第8話 シャルル家の茶会



 皆様こんにちは、緊急事態なフルールです。

 今日はシャルル家のお茶会にお招きいただいております。


 とても大きなお屋敷で、お手洗いをお借りしたのですが······。現在迷子になっております。大変です。皆さんに舞をお見せするお約束でしたのに。一刻も早く戻らなければ······。

 確か6つ目の扉だったはずなのですが、ここは物置部屋のようです。部屋の中は真っ暗なのですが、窓から差し込む日差しで何かがキラキラ光っています。あれはお花でしょうか。硝子細工の様で、物凄く綺麗です。少しだけ······もう少しだけ近くで見てみたいです。


「失礼しまー······す。まぁ······なんて綺麗なんでしょう」


 やはり硝子細工のようですが、見たことの無い種類のお花です。

 細部までこだわって作られていて、まるで本物のお花の様で······


「フル~ル〜。どこだーい?」


 ビクッ──


 いけません、夢中になっていました。ラーファ様が探してくださっているようです。


「は、はーい。ラーファ様······ここにおります」


 私は慌てて部屋を飛び出しました。


「フルール、見つかって良かった。迷っちゃった?」

「はい、お恥ずかしいです。お手洗いを出てから、6つ目の扉だと記憶して行った筈なのですが······」

「あ〜、反対側に来ちゃったんだ。トイレを出たら左に6つ目だね。フルールが来たのは右に6つ目だよ。ふふふ」

「そうだったんですね······。お待たせしてしまい申し訳ありません。それに勝手にお部屋に入ってしまって······」

「大丈夫だよ。無駄に広いからね、この家。僕も小さい頃よく迷子になったよ。あの部屋はただの保管庫だから気にしなくていいよ。ガラクタみたいなのばかり置いてあるだけだし」

「ガラクタだなんて。素敵な硝子細工のお花がありましたよ。そのお花を近くで見てみたくて無断で入ってしまいました······。すみません」

「そうだったの。気にしないでいいよ。さぁ、戻ろうか。皆、可愛い舞華姫ルルディネルの演舞を楽しみにしてるよ」

「そうですよねっ。急ぎましょう!」

「フルール、慌てると危ないよ。気をつけ······」

「きゃっ」


 絨毯カーペットつまずいてしまいました。しかし転んでいません。

 目を開くと、ラーファ様がふわっと受け止めてくださいました。


「ほーら、危ない」

「あ、ありがとうございます」

「フルールって、案外おっちょこちょいなんだね。そこもまた可愛いけど」

「父にもよく言われます」

「それではお姫様、お手をどうぞ」


 そう言ってラーファ様は私の手を握られました。


「ラーファ様さまは、······誰にでもこんな風にされるのですか?」


 ラーファ様が立ち止まり、振り返ったお顔は少し怒っているようでした。


「そんなわけないでしょ。こんな風にするのはフルールにだけだよ。そうだ、こないだの答え合わせをしようか」

「答え合わせ······ですか。あの後何度考えてみても、自惚うぬぼれた答えしか出なくて······。ですが、そんなはずはありませんのに」

「その答えって?」

「その······ラーファ様が、私に······えっと······ご好意······を······いえ、ですがそんな畏れ多い······」

「正解だよ」


 そう言いながらラーファ様は私の手首にキスをされました。


「ラーファ様······!! 何を······え? 本当に私を······?」


 よもや私に想いを寄せていただけるはずはありませんのに。


「好きだよ。僕は初めて会ったあの日、フルールに恋をしたんだ」

「そんな······嬉しいですが、畏れ多い事です」

「もしかして階級のせい? そんなの気にしないで、フルールの気持ちを聞かせてよ」


 いつものラーファ様らしからず、余裕の無い表情をされています。

 階級を無視して······そんな事が許されるのでしょうか。私はラーファ様の事を本当にお慕いしているのでしょうか。今までのラーファ様の言動を思い返し、顔が熱くなってしまうのは······


「私はラーファ様の事が······好き······なのだと思います」

「······ホントに?」

「わっ、わかりません!! こんな事初めてで······」


 頭がいっぱいで泣いてしまいそうです。


「落ち着いて、フルール」


 ラーファ様は優しく抱きしめてくださいました。


「ゆっくりでいいから。無理に僕の気持ちに答えなくていいから、フルールの気持ちを聞かせてよ」

「私の······気持ち······は、初めてお会いした時は弟を慰めるように思っておりましたのに、その後お会いした時は別人のようで、まるで兄のように思っておりました。ですが、ラーファ様が私を大事だとか特別だとか仰るから、わけがわからなくなってしまいました。ラーファ様は上級貴族であられます。ですが、もしもラーファ様が私を好いてくださっていたらと思った時に、自分自身の想いにも気付いてしまいました。私も······ラーファ様をお慕いしております」

「やった······嬉しいな。本当に、嬉しい······」



 バァァァン──



 突然扉が開いたので驚き見ると、ラーファ様のご両親と執事さんとメイドの方々が号泣されていました。えっと······状況がわかりません。


「父様、母様! まさか聞いて······!?」

「ごめんなさいね。私たちも扉の向こうでドキドキしながら聞いていましたの。こんなに早くうちにお嫁さんが来てくれるなんて······」

「ラーファよ、お前は良い目をしておると思っておったよ。こんなに素敵なお嬢さんを見初めるとは」

『ラーファ様、おめでとうございます』


 執事さんやメイドさん達まで······。



「ラーファ様······これは······」

「ごめんね、フルール。僕ん家みんなこんな感じなんだよ······」

「うふふ、素敵なご家族ですわ。ですが、お嫁さんというのは些か早すぎるような······」

「何を言っているの、フルールちゃん。想い合っているなら、あなたはれっきとしたお嫁さん候補よ。むしろもうお嫁さんね」

「そうだよ、フルールちゃん。いつでもお嫁に来てくれて構わないんだよ。私たちは歓迎するよ」


 いつの間にかフルールから、フルールに変わっていました。


「あ、ありがとうございます。身に余る光栄です。えっと······ゆっくりになってしまうとは思いますが、ラーファ様と共に歩んでいけたらと思います」

「おめでとう、ラーファ。フルールちゃんを大事になさいね」

「父様も母様も気が早いよ。フルールも乗らないで······。お嫁さんにはしたいけど、何よりフルールの気持ちが大事だからね。もうっ! さぁ、舞華姫ルルディネル、あちらで舞をお願いします!」

「そうでした。今からで良ろしければ、披露させていただきます」

「勿論お願いするわ。ね、旦那様ダーリン

「あぁ、早く見せておくれ」

「はい、喜んで!」



 私はシャルル家の皆様に感謝の気持ち込め、全身全霊の演舞を披露致しました。沢山のお花も皆様に喜んでいただけたようで一安心です。

 なんだかハプニングが沢山ありましたが、とても良いお茶会でした(*´︶`*)




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