75話 お風呂でご褒美


 ⏲4時間前⏲


 旅館の隣の駐車場に、ワタシの黒のSMX(クルマ)と、

 その隣にワルキューレの白のパジェロが停めてある。

 SMXの後ろを開けて、目隠しサルグツワの四つん這いの中年奴隷を入れる。


「またね」


「ぼう (^ω^)」


 閉める。


 隣のパジェロの中を覗くと、

 ワルキューレは後部座席を倒して、水平を作り、大口開けて眠っている。

 頭の横には無数の肉まんの下紙だけが見える。

「ワルキューレも台風地獄で相当疲れてるね? ワタシも休むか…」


 フラフラで小さな旅館に入る。


 すぐに、四足歩行のヌエ?が来て、


「いらっしゃい」


 見た目はいかついけど優しそうな女の声だ。


「男の3人組が先にチェックインしてませんか?」


「はいはい、代表者のユキノさんですね?」


「はい」


「案内します。 2階です」


 ワタシは自分の履くニーハイブーツを指差し、


「あの靴… ワタシ人間だから、これ脱げないんですけど」


「大丈夫ですよ、試してみて」


 脱いでみる…

 脱げた? なんで?


「地獄の人間は、旅館やホテルや… あと住所登録した住居内なら服や靴を脱げるんですよ?」


「そうなんですね? 知らなかった」


 アンドロメダの街のラブホも焼肉食べて酒飲んですぐ寝たしね…

 カサンドラの街はそれどころじゃなかったし…


 ああ…

 久しぶりに靴を脱いで…

 はあ… 落ち着くわ…


 すぐ前に、暖簾で「湯」と書かれているのを見て、


「お風呂も裸で入れるってことですよね?」


「もちろんです」


「やばい♪」


「ウチは温泉じゃないし、湯船も小さいですけどね」


「全然♪」


 女将ヌエは2階に上りだしたので、ついていく。

 上がると、女将は、

「あらま? 通路の照明がチカチカ? あとで新しいのに代えておきますから」


「別にいいですよ」


 女将は2階の突き当りのフスマの前で止まり。


「月見の間です。 8人部屋ですけど、気になさらず使ってください。 本日は他にお客はいませんから」


「ありがとうございます」


「トイレとナガシは部屋にあります。 なにかあったら内線の9番まで」


「はい」


 四足歩行の女将は、頭を下げて、


「ごゆっくり」


 その場から去る。


 ワタシがフスマを開けると、


 三体鬼ケルベロスの青鬼ショウと白鬼リュウトがカップヤキソバ食べてた、

 

ショウ 「タバコ買っておいた。 ヤキソバ、ユキノ様も食べます?」

リュウト 「まだ、お湯あるよ」


「いらん」


 ワタシはムチをテーブルに置き、部屋の隅に置かれていた浴衣を取り、


「セントは?」


ショウ 「おフロ」

リュウト 「古いし湯舟も狭いからね。 2人ずつしか入れない。 シャワーもたった1本だけ。 オレとショウは先に入った」


 ワタシは黒のボンデージを脱ぎ、

 死んだ時に、下着なんてつけてなかったから裸になると、


 ヤキソバ食べ終えたショウとリュウトは…

 チラッとワタシを見た後、2人して…

 全くワタシに興味無さそうに寝っ転がってテレビを見ている。 

 2人の向こうでは、

 ワタシのとうさんが大好きだった24の再放送が… シーズン3ね。


 しかし… ケルベロス…

 池袋ナンバー1の、このワタシのナイスバデーにいっさいの興味無しとは…

 さすが本物のBL《ホモ》だわ。


 ワタシは浴衣に着替え、セブンスターに火を付けて、フ~っと吹かした後、

「タオルは?」


ショウ 「脱衣所にあるよ、バスタオルも」

リュウト 「安物で生地はイマイチだけどね」


 ワタシはリュウトを見下ろしタバコを吹かしながら、


「おまえ、一言多いやっちゃな~」


「だってホントだもん」


「店にも事情ってもんがあるでしょ?」


 リュウトは背中を向けたまま、


「キレイ事とかいらねえっし」


 疲れてるからリュウトを無視して、


 ワタシは浴衣でお風呂へ。




 脱衣所で浴衣を脱ぎ、タオルを持って浴室に入ると、

 コッチ向いて湯舟に浸かっていた赤鬼セントが驚いて、


「どうしたの!?☆ ユキノ様!☆」


「ホモでしょ? 気にしなさんな」


 2人が入れるほどの湯舟に入る…


「ああ~~久しぶりのおフロ~~♪」


「オレはそろそろお邪魔します☆」


 湯舟のお湯で化粧を落としながら、


「もう少しだけ、付き合ってくれない?」


「なんで?☆」


「台風地獄のモリガンの時、セントがいなければ突破できなかった… ワタシなりのお礼がしたいの」


「…どんなお礼?☆」


「背中を洗ってあげる」


「ははは… 閻魔女王のユキノ様が?☆ でも☆」


「命令、そこに座って」


 セントは股間をタオルで隠して座る…

 ワタシはお湯で濡れたタオルにボディソープをつけて、

 ゴシゴシゴシゴシと強く洗う。


「気持ちいい☆ ユキノ様☆ うまいね?☆」


「体を洗うの上手いでしょ?」


「ユキノ様?☆ SMクラブの前は☆ そういうお店に?☆」


「ちがう。 ワタシのとうさんはね、若年性認知症の重度でね」


「うん☆ 大変だね☆」


「よくお風呂に入れてあげたから、背中洗うの慣れてるの」


「親孝行☆」


「悪さばかりしてきたけどね… ワタシが死んで、かあさん大変だろうな…月10万の施設に入れるお金なんて無理だろうし」


「いずれ☆ 父さんにも母さんにも会えるかもね… ここは地獄だけど☆」


「そうね、地獄に来たら親孝行するわ」


「認知症も死んだら治るから☆ きっと父さんも心から喜ぶよ☆」


「それは地獄に来て、1番うれしい情報ね」


「ユキノ様が昔☆ 家族で乗っていた2000年式の黒のSMXにこだわった理由が少し分かった☆ 父さんが元気な時に乗っていたんだろうね☆」


「あたり」


 シャワーで背中を流した。


「ユキノ様☆ ありがとう☆」


「いえいえ、どういたしまして」


 直後! セントの背中をパ――――ンっと叩いた、


「痛☆」


 胸を背中につけて耳元で、

「セント、これからもよろしくね?」


「ぁ… うん☆ お先に☆」


 股間を隠しながら足早に、脱衣所へ行った。


 ワタシはセントの座っていた椅子に腰を掛け、そのまま髪と体を洗い…


 湯舟に浸かる…


 きもちいい…


 睡眠不足と疲労がやばい…



 ねむ…い…    zzz




 

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