How trust you?

Forest4ta

第1話:信じたい

‐1‐


 机に置いている箱に寄せていた自分の携帯を取り停止ボタンを押した。この時代だからこそ出来るアプローチをやってみたが、台本があっても上手くできないことをアドリブならなおさら上手く行くわけない。自分を顧みろ、あの人に話そうと思ったら頭が真っ白になっては「どうも」ってくらいの挨拶しか出来ないくせになにがビデオレターだ。

 自分がハイになっていて勢いだけで好きとかなんとか直接言ってみろ、絶対後々ずっと後悔する。真剣にやってその結果ならまだしも大した覚悟も背負わずに振られたら溜まったもんじゃない。

 こういう時、だいたいの人から出るアドバイスは「出来るか出来ないかじゃなくやってみろ」。あんたらはそうやって無責任に言えて自分にも絶対的自信があるだろう。でも俺には無いし成功した未来以外見たくはないんだよ。

 あぁクソ。そうこう考えてたら日付が変わっている。いつもこうだ、休日であってほしい時に限って平日だ。まぁ、モヤモヤした霧を手で掻く程度に晴らした程度だけどする前よりかは眠れそうだ。いい夢なんざ見れるわけない。悪夢だよ。


‐2‐


 日が当たる席で明るく前向きな思考を持つコミュニケーション能力が高い奴らを眺めていた。

 彼らが少しうらやましい。誰とも打ち解けられそうな雰囲気とトークスキルを持っていて尚且つ顔がいい。だからって嫉妬心を抱いてる訳じゃなく、なんでああなれたたのかが興味深い。

 自分がそこに居たらどうなるのかが怖い。人生経験少ない身で分不相応な発言なのを承知で言うが、人間ってのは理解出来ない物はおろか自分のステージとは違う物を見下すかおもちゃにするのが常だ。つまり俺にもブーメランが降りかかる。

 断言出来るのは人格や成したこと含め俺の全てを軽くおちょくられて見下された経験もしたし、集団の中に居るのをいいことに皆と一緒になってたかが一人に対して見下した経験もある。そういう自分を省みたからだ。恥ずべき過去なのは分かっているけどあの頃の気持ちを考えてみると心地が良い気分は何処かに確実にあった。

 でも己になんかしら意思があれば軽々しく人を蔑ろにするグロテスクさに気づくはず。しかし、当時は気持ちの良いぬるま湯―誰の気持ちも自分のことも何も考えてなかったこと―に浸かっていた身でなにも分かろうともしなかった。でもある時なにか目覚めて今までの行いを自分と相手に悔い、気持ちを周りに伝えスッキリしたが代償として徐々に心理的な距離が離れて最終的に誰とも話さなくなった。今思えばその程度で離れるならつまりそういうことなんだろ。まぁ、今は進学して気持ちを殆どリセットが出来て友人関係が無いわけでもない。

 

 「よぉ」


 「おう」


 そんな自分を正当化する皮肉混じりの物思いにふけている最中、今のところ距離が一番近い友人の谷口が話しかけてきた。こいつは距離感はちょうど良く接してくれて気も趣味も合う。友人というかパズルのピースが組み合ったような存在だ。

 

 「なぁ、釜田。今日席替えらしいぜ」


 「ふーん」


 席替えに別にそこまで興味は無かった。でも話題作りには持ってこいだけどここでの話題ではなく隣の人と喋る時の話題作りだ。今はただ相槌を打つしか出来なかった。


 「興味ねぇのか?席替えなのに。もしかすると気になる女子と話せるかもだぜ?」


 「物思いにふけてたからこんな気分でね。あと興味無いっていうかなにか変わるわけでも……」


 湯川さん、昨夜に俺の気持ちを綴ったビデオレターを作う原因となったその人とのもしもを何回も考えてしまった身なだけに容易く想像してしまった。否定を出来ない気色悪さが顔に現れていくのを堪える。


 「素直じゃねえ~、何考えてんだよスベタめ!期待しすぎだろ。でもあの人と隣になったらナニ話す気だ?」


 「野暮ったいんだよお前」


‐3‐


 おい、冗談?


 嬉しいと思うべきかマズイ事態と捉えるべきか。いや、期待してたことを素直に嬉しいって思えよ。だからって流石に心の準備が欲しかったんだが。

 湯川さんと席が隣になった。こんなの絶対耐えられない。既に顔は頬の筋肉を無理やり固めてニヤけないようにしているがいずれニヤケが出るはず。

 目をあの子にいったん向けた。まだ指定された席には来ておらず、今居る席から離れてしまう友人と話していた。男女両方混じっていて、そういう生まれつきなのか後天的な能力がうらやましく、再びその能力と彼女に話している人達に嫉妬心が出てる。なんの権利があって彼女と何気なく話せるんだ、なんで彩音さんはそこまで人と仲良く出来てたった一人と深い仲を作ろうとしてないんだ。

 


 「よろしくね」


 やべぇ、時間の流れるペース速すぎる。とにかくするべきことをした方がいいよな。どうすればいいんだ?どう話をすればいい?なにを聞けばいいんだ?そもそも話しかけても大丈夫なの?というかあの子にどう思われているんだ?


 「あ、あぁ。よろしく。俺、釜田純……です、はい」


 「そんなかしこまらなくても知ってるよ。あたしも名前言った方がいいのかな?」


 彼女の表情が慈愛に満ちているように見えた。それでいてやせ気味でも太り気味でもない素晴らしい体系と整った顔つき―顔がいいならその分の手間なんだろ―。身長が自分と同じくらいで庇護心が出たりも守ってほしいとも思える愛くるしさ。そしてもし胸の中で寝れたら一生寝てもいいと思える乳房。こんな子どうあがいてもずっと自分の隣に居てはくれない。先の見えない階段の上にいつか見えるかもしれない可憐な花畑。


 「あたしも名前言うよ。湯川彩音。ってどうしたの?」


 なんでもないって言え。さもなきゃ変に思われるし彼女の友人にも変に思われて馬鹿にされる。それだけは避けたい。


 「まぁ、仲良くなりたいし名前くらい改めてってことで」


 気でも狂ったか。言ってること自体はたぶんなんてことないはず―そうであってくれ―。しかし何を言おうと今の俺にとっては未知の領域でどんな行動を取ろうと先も見えないし何処から銃撃が飛んでくるかわからない密林を歩いてるようなもの。全部の神経が摩耗されて頭が使い物にならなくなっている。

 室温とタイルの持つ冷たさのせいか上履きから靴下などで見える汚れからバイキンや汚れに塗れた床が気持ちよかった。よくアクション映画であるような耳鳴りがなって目の前が霞んでいくそれが実際に起きるだなんて思いもしないかった。幸い一番後ろの席なので迷惑は最小限で済んだ。


―4―


 手入れしているからかニキビなどによる凹凸が見られずちっちゃくて整った顔。スカートから見える細いけど肉感の見られるふともも。すりすりしたら摩擦で傷つきそうな脆いところがまた好きだ。そういうところに惹かれたってのなら結局身体が目当てか?大学生のステレオタイプよりヒデェな。

 握り合ったら心地よい温もりで思わず強く握ってしまいそうな手。そこまで近い距離の関係になりたい。

 一歩ずつ、俺に近づいてきて。抱きつこうとしているのか。来てほしかった。もっともそんなことが起きたら上手く行き過ぎて今度は身の危険を疑わなければならない。

 なぜなら、自分含めた周りのなにもかもが信じきれないしどんなに都合がいいことが起きても後で何かしっぺ返しが来るんじゃないのか。


 「起きろよや、飯食ってとっとと勉強するふりしろ。試験とさっきの汚名返上をしたいなら出た方がいいぞ」


 なにかを予想したり考えごとの最中にパーソナルスペースに入られるとビックリするよ。これだけは何回あっても慣れる自信がない。それに好きな人が俺の寝てるところに来るんじゃないかって無謀にも期待してただけに心臓の高鳴りからのペースダウンが頭に響く。


 「お前さぁ、起きた直後にそんな近くで話しかけるかな」


 「たまたまだろ。あるいは俺が一番おまえのことを起きるタイミング含めてよく知っているか」


 なにせ長い付き合いだ。こいつと親しくならなかったら今頃どうなっていたんだろう。


 「それとも帰るか?その場合次の試験で俺以下のバカが増えて俺の順位が繰り上がるが」


 「……どうすればいいんだろ」

 

 「あ?」


 いや、授業には出るべきだ。貧血は引いてきたし飯も食えそうだ。この場合の問題は湯川さんに対してだ。午後の時間全部で彼女の隣に居ることになる。その場合は絶対話しかけるチャンスはいくらでもあるのだ。でも何を話せって?変に気まずくなったら?仮に会話が続いてももしイヤイヤ続けられたら?だからといってなにも接することもなく過ごせばそれも耐えきれない。

 じゃあこのまま帰るとなると彼女の隣を過ごす日を1日無駄にする。でもこの状態で過ごそうにも集中も出来ないしまた迷惑を掛けかねない。


 「知らんよ、てめぇで考えろ。流石にそこまでお前のことは分からないし聴かれても、なぁ?」


 「んぁー……もう帰るわ。どうせ帰って自分で勉強すればいいし」


 「じゃあ、お大事に。湯川さんには俺がよろしく言ってやろうか?いや、むしろ俺がよろしくやってやるよ」


 ムキになるとわかってやってるからタチが悪いしハッ倒してやりたい。こいつの狙い通りなんだろう。


 「じゃあとっととベッドから出て、彼女の隣で気まずい思いをしろ」


 わかっている。なにか行動を起こさなきゃひとつも理解出来ない。それを教えてくれたのがこのからかい上手もとい人間を楽しんでる谷口だ。こいつから俺に接触してこなかったらかなり運命が変わっていたはず。都合がいいことが起きたらしっぺ返しが来るだなんて考えているが、こいつの存在でそんな考えがさらに強まったのかもしれない。

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