ケータイとホワイトアウト / ビックな熊

追手門学院大学文芸同好会

第1話

「俺今吹雪が吹き荒れる雪山で遭難している気分だ・・」

「はっ?」


 突然車の後部座席でケータイを見ていたAが訳の分からないことを言いだし、為果津しはつはあたりを見渡すが、雲一つない空が広がっており雪が降る気配もない。


「お前雪なんて降る気配ないだろ。天気予報にも今日は晴れるって言ってるし、それとも天気が急落しそうなのか?」

「俺の目の前はもう何も見えない状態だよ。これがホワイトアウトっていうのかな?」

「どこか体の調子が悪いなら引き返そうか?」


 新年を山小屋で友人たちの誘いを受けて泊まりに行こうとAと一緒に向かっている最中だが、調子の悪そうなAがいる、帰るしかないか・・。


「大丈夫。別に体は元気だから。」

「明らかに大丈夫じゃないだろ!さっきから顔色も悪そうだしほかのやつらには俺が連絡しとくから今日は引き返して休もう、それとケータイばかり見るな!体調が余計悪くなる。」


 為果津はAの鼻っ柱にこぶしを埋め込みたい気持ちを抑えて、しかし普段より強い怒りを抑えたような声をAに向けるが、Aはまるで為果津がいないかのようにずっとケータイを見ている。ふざけんじゃねえ!こっちはお前のこと心配してやってんのになんだその態度!反応のないAさすがに我慢の限界と思い為果津はUターンしようとハンドルを切る。怒りの感情がAとは違った荒々しい大雪が豪雪のように降り積もっていく。


「キターーーーーー!!!」


 Aが突然叫びだす。その顔は喜色満面の笑みで、Aの感情を覆っていた雪は消え晴天のような顔色をしている。


「ああぁ、、」


 Aとは反対に、為果津の顔は絶望の色に染まっている。


「さっきは悪かったよ。ちょっといろいろあってな、俺は大丈夫だし早く行こうぜ!」

「無理だよ・・」

「なんで?」

「周り見てみろよ・・」


 絶望した顔の為果津を見てAはあたりを見渡す。

 車も外は全て白に覆われていた。

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