応募券

弱腰ペンギン

応募券

「おじょうちゃんおじょうちゃん。この応募券をあげようね。これを7つ集めるとね」

 私は防犯ブザーを引っ張った。おっきい音が鳴った。

「っちょ。怪しいものじゃないよ。おじょうちゃんみたいな女の子に応募券をあげる魔法使いのババアだよ」

 私は二つ目の防犯ブザーを引っ張った。おっきい音がユニゾンしている。

 スマホを取り出すと緊急通報をするべく、ババアから距離を取る。

「ええい、違うというておろうに」

 ババアが杖を振ると、ブザーの音が消えた。なので迷わず通報した。ところが。

「少しは迷え若人! えい!」

 ババアが杖を振るとスマホの電源が落ちた。なので、緊急手段としてカバンから道具を取り出すと地面に投げつけた。

「煙幕! このガキャぁ、忍者かい!?」

 驚いたババアが杖を振って何かをしている。今のうちに逃げよう。通学路を家まで引き返そうと背を向けた瞬間だった。

「ハァ、ハァ。余計な力を使わせおってからに」

 ババアが私のスカートを掴んでいた。


「ここで、声を出しました」

 私は近くを通りかかった警官に助けてもらった。

 今は交番について、ババアとのやり取りを記録してもらっています。

「なるほど。不審者どころじゃなかったね」

 ババアは捕まり、杖を持たせると何しでかすかわからないと、ぐるぐる巻きにされている。

 なにか言い訳をしていたけど、とっても怖かった。

「じゃあこのババアを牢屋に入れるからねー」

「待てというておろうに」

「いつの間にさるぐつわを外したのかなー。お口にホッチキスしましょうねー」

「文具を持ち出すでない! カチカチ言わせるんじゃない! コラ!」

 警察のお兄さんも怖いです。ババアに対して本当に怒ってるみたいです。

「だったら黙ってろやアァン」

「け、警察がこんなことして——」

「子供を守るためだったらなんだってしてやるわ。てめーはやっちゃならねーことをしたんだよ」

「だから誤解だというておろうに」

「この子のスカートを掴んだのは?」

「いや、逃げるから——」

「つかんだのは?」

「つかんだけども」

「ギルティ」

 警察のお兄さんが激しくホッチキスをカチカチと言わせ始めました。芯が何個も出てきています。

「国が亡びるんじゃ!」

 ババアが何か言い出しました。必死に何かを伝えようとしています。

「この子には関係ないからー」

「少しは興味もとうよ若人!」

「おままごとに付き合うつもりはありません。さぁホッチキスしましょうね」

 おままごとは好きです。この間、翔太くんと牡丹と薔薇ごっこしました。

「関係あるんじゃ!」

 ババアが必死になっているので、私は少し興味が出てきました。

「関係あるってなあに?」

「おぉ。この世界はな。悪い魔王によって滅ぼされ——」

「ホーッチキス。ホーッチキス」

 警察のお兄さんがババアの口にホッチキスをあてました。すごく怒ってます。怖いです。

「ふがふが!」

 それでもなおしゃべることをやめないので、お兄さんにお願いしました。

「少しだけでいいので、おしゃべりしてみたいです」

「ダメです」

 断られました。

「いいかい。犯罪者はね。自分が助かるためだったら何でもするし、どんな悪いことだって平気でやっちゃうから犯罪者っていうんだ。そこに慈悲はない」

「でも!」

「ダメです」

 お兄さんはどうしても許してくれませんでした。

「でも、ホッチキスもダメだと思います!」

 私がそういったら、お兄さんもダメだと思ったようで動きが止まりました。

「そうだね。仕方がない。しっかりとしたロープでさるぐつわしようね。タオルだと外れちゃうから」

 そう言って奥に行きました。きっと少しの間おしゃべりする時間をくれたんだと思いました。なので。

「どういうことなの?」

「おぉ、やさしい子。さすがわしの見込んだ——」

「はよ」

「……そうじゃな。はよするかの。魔王が来るんで、わしみたいな魔法使い7人と会い、応募券、と言ったが実際は魔法のチケットを7つ集めるのじゃ。そうすると強い魔法使いになれる。その力で魔王を倒しておくれ」

「なんで魔法使いの人7人がいっぺんに来ないの?」

「そこはほれ。ブラジルとかにおるんでの」

「なんで緊急事態なのに一か所に集まらないの?」

「時間がかかるでの」

「なんで私が探す時間があるの?」

「……それは——」

「なんで7つも集める必要があるの?」

「試練の数がじゃの」

「なんでおばあさんたちは魔王が来るってわかったの?」

「それはわしらが魔法使いで——」

「なんでおばあさんたちで戦わないの?」

「少しはしゃべらせんかい!」

 わからないことが一杯だったので、いっぺんに聞いてしまったのがいけなかったようです。ババアの血圧が上昇して、顔が真っ赤になってます。

「強い魔法使いになるにはの。どうしても試練を乗り越える必要があるのじゃ。それが各地に散らばっておって——」

「その前におばあさんたちが試練を受けて強くなればいいじゃない」

「わし、ばあさんじゃからの。強くなれない」

「その強くなるのを、子供に押し付けるの?」

「……悪いとは思っておるよ。でもそれ以外に方法が」

「固定観念に縛られるのは、大人の悪い癖だと思います」

「子供が純粋な目でわしらを否定してくるよ!」

 ババアが泣いてしまいました。

「おばあさん。泣かないで。迷惑だから」

「追い打ち!」

 いつもママに言われてる言葉では泣き止んでくれませんでした。どうしよう。

「あ、そうだ。友達を紹介します!」

「友人をいけにえに捧げるかの如き所業、さすがわしの見込んだ子じゃあ……」

「だって、私じゃなくてもいいんでしょ?」

「いいや。君じゃなきゃダメなのじゃ。強い素質を持つ子でなければの」

「私、魔法なんて使ったことないよ?」

「いいんじゃいいんじゃ。これから覚えるのじゃ。このチケットを持つと、一つにつき一つ、魔法が覚えられる。そうして七つの魔法を覚え試練に打ち勝ったものが魔王を倒すプリズムマジシャンとなれるのじゃ」

「へー」

 興味がありませんでした。

「もう少し興味を持って!」

「だってお受験あるし」

「中学受験! いやいや、もうお受験できなくなっちゃうんだよ? 魔王が来ると」

「でも、ママのお片付けもまだだし」

「ママがやってくれるから大丈夫じゃよ」

「ううん。ママはやってくれないよ。だって私がママに眠ってもらったんだもん」

「……え?」

「昨日ね。パパと喧嘩してね。ママが私のことをぶつの。だからね。よく眠れるようにね。バットで叩いたの。疲れてるから怒ってるんだと思って。だって私が眠れないときは、ママがいつもそうしてくれてるから」

「えぇ、え?」

「でもね。今日ね。起きたらママが冷たくなってたから、お片付けするの。ママはね。人が冷たくなったらお片付けするんだって、弟をお片付けしてたから」

「ちょっと待ちなさいお嬢ちゃん。何を言ってるのかな?」

「だからね。お片付けするの」

「警察のおにいさーん! たいへーん! 急いできてー!」

 ババアがお兄さんを呼びました。

 その後、なんかいっぱい大人の人が来て、大騒ぎになりました。けど、結局魔法使いのチケットを集めることになり、魔王と戦うことになりました。そして。


「魔法、使えよ……ぐふっ」

 富士山の火口に現れた魔王を、バットで倒しました。

「やった!」

 魔法の力ってすごいなと思いました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

応募券 弱腰ペンギン @kuwentorow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る