第10話 着飾り屋のノエル




 皆さん、こんにちわ。

 なんだか今朝はラーファ様がそわそわなさっています。


「あの、ラーファ様。今日はえらくご機嫌でいらっしゃいますね」

「えへへ。わかる?実はね、昨日の夜遅くに報せがあって、西の国に戦に出ていた隊が帰還するんだって。兄さんが帰ってくるんだ」

「まぁ!! それは大変喜ばしいです!」


 嬉しさのあまり、手を合わせた途端ぽぽんっと花が出てしまいました。お兄様がご帰還される事も勿論ですが、ラーファ様の嬉しそうなお顔を見ているとどんどんお花が溢れ出してきます。


「わぁっ、フルール! 花はもういいよ。あっはは。ありがとう、一緒に喜んでくれて! ってなんで泣いてるのさ。フルール? どうしたの?」

「すみません。なんだかすごく嬉しくて······。お兄様がご帰還される事も、ラーファ様がとても嬉しそうになさっているのも。祈りが通じたんですね。ご家族が揃うんですね。良かったです」

「フルールらしいね。ありがとう。でも水を差すようで悪いんだけど······僕には兄さんが2人いてね、帰ってくるのは2番目の兄さんなんだ。上の兄さんは結婚して今は南の国で暮らしてるんだ」

「そうでしたか。では、なかなかご家族が揃われるのは難しいのですね。······ですが何はともあれ! おめでたい事です。お兄様のご帰還のお祝いをしなくては」

「そうなんだ。それで、兄さんが帰る日にパーティを開くんだけど、フルールも来てくれるよね?」

「はい、喜んで!」

「それじゃ、そろそろ僕は学院に行ってくるね。またアズにグチグチ言われちゃかなわないからね」

「ふふ、行ってらっしゃいませ、お気をつけて。アズ様にも宜しくお伝えください」



 パーティ······ですか。色々と支度をしなければなりませんね。



「話は聞かせてもらったよ、フルール」

「そ、その声は······ノエル様」

「さてでは······、僕が君を飾りつけてあげよう!!」

「ノエル様、その······まだ日程も聞いていないのに······やめ······いやぁぁぁ······!!」



 ──数時間後──



「フルール〜、あれ? フルール······?」

「······ラーファ様。えっと······おかえり······なさいませ······」

「そんな隅っこでどうしたのさ、フルー······ル?」

「おーやおやおや、君がラーファ様かい? やぁ、初めまして。僕はノエル・ジュール。フルール嬢はこの通り、僕が飾りつけたよ。ごらん。麗しいフルール嬢を!」

「ノエル様おやめ下さい! こんな······恥ずかしいですっ! やだ!! ラーファ様見ないでください!」


 クルクルと巻かれた髪にきらびやかなティアラを乗せられ、胸元は大きく開き膝上までしかない丈のあかと黒いレースのドレス。太ももまであみ上げられたブーツに、ひじまである黒いレースの手袋。一言で申しますと、いやらしいです。ノエル様はこの様な着飾りしかなさいません。ご本人も、なかなかに奇抜きばつな格好をなさっています。

 ノエル様は普段、貴族のご婦人方の飾り付けをなさっています。が、私にまでこの様な······。何より、ラーファ様に見られるなんて······。


「フルール········その······何て言うか、凄く可愛いんだけど···ねぇ。ノエルさん。もう、やめてあげてください。それはいくらなんでも酷い。フルールには合わない。初対面で失礼ですが、怒りますよ」


「そーかい? 仕方ない。では戻そうか。えーいっ」


 パチンッ──


「きゃっ」

「あっ、戻った。いつものフルールだ」


 ラーファ様とてもにこやかに微笑まれましたが、私の心中は大荒れです。


「ラーファ様、どうかお忘れください。ノエル様は偶々たまたまパーティの話を聞かれていて······」

「それにしてもフルールにあんないやらしい格好をさせるなんて許せないよ。もう二度としないでくださいよ、ノエルさん」

「ごめんよ。フルールがあーまりに可愛いものでつい、ねぇ」


 ノエル様が私の髪に口付けようとした瞬間でした。


「それと、気安く触れるのもやめていただきたい」


 ラーファ様は私の肩を抱き寄せました。


「おぉっと、これは失礼。まぁまぁ、随分とご執心だね。今日はこれで帰るからそーんなに睨まないでおくれよ、ラーファくん」

「ラ、ラーファ様······どうかノエル様をお許しください。本当に悪い方ではないんです」

「はぁ······別に、フルールに悪戯いたずらしないんならいいんだよ。それではノエルさん、さようなら」


 ラーファ様、なんだかトゲトゲしてらっしゃいます······。


「はーい。さよーなら、お二人さん」

「あっ、はい。いつもありがとうございます。さようなら」

「で、彼何者なの?」

「ノエル様は貴族のご婦人方をパーティなどの時に着飾るお仕事をなされています。髪のセットやお化粧も全部お一人でされているんです。スキルもその関係のものだそうです。その際に、必ず私のお花を添えてくださるんです。なんでも、私の花には愛がこもっていると仰って」

「花に愛が、か。なんだかわかる気がするな。フルールの出す花はなんだか温かいんだ。······悪い人じゃないのはわかった。でもフルールにちょっかいを出すのは許せないよ」

「うふふ。ラーファ様は意外と嫉妬深いのですね。なんだか愛されている感じがして嬉しいです」

「んなっ、違······わないけど、なんかカッコ悪いじゃないか······」

「そんなことありませんよ、ふふっ。そうでした、ラーファ様。明日はお店がお休みですのでパーティ用のドレスを買いに行こうと思うのですが、お付き合いくださいませんか?」

「勿論いいよ。僕が選んでもいい?」

「はい、是非ともお願いいたします」

「じゃあ明日、お昼に迎えに来るね」

「はい、ではまた明日」


 ラーファ様は何度も振り返り手を振ってくださいました。私もラーファ様が見えなくなるまで手を振っていました。


「おアツいこったなぁ、娘よ」

「と、父さん······」

「いくら認めたとは言え、人目は気にしろよ。両家公認だつっても身分違いだからな」

「えぇ······わかってるわよ」


 確かに、少し浮かれすぎていたかもしれません。

 周囲にどう言われようが構いませんが、父さんに迷惑をかけたくはありません。落ち着かなくては······


「まぁ、何かあってもあの坊ちゃんなら守ってくれんだろうけどよ」

「父さん······。そうね、ラーファ様はいつだって守ってくださるわ。父さんも信じてくれているのね。ありがとう」

「そんなんじゃねぇよ。俺のフルールを物にしたんだ。守りきらねぇと承知しねぇ」

「物にって······。ラーファ様なら大丈夫よ」

「まぁ、なんにせよ明日は気ぃつけて行ってこい」

「はい。父さんは仕事、無理しないでよ。もう若くないんだから。腰痛むんでしょ? いくら力(スキル)が怪力だからって、無茶はしないでね」

「馬鹿言え。俺ぁまだまだ現役だよ。父さん舐めんなよ。俺の事は気にすんな。腰だって痛くねぇよ!」


 私は父さんの腰をバチーンと平手打ちしました。


「がっ······」

「痛いんでしょ。無茶はしないのよ」

「お前、そういう所は母さんそっくりだな······」

「あら、そう? 嬉しいわ」


 きっと父さんは、周囲からの心無い言葉など気にしないとは思いますが、やはり気持ちの良いことではありません。

 時々ラーファ様との交際を迷うことがあります。家族に迷惑をかけてまで自分の想いを優先させていいものか······。ですが、父さんはそんな私を察してかいつも茶化してくれます。

 父さんの気持ちを無下にしたくはありません。せっかくのラーファ様とデートなので、明日は目一杯楽しみたいと思います(*´︶`*)



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