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「で、話ってなんだの?」
お昼寝の時間を邪魔されて少し怒った顔をしてかすみ先生は二人に言った。
ひとみとみなみはさっき話していた二人の恋と憧れの違いについての質問をかすみ先生に話した。
かすみ先生はいつものように二人の話をふんふんとうなずきながら、全部ちゃんと、しっかりと聞いてくれた。
それからかすみ先生は二人の顔を交互に見てから「それは恋だよ。おめでとう。二人とも」とにっこりと笑ってそう言った。
すると二人の顔は真っ赤になった。
「やっぱりそうですよね、先生」とひとみは言った。
「いや、これは恋じゃないですよ、先生」と慌てた顔をしてみなみは言った。
「どうして大川さんは森谷さんの気持ちが恋じゃないって思うの?」とにやにやしながらかすみ先生は言った。
どうして? と言われると、説明に困ってしまった。(だからこそ、かすみ先生に話を聞きに来たのだ)
「よくわかりません」みなみが言った。
「それ、正解」かすみ先生は言う。
「正解?」
「そう、正解。よくわからないのが恋なんだよ」とどうだ、いい答えだろう。とでもいいたげに自慢げにその大きな胸を強調するようにわざとらしく笑ってかすみ先生は二人に言った。
みなみはこのあたりでかすみ先生に恋と憧れの違いについての答えを聞くことを諦めた。
ひとみは目をきらきらとさせて「じゃあ、私の気持ちは恋ってことでいいんですよね。先生」と嬉しそうな顔でかすみ先生にそう言った。(もちろん、かすみ先生は無責任に「そうだよ。自信を持っていい」とひとみに言った)
「みなみ。やっぱり恋だって」にっこりと笑ってひとみは言う。
「いや、だから違うって」とみなみは言う。
そう言いながら、みなみはその自分を見るひとみの嬉しそうな笑顔の表情にそっと重なるようにして、自分がいじめていたころのずっと泣いていたひとみの顔を見た。
そのひとみのなにかを訴えかけるような泣き顔を見て、みなみの心はとても大きくずきっと傷んだ。
……どんなに仲良くなったとしても僕がひとみをいじめていた過去はなくなったりはしない。それは永遠にひとみの心の中に、そして僕の心の中に残っている。
そんなことをみなみは思った。
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