第5話

チャンネル開設から1年が過ぎた高2の春。ユーチューバ―・カオリは快調だった。


4月にはチャンネル登録者が50万人を突破。これは『カオリコチャンネル』が2年半で積み上げた数字に、わずか1年で肩を並べたことになる。


ソロになったことで、ユーチューバーとしての活動の幅はさらに広がった。有名ユーチューバーとのコラボをこなしたことで視聴者層が多彩になり、日本で有名なJKのトップグループの一員に自分がいることを実感した。


中1の時から顔をネットに晒し続けていたので、当然ながら外見への意識、人からどう見られているかというセンサーは同世代の子よりもはるかに鋭いという自負がある。自分の外見には自信がなく、万人に好かれそうな顔立ちだったリコに対する見劣りを常々感じていたカオリだったが、ソロチャンネルを始めて以来、「かわいくなった」「大人っぽくなってきている」などと外見を褒めるコメントが激増して、自信が日々湧きあがっていき、心満たされるのだった。


さらにカオリは「女子高生ユーチューバー」がとてつもないブランド力を秘めたアイコンであることを、まざまざと知ることになる。「企業案件」という名の、10代後半の女の子向けファッションアイテムを動画で取り上げてほしいという依頼が殺到するようになったのだ。


高2の1年間は、各季節ごとにJK向けファッションを着用し、感想を述べるという動画を頻繁に公開した。再生数に応じて企業から報酬を受け取る。女子高生でありながら、個人事業家になったのだ。図らずして。


とくに高校生活真っただ中の「2年生」という学年は、JKビジネスの最も旬になる年ごろであることに気づき、何となく波に乗ってみようとの思いで軽く案件を受けていたところ、瞬く間にビッグウェーブに乗り、JKユーチューバーとしてテレビ、雑誌の取材を受けるようになった。


高2の3学期には「モデル」にも挑戦。複数のティーンズ雑誌のグラビアに登場する。高3の春になるとついに人気週刊誌の表紙を飾るグラビア仕事が回ってきた。中には水着ショットもある。水着撮影のメーキング動画をチャンネルで公開したところ、1日で10万回再生を突破し、瞬く間にチャンネル最大の人気動画となった。


うなぎ上りに高まる人気の中にあり、カオリには不安が芽生え始めていた。一地方都市に住む何の変哲もないごくごく普通の高校生のはずの自分が、ユーチューバーとして世間の注目を浴びている。JKの間でカリスマ的な人気者になっている。巨大産業の目玉商品として世間に晒されている自分が、どんどん自分とかけ離れているように感じるようになったのだ。


それは世に数多いる「人気者」の宿命かもしれない。大衆は、本当の自分ではない、派手に着飾り装いを施した「水増しした自分」を持ち上げている。それは嘘の自分であり、17歳の等身大の自分ではない。動画に登場する、スターを気取り、有名メーカーの商品をPRする自分は、全くの別人に見えて仕方なくなってきた。


そんな虚と実を持った2人の自分の間で揺れ動き、本当の自分の姿さえ見失いそうになってきたカオリ。そんな中で、また企業案件が舞い込んできた。急増した男性視聴者向けに、「女の子がもらって嬉しいプレゼント」を紹介する企画だ。


企業から渡されたカタログになかから気に入った商品を選び、それを贈ってもらって動画の中で紹介する。商品選びの締め切りは今日だ。完全にYouTubeビジネスの仕組みの中に組み込まれている自分。カタログに目を通しても、全く頭に入らない。


そんな中ページをめくっていると、ある商品にふと目が留まった。それは、「ガラスの靴」だった…


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