ダンジョンには元暗殺者が住んでいる
落花生
第1話美味しい食事
●美味しい食事
私は、美味いものが好きです。
仕事でダンジョンに潜るときには味気のない携帯食も食べていましたが、それでも美味いものを前にすると人知れずテンションが上がります。私の最近のお気に入り『犬に死体』という定食屋でした。
ネーミングセンスは悪いのですが、出てくるものは絶品なのです。
この店は仕入れた肉がどんなに赤みが多く硬いに肉だとしても柔らかく仕上げることで有名でしたし、何より私の好みに味が濃いのです。今日も私は食堂に着て、名物の肉炒めを注文していました。
『犬に死体』は、いつでも混雑しています。
この店を利用するほとんどのものがそうであるように、私ことシナは調達屋であります。
調達屋は安全地帯と呼ばれる人口密集地において、おそらく一番多い仕事だろうと思われます。内容はダンジョンの奥に潜って、死体やモンスターから金目のものや食料を奪ってくる仕事です。その仕事内容から心ない者は、私たちを死体あさりと呼んだりします。ですが、私たちが死体あさりをしなければ、安全地帯の食料も経済も回らないというのが実情です。
「あんたが、調達屋のシナか?」
声をかけられて、私は顔を上げました。
私は今日も『犬に死体』で食事をとっていました。賑やかな『犬に死体』そんな店内で、私の視線の先にいたのは少年でした。
十五から十七歳ほどの年齢だと思われます。気が強そうな吊り上がった眉に、安全地帯出身らしい白い肌。『犬に死体』と店名が書かれたエプロンを身にまとった少年は、私の前に座りました。おそらくは、ここの下働きの少年でしょう。
「あなたは?」
私は、少年に尋ねました。
知り合いの少ない私に、この年頃の子供がいる顔見知りなどいません。人気店で働いているような子ならなおさらです。
「俺は、マサネ。この店で働いている。おまえに頼みたいことがあるんだ」
マサネは睨むように、私を見つめていました。
おそらくは生まれつき眼光鋭いのでしょう。
私は、微笑みました。
「人気店のお手伝いさんが、私に何の用ですか?」
「お手伝いじゃない。俺は、一応この店でシェフとして働いてる。バカにするな」
ちょっとばかりむっとしたマサネに、私は意外だと思いました。
マサネの年代で働いていることは別に珍しくはありません。
ですが、料理を任されているというのは意外でした。
「その肉炒めも俺が作ったんだ」
「大変美味しいです」
私の言葉に、マサネは毒気を抜かれたようでありました。
改めて、マサネは私をしげしげと見つめます。
「……あんた、見かけによらずに素直だな」
「美味しいものに、美味しいと言わないのはバカ者がすることですよ。それより、私を呼んだわけは?」
シェフと調達屋。客と店主という関係性でなければ、本来は交わらないような職業だと思います。
「あんたに、探してほしい人がいるんだ」
マサネは、そう言いました。
「私は探偵ではないですよ」
「分かってるよ。ただ、俺を下に連れて行ってくれればいいだけだ。親父を探すために……親父が行方不明になったんだ」
マサネの父親も『犬に死体』で働いていたといいます。
ですが、三日前から姿が見えなくなったというのです。マサネも父親を捜していましたが、思い当たる節はすべて探したが見つからなかったようです。そこで、最後の望みをかけて私に声をかけたとのことでした。
「……あなたは。お父様がダンジョンの下層部に潜ったと思っているのですか?」
私たちが住んでいるのもダンジョンの一部です。ただしモンスターなどは出現しない安全地帯であり、本来人が住まうような場所ではないので国からの税金がかからないという利点がありました。
ただし、地下に伸びるダンジョンに住んでいるわけだから日の光は刺さず、食料もダンジョン内で取れるモンスターの肉となります。それを了承したものたちが安全地帯で街をなし、住んでいるのです。
マサネは、おそらくはその二代目に当たるのだろうと思われました。安全地帯に住む一代目は、貧乏や仕事のために安全地帯に移り住んできた変わり者たちですが、二代目あるいは三代目は安全地帯で生まれて外の町を見たことがないかもしれないものたちです。その特徴は色白な肌で、日光に当たって育たなかったせいでそのように育つのです。まるで、モヤシのように。
「親父は元々は調達屋だった。一人で潜った可能性は高い」
マサネは、そう言いました。
私は、果たしてそうだろうかと考えました。
元調達屋ならば、下層部の危険性は知っているはずです。ブランクがある状態で、一人で潜るとは考えにくいと思いました。
「下ではなくて、上に行ったのではないですか?」
上というのは、ダンジョンからでたごく普通の町のことです。王に税金を払ったまともな市民が住まう街なのです。だが、別に上に行ったからと逮捕されるようなことにはなりません。ですが、下と上では物価が随分と違うので、下に住んでいる人間が上に逃げるというのは現実的ではないのです。それでも一人で下層部のダンジョンに行ったと言われるよりは現実的なように思われました。
「それはないと思う。親父は上嫌いだ」
マサネは、そう言います。
「……あなたは本当に父親が下層部のダンジョンに潜ったと思っているんですか」
「ああ、お前に父を探してほしいんだ。ついでに、この店の従業員も」
その言葉に、私は眉を寄せました。
「最近、この店の従業員が行方不明になっているんだ。親父がそれに巻き込まれたのかもしれない……」
「その話を先に言いなさい」
私は、顔をしかめます。
行きつけの店で、そのような事件が起きていたなんて目覚めが悪いからです。
「いなくなったのは、どんな従業員ですか。なんでもいいんで教えてください」
私の言葉に、マサネは答えました。
「いなくなった従業員たちは親父をのぞいたら、全員が女だよ。だから、親父の件は従業員が行方不明の件とは無関係だと思ったんだ」
私は、持っていたフォークをもてあそびます。
「その事件を調べようとして、なにかの事件に巻き込まれたとも考えられますよ。……まぁ、探してみますが」
「下層に潜るならば俺も連れて行ってくれよ」
その言葉に、私は眉を寄せます。
「遊びに行くのではないのですよ。命の保証はできません」
「分かってるよ。ただ、親父が行ったかもしれない場所を見たくって」
剣ならそれなりに扱える、とマサネは言いました。
「……分かりました。ただ危険があると判断すれば、すぐに引き返します。それと貴方が一緒に潜る限りは、案内役として報酬を要求しますがいいですね?」
シナの言葉に、マサネは頷きました。
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