第78話 御前試合
御前試合の会場はちょっと変わった場所にあった。
海の上である。
陸地から数百メートル離れた海上に建設された、木造の巨大建築物。
「コ」の字を上下に伸ばしたような形状をしている建物が観客席。それに囲まれるように、リングのようなものが独立して海の上に浮かんでいる。
「すごいな。まさに水の都に相応しい趣向だ」
俺は会場を眺めつつ、思わず感嘆の声を漏らしていた。
すでに会場入りし、控室へと通されていた。試合場がよく見える特等席でもある。関係者ということで、ニーナやファンたちも一緒だ。
観客たちが続々と会場へと集まって来ていた。
収容人数はおよそ三万人らしい。
ここで活躍すれば、この国にも俺の信者が増えるかもしれない。
そう言えば、この間の勇者との戦いの際、俺の神スキルの一つである〈献物頂戴〉が+3に上がった。
新たな効果が加わっている。
Q:〈献物頂戴+3〉って?
A:神固有のスキル。信者が自らの力で得た経験値、および熟練値(信者になる前に得たものも含む)の一部を獲得できる。信仰度に応じて、信者の経験値、熟練値の獲得量が上昇する。
+3になって追加されたのは「信仰度に応じて、信者の経験値、熟練値の獲得量が上昇する」という部分だ。
記述のままなので特に解説する必要はないだろう。
通常、経験値も熟練値も、成長すればするほど入りにくくなってしまうため、非常にありがたい効果だ。当然、信者の獲得した経験値や熟練値が多くなるということは、俺に入ってくる分も多くなるということである。
「東! 北星一刀流・免許皆伝、勘左衛門!」
おっ、どうやら第一試合が始まるようだな。
「西! 天元理心流・免許皆伝、彦兵衛!」
名前を呼ばれた二人の剣士たちが、東西の桟橋を通ってリングへと上がってきた。大歓声が湧き起こる。
「どっちが勝つかしら?」
「ん……名前は東の方がかっこいい」
ステータスを見ても、両者の実力はほぼ互角だった。
御前試合に出場するだけあって、二人ともかなりの実力者である。女王の娘である刀華には遠く及ばないが。
東洋剣術には幾つもの流派があるらしいが、どちらも〈東洋剣術+5〉となっていて、その違いはステータス上では分からない。ただ〈神眼〉スキルのお陰か、東の方は攻撃的な流派で、西の方は攻守にバランスのとれた流派であることが何となく分かった。
しかし、それだけではどちらが勝つかなんて分からない。
「東だな」
俺は適当に予想を口にした。
結果、勝ったのは東の方だった。
「ご主人様の予想通りだったのです!?」
「パパすごい。さすがなの」
いや、ただの勘だから。
試合内容はかなり接戦だった。
両者ともに血だらけになりながらも、最後は気迫でまさった東の勘左衛門氏が勝利をもぎ取った形だ。
一回戦から見ごたえのある試合に、観客は大いに興奮している。
貴賓席で試合を見ている女王も、途中、思わずといった様子で何度も椅子から立ち上がっていた。剣術が好きだというのは嘘偽りない事実なのだろう。
それから二回戦、三回戦と、白熱した試合が展開されていった。
なるほど。どうやら実力的にほぼ対等な相手同士を組み合わせているようだな。だからこそこれだけ盛り上がるのだ。
六回戦からは異国の剣士が出場し始めた。
流派があるとはいえ、これまでは同じ東洋剣術の使い手同士の戦い。しかし他国の剣士となると、まるで違う剣技を修めていたりする。
レイピアを携えた異国の剣士とジェパールの剣士の戦いは、同じ剣というカテゴリーの中にありながらも、異種格闘技と呼ぶに相応しい、これまでとはまた違った見ごたえの試合となった。
勝ったのはジェパールの剣士だったが。
「二刀流はいない?」
「少なくとも東洋剣術の主流の流派の中には、ファンのような二刀流はないようだな。他国の剣士にならいるかもしれないが……」
異国の剣士にも声援が飛んでいたし、観客は楽しんでいる様子だったので、別に東洋剣術以外の剣を否定している訳ではないのだろう。
二刀流のような変わった剣技を披露すれば、この国の人たちなら喜んでくれそうだ。
「わたくしの魔法剣はどうでしょうか」
「剣は剣でも、さすがに魔法剣はダメなんじゃないか?」
と思ったが、八回戦に魔法剣の使い手が登場した。
西の大帝国、フロアールで活躍しているAランクの冒険者らしい。
風を纏う剣だ。
振るえば暴風が発生するその剣に、ジェパールの剣士がかなり苦戦している。
だが風による殺傷力は低い。何度も吹き飛ばされながらも、ジェパールの剣士は勝負を諦めなかった。
魔法剣は当然、維持し続ければ魔力を消耗する。
徐々に風が弱まってきたところへ、ジェパールの剣士が逆襲に転じる。
だが相手もさるものだった。
その瞬間を読んでいたらしく、乾坤一擲のカウンター。
両者ともにダウンし、試合は引き分けとなった。
「いよいよこの次がレイジさんの出番ですね」
「ああ」
「相手が美少女だからと言って、手加減して負けては許しませんよ? レイジさんは我が国の代表なのですから」
「分かってるって」
……ん? ちょっと待て。
俺はさっきから誰と話をしてるんだ?
「何でディアナがここにいるんだよ!?」
「さて? ディアナとは誰のことでしょうか?」
そう白々しくとぼけてみせたのは、頭にスカーフを被って一応は変装をしたつもりらしいディアナだった。
「あんた、いつの間に交ざっていたのよ!? 道理でさっきから嫌なにおいがすると思ったら!」
アンジュが敵意を剥き出しにする。においで嗅ぎ取るとか、お前は犬か。
「ん。七回戦の途中くらいから、ディアナのにおいしてた」
と、ファン。
こっちは半分くらい本当に犬である。
ていうか、気づいていたなら教えてくれ。
「どうやってここに?」
「ロングテレポートです。この国に来たことがありますから」
どうやら時空魔法で飛んできたらしい。
しかしこことシルステルでは、結構な距離がある。かなり魔力を消耗したはずだし、難易度も高い。
「もちろん、大臣に許可は取ってます」
「ほんとだな? よし、今からテレポートで確認しに――」
「まま、待ってください!?」
ディアナは慌てて止めてきた。
こいつ、また無断で出てきやがったな。
「ち、違いますよ!? い、今ここでレイジさんが魔力を消耗しては、試合に差し障りがあると思っただけで……」
「どのみち魔法は使えないんだから関係ないだろ。さて、テレ――」
「試合を見たらすぐ帰りますから! あと大臣には黙っててください!」
縋るように泣き付いてくるディアナ。
こいつが女王で本当に大丈夫なのだろうか……国民からの人気はめちゃくちゃ高いんだが。
最初にギルドで会ったときや、エルメス第一王子だったときは、もうちょっと真面目な印象だったのだが、最近どんどん残念な面が露わになりつつある気がする。
そんなことをしていると、すでに第九試合は佳境に入ってきていた。
「勝者! 東、暗黒邪殺法流・失伝、獅龍!」
相手は異国の剣士だったが、今度もジェパールの剣士が勝利したようだ。これで異国の剣士に対し、ジェパールの剣士は三勝一分けだ。
「暗黒邪殺法流って……えらい中二病な流派だな。しかも失伝って、失われてんじゃねーの?」
まぁ深くは考えまい。
ちなみにその剣士は眼帯をした隻眼だった。
「いよいよご主人様の番なのです!」
「パパ、がんばってなの」
俺は仲間たちの声援を受けつつ、試合の舞台へ。
いよいよ最終試合とあって、観客のボルテージはピークに達しつつある。
「東! 刀華新神流、刀華!」
女王の娘、刀華の登場により津波のごとき大歓声が起こった。
「西! シルステル出身、Aランク冒険者、レイジ!」
俺の名も呼ばれる。
御前試合のトリを飾る最終試合。
舞台中央にて俺は刀華と向かい合った。
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