めて効果を発揮する魔道具の一種だ。

 それも特殊な物で、一言で言えばカップルが身に付ける事で効果を発揮する。

 発揮する効果としては無難な所で攻撃力や防御力、移動速度の上昇といった所だ。


「成程ね。元カノと一緒に身に付けている……と」

「まぁ、はい……」

「今のお前ならそんな物無くても十分強いと思うけどね」

「…そうですかね」

「その指輪の効果だって微々たる物だ。その証拠に高ランクの冒険者夫婦で着けている者を見た事が無い」

「……でもセーラが身に付けていてくれているからまだ機能している」

「成程ねぇ…まぁでもアイツ等って仮にも勇者一行を名乗ってんだろ? ならそれより良い物を持っているかもしれねぇぞ?」

「それは……そうかもしれませんけど」

「何だ。未練でもあるのか?」

「いや、そう言う訳じゃ……」

「……なら、試してみるか?」

「試す?」

「そうだ」


 そう言うとニヤリと笑うロウエン。

 その笑顔は、俺が今まで出会った人の中で一番悪い笑顔だった。

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