第27話 三人は見事に分断されて

 校内放送のチャイムが鳴った。


『二年五組、坂本めぐみさん。至急、化学準備室へ来てください』


 呼び出しの放送だ。


「え……」

「なんで化学準備室? 次、化学だったっけ?」

「いえ……」


 めぐみは少し考えて、美幸に言った。


「私が戻ってきてから、六階に行きましょう。教室ならばまだ人の目がありますから、大変なことにはならないでしょうし……待っていてください」

「うん、そうね」


 めぐみは教室を出た。

 美幸は、仕方ないかあ、という顔で、弁当を食べ始めた。



 めぐみは化学準備室前にやってきていた。

 トントンとノックしてから、扉を開く。


「失礼します。二年五組、坂本めぐみです――――」


 場所が場所だけに、丁寧に名乗って足を踏み入れる。

 しかし、彼女は自分の礼儀正しさを、この時ばかりは呪った。

 瞬間のことだった。

 めぐみの背中で、ダン! という音と、次いでカチャカチャという鍵の音がした。


「!?」


 めぐみは思わず振り向いた。たった今自分が開けたばかりの扉が閉められている。

 中からの鍵を開けようと、彼女が手を伸ばしたとき――――

 ビシュッという音とともに、めぐみの左手に細いものが絡みつく。


「鞭…………!?」


 ならばと右手で鍵を開けようとしたが、強い引力に身体が逆らえない。

 めぐみの身体は一瞬浮いて、部屋の中に転がった。


「……っう……」

「逃がさないわよ」


 笑みとともに現れたのは、陣内里佳……!!


 めぐみは倒れたまま里佳を見上げた。


「な……にを、なさるんです……」

「誠一様のご命令だもーん。五組の坂本とテキトーに戦っとけってね。それと、確かめろ……って」

「――――何の――――」


 里佳はくすくすと笑ったまま、突然めぐみの上に馬乗りになった。

 めぐみの頭の上で、両腕が固定される。


「動いちゃだめよ。もっとも、動いたって無駄だろうけど」


 仰向けの状態で両腕まで固定されためぐみは、動けないながらもじたばたともがいてみるが、身体は自由にならなかった。


「うっ……ぐ……」


 里佳の手がめぐみの腕に伸び、素早くシャツの袖がまくられる。

 めぐみの左腕があらわになった。


「あ……っ……!」

「みーつけたぁ……」


 にーい、と嫌な笑みを見せる里佳。

 めぐみの左腕には、先日藤山にやられた時の傷が、まだ治りきらないまま、残っていた。


「腕に傷があれば坂本はレディース仮面。誠一様のおっしゃる通りだったわね、坂本めぐみ?」


 めぐみはもう一度もがいた。

 せめて腕だけでも自由になれば!

 だが、里佳が動く気配はない。


「羨ましいわ。誠一様にこんな傷をつけていただくなんて……」


 さすさすとめぐみの傷をなでながら恍惚とした表情を見せる里佳に、めぐみはゾッとする。


「やめてくださいっ……違います、これは自分でっ……」


 もがきながらめぐみは必死になって言い訳を考えていた。


「あたしね、嘘は嫌いなの。島田くらいならごまかせたかもだけど、この傷からは誠一様の匂いがするわ――」


 れろり、と里佳はめぐみの傷を舐めた。


「っ……」


 怖気がめぐみの全身を支配する。


「こーんな陰キャがレディース仮面だったなんて、意外だったわ。でも、いい隠れ蓑ねぇ?」


 この状況をどうにかしなくてはいけない。

 めぐみは脱出のためになおももがこうとした。

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