第26話 計画は静かに始まってゆく

「誠一様っ!」

「騒ぎ声が廊下まで響いていたぞ、里佳」

「あらいやだ、お恥ずかしい……それよりも! なんでもう【花嫁】が決まったんですか!?」


 藤山は椅子にかけ、冷静に言う。


「早急に決める必要があったからだ。それ以外に理由はない」

「でも、あたしにも権利はあります! なにしろ二十年前の【花嫁】の娘ですからね! 今回の【花嫁】は誠一様の【花嫁】でもあると聞いています! なら、このあたしが!」

「……二度言わせる気か……」


 藤山の眼がギラッと光った。

 里佳はもとより、島田も、一瞬畏怖を覚える。


「……いいえ……」

「俺はな」


 藤山は立ち上がって里佳に近づき、彼女の顎をくいと上げた。


「お前には【花嫁】とは違う立場で俺の側にいてもらいたいと思っている……」


 里佳はさっと顔を赤らめ、どきどきと藤山を見つめる。


「え……」

「いつも言っているだろう。俺は強い者が好きだ、とな」

「はいっ……」

「言っておくが、【花嫁】に手を出すことはまかりならん。しかるべき時が来たら俺が指示をする。それまでは駒を増やすことに専念しろ、いいな」

「か……かしこまりましたっ、誠一様っ」


 里佳はどきどきとしたまま、元気よく返事をした。

 すっかり機嫌をよくして生徒会室を出てゆく彼女の背中を見送り、島田は誰に言うともなくつぶやく。


「陣内の言うとおりだが……それでよかったのか」

「何のことだ」


 藤山も島田を見ないでひとりごとのようにつぶやく。


「……どこの馬の骨とも知れない女を【花嫁】に……」

「知れているさ。彼女はレディース仮面とつながりがあるようだ」

「何!?」

「うまく使えば、レディース仮面もレディースクイーンも、こちらに引き寄せられる……」


 それを聞いて、島田はくっく、と笑った。


「やるじゃないか藤山。俺たちの勝利は約束されたようなものだな」

「そうするさ、会長殿」



 それからのめぐみは大忙しだった。

 昼休みは理事長室で美幸と一緒に弁当を食べ、レディース仮面として戦い、急いで教室に戻る。

 放課後はまたこれで美幸とともに大急ぎで理事長室へ向かい、レディース仮面として戦い、落ち着けば帰る――――

 有吉もサポートしているが、さすがに守る者が身近にいるという経験がなかっためぐみにとっては未知のことだった。

 それでも先日のように体調を崩すというようなことはなかったので、それだけは美幸もホッとしているのだった。


「気を抜けばどこでやられるかわかりませんから」


 最近のめぐみの口癖だ。

 だが、たとえ気を抜かなかったとしても、襲うものは襲うのだ、ということを、めぐみはもう少し、学んでおくべきだったかもしれなかった。



 その日はいつも通りに始まった。

 四限目には担当授業がなかったらしく、一足早く騒ぎ出したヤンキーどもを片づけるために有吉が出動していた。

 だが――

 四限目が終わると同時に、有吉から連絡が入る。


『今日、なんかおかしいっ! ヤンキーどもが倒しても倒してもきりなくって! 来れたら早く来て!』

「わかりました――」


 めぐみはそれだけを言って電話を切る。


「すぐ六階へ行きましょう」


 美幸に向き直ってそう言った時だった。

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