第120話 褒賞は…
レイジ
スキル獲得:〈限界突破+2〉
バモットを倒したことで、〈限界突破〉のスキルを手に入れた。
さらに紅華女王から経験値を返してもらって、
レイジ
レベル:99 → 114
ついにリミットブレイクを果たしたぞ。
しかしこの〈限界突破〉のスキル、〈神智〉で調べたところによると、+値に応じてリミットが存在するらしい。
+2であればレベル130までのようだ。
しかも熟練値が入ってこないスキルなので、この限界値をさらに越えようと思うと、別の〈限界突破〉スキルを有した生物等から奪うしかないらしい。
っと、それより早くおっさんを治療してやらないと。
部屋の隅でボロボロになって倒れていたサルードに回復魔法をかけてやる。
そして意識を取り戻した彼から話を聞くに、どうやらあの悪魔、地下世界と繋がっているとされている奈落から地上に上がってきたらしい。
おっさんが奈落内で遭遇し、どうにか逃げたはいいが、その後を付けられてこの国まで誘導してしまったそうだ。
「元男爵って言ってやがったな。自分の領地を失ったのかもしれねぇ」
サルードが言う通り、称号にも〝元〟が付いていたっけ。
「あの悪魔、この地を自分の領地にするなどと言っておったぞ」
と、女王。
つまり、地下世界で領土争いに負けたのか何なのか知らないが、領地を失って地上に進出しようと考えたのだろう。
「なんにせよ、大した被害が出なくてよかった。真っ先にギルドに声かけといてよかったぜ」
「ええ、助かりました。お陰ですぐに冒険者たちに緊急要請が出せたみたいですね」
悪魔たちの掃討は終わり、皇都には静けさが戻っている。
あれだけの数の悪魔が現れたにもかかわらず、被害を最小限に抑えることができたのは、俺たちが来るまで奮闘してくれたギルドの冒険者たちの頑張りのお陰だ。
特に下級悪魔くらいなら単身でもやり合えるレベルまで育て上げた、あの選抜チームのメンバーたちが大いに活躍したという。
くくく、今回の件できっとギルドの名が上がるぞ。
「しかし、せっかく報告に来てくれたというのに、おんしには悪いことをした。兵士たちが魔物か何かと間違ってしまったようでの」
魔物か何かって、随分と酷い言い様だな……いや、俺も最初はゴリラ系の魔物かと思ってしまったけど。
「がははは! 気にするな! オレのせいで奴を連れて来ちまったし、むしろこっちが謝らねぇとならねぇくらいだ!」
サルードはぼりぼりと頭を掻きながら笑う。
フケがぱらぱらと落ちた。
……うん、こんな不潔な状態のおっさんにも責任あるな。
「そ、それと……れ、レイジには感謝しても仕切れぬ……。おんしが駆けつけてくれなければ、今頃わらわはどうなっていたことか……」
礼を言ってくる女王だが、声が絞り出すように弱々しい。
頬が赤く染まっていて、なぜか俺に目を合せてこなかった。
まぁ上級悪魔に襲われたんだ。
女王と言えど、そのときの恐怖が少なからずトラウマになってしまったのかもしれない。
娘の刀華が気遣って声をかける。
「母上、体調が優れないようだ。休んだ方がいいだろう」
「う、うむ、そうだな」
今回の一件に関する褒賞については、後日改めてということになった。
◇ ◇ ◇
刀華は母親である紅華を支え、寝室へと連れていこうとしていた。
「……刀華よ」
「? どうされた、母上?」
不意に小さく名を呼ばれ、刀華は母親の顔を覗き込んだ。
熱があるのか、かなり頬が赤い。
「……レイジとは、その後どうなんだ?」
こんなときに何だと、刀華は首を傾げつつ、
「どう、というのは?」
「決まっておるだろう? もう抱いてもらったのかということよ」
「なななっ、こんなときに何を言っておるのだ、母上っ?」
「……その反応だとまだのようだの。それどころか進展も無しと見た」
「うぐっ」
「まぁ、そんなとこだろうとは思ったがの。しかし、そんなことでは誰かに取られてしまうぞ? もしかしたらすでに誰かとできておるやもしれぬ」
「そ、それはない! ……はず。少なくとも、私の知る限りでは皆まだ一方通行だ」
それから刀華は簡単にその辺りの自分の印象を話した。
すると先ほどまでの不調が嘘のように、紅華は次第に顔色が良くなっていって、
「なるほどの。おんしと言い、どうやら小娘ばかりのようだのう……くふふ」
「……は、母上?」
何やら意味深な笑い声を漏らす女王に、刀華は当惑の表情を浮かべるのだった。
◇ ◇ ◇
あの上級悪魔の襲来によって、ジェパールにおけるギルドの株が大きく上がった。
悪魔相手に一歩も引かずに戦い、街の人たちを護った冒険者たちに対する信頼も上がり、ギルドにどんどん依頼が舞い込むようになってきていた。
さらには冒険者になりたいという若者たちが増えているようで、連日のようにギルドに希望者がやってきている。
被害があった家屋の建て直しや修繕などの肉体労働のため、冒険者たちを無償で貸し出したことも評価を上げた要因だ。
困ったときに助けてもらうと、人はコロッと靡いてしまうものなんだよな……くくく。
もちろん俺の信者も大幅に増えた。
ジェパールだけでも三万人を超えており、信者数二十万人に迫るシルステルには遠く及ばないものの、それに次ぐ数である。ちなみにバランが一万人、フロアールでは二千人ほどだ。
それはそうと、今回の一件については今後も気を付けないとな。
他国にもこの情報は伝えてあるが、いつまた同じことが起こらないとも限らない。
フロアールでジールアの爺さんを筆頭とする評議会の連中から聞いた話だが、近年、悪魔の出現数が急増しているとか。
悪魔が棲息する地下世界で何かが起こっているのかもしれない。
俺は女王から直々に皇宮へと呼び出されていた。
先日の褒賞についてだろう。
しかしいつもならパーティメンバー全員で謁見することが多いのだが、今日は俺一人だ。皇宮からの使者が何度も念を押すように「レイジ様お一人でお越しください」と言っていたので、首を傾げつつそれに従ったのである。
まぁ俺が代表して受け取ってくれということなのだろう。確かに今回はファンたちだけでなく、ギルドの冒険者皆が活躍した訳だし、わざわざ全員に女王が自ら褒賞を与えていては時間がいくらあっても足りない。
俺は近衛兵と大臣に案内され、謁見の間に。
と思ったら、なぜかもっと皇宮の奥へと招かれてしまう。
しかも途中からは案内人が侍女へと代わっていた。
「こちらでお待ちください」
そう言って最終的に通されたのは、
「……何の部屋だ?」
謁見の間ほどではないが、それなりに広い。
ジェパール特有の畳張り。
なぜか部屋の真ん中に布団が敷かれていた。
「待たせたの」
しばらくすると襖が開いて女王が姿を現す。
なぜか真っ白い衣装に身を包んでいた。
「これは一体……?」
「ふふ、そう身構えずともよい。伝えておいた通り、先日の褒賞を渡すだけだからの」
女王は俺の方へと歩いてくる。
普通、謁見の際には彼女が座る玉座と謁見者との間には段差があり、そして距離があるものだ。だが今、女王はすぐ目の前までやって来た。華やかな香りが鼻腔を擽る。
「褒賞は――」
女王は言いながら白衣の帯をするりと解いた。
白衣が足元に落ちる。
「――わ、ら、わ❤」
女王は中に何も身に着けていなかった。
とても三十八歳とは思えない美しい裸体が露わになる。
予想だにしなかった展開に俺が呆然としているのを良いことに、女王はその蒸れた身体でしなだれかかってくる。
「わらわを好きにしてくれ」
紅が引かれた唇から吐息のような声が漏れ、俺の耳を擽った。
「い、いやいやいやいや、何考えてるんですかね!?」
「わらわではだめかの?」
「そ、そういうことじゃなくて……っ!?」
「わらわは本気ぞ? あのとき、身を挺して護ろうとしてくれたおんしの雄姿。思い出すだけで胸が高鳴る。こんな気持ちになったのは、皇配と死に別れて以来……」
俺は思わずごくりと唾液を嚥下する。
熟女の経験と言うべきか、計算され尽くされたような魅惑的な仕草や表情、そして匂い立つような色香が、この場から逃げることを許してくれない。
「ああ、嬉しい。わらわに興奮してくれておる」
女王のしなやかな指先が、俺の下腹部をゆっくりと撫でていく。
マズイ。
これは無理だ。
この毒牙からは逃れられない。
俺はこのまま彼女に身を委ねてしまいそうになって――
「母上ぇぇぇぇぇっ! 何をしておるのだぁぁぁぁぁぁっ!?」
襖が思いきり開き、轟いた刀華の声で我に返った。
背後から「いけません王女殿下っ!」「陛下が立ち入り禁止と……っ」などという侍女たちの慌てる声が後ろから聞こえてくるが、刀華は構わずズカズカと近くまで歩いてきた。
紅華が恨めしげに娘を見上げる。
「……刀華よ、娘と言えど邪魔はさせぬぞ?」
「は、は、恥知るのだ! こんなところに連れ込んで無理やり……っ!」
「無理やりなどではない。これを見よ」
女王が俺の股間を指差す。
「~~~~~~~っ!!!???」
刀華が顔を真っ赤にさせた。
「相変わらず初心だのう」
「う、う、うるさいのだっ!」
「はぁ……仕方がないの。そんなだから母親に先を越されてしまう」
女王はそう嘆息してから、何を思ったか、
「せっかくの機会だ。レイジがよければ娘も一緒に可愛がってくれぬか? 俗に言う母娘丼というやつだの」
良いわけねぇだろ!
刀華の乱入でどうにか正気を取り戻していた俺は、全力でその場から逃げ出したのだった。
この世界の王様にはまともな奴がいねぇのかよ!
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