第13話 状況はおかしなことになっていく
そうしていつの間にか、二人は美幸の家の前まで来ていた。
「体調がどうなるかはわからないけど、できるだけ早めに学校にやるようにするわ」
「そんな、無理させないでください。ただでさえ毎日あんなに戦って……」
「私のころに比べたらぬるいもんよ」
順はそう言ってあははと笑う。
さっきの【経験者】の言葉といい、この人もかつて【戦った】ことがあるのかもしれない、と美幸は思った。
なるほどめぐみがレディース仮面になるのに反対しなかったわけである。
この婦人の陽気さに美幸も少し笑いながら、明るく別れた。
月が、高く出ていた。
ひとり家に帰る順は、ついと立ち止まって思案する。
「ニセモノが……ねぇ……」
翌日もめぐみは休みであった。
まだ体調が本調子でないのだと美幸は思う。
しかし、そうすればあのニセモノがまた――――
ため息をついて席を外した時だった。
廊下がなんだか騒がしい。
「…………?」
また新聞部の号外だろうか。
美幸はざわざわとする人の山に入っていった。
掲示板に、新しい新聞が貼られていた。
『レディース仮面、悪に加担!!』
『一般生徒をボコボコに!! ヤンキーを増やすつもりと豪語』
「ちょっ……なによコレっ!!」
美幸は頭がカーッとした。
賢が近くにいないかと探すが、彼は見当たらない。
「新聞部! ちょっと、新聞部はいないのっ!」
大声をあげるが、やはり、賢は出てこない。
何かおかしい、と感じた美幸だったが、授業がすぐ始まることもあって、教室へ戻らざるをえなかった。
「はい、授業――――」
この授業は担任の有吉が受け持つ英語だった。
いつもなら彼女は陽気に教室へ入ってきて、すぐ授業が始まるのだが、この日は何かがおかしかった。
「あれ……?」
有吉は焦点の定まらない瞳で、ぼんやりと授業を進めている。
いつも授業を受けてきた美幸だからこそわかる。
覇気がない。
「先生……何かあったのかな……?」
終始ぼんやりした感じの授業がぼんやりなまま終わり、賢は捕まらないしで美幸がモヤモヤとしていた放課後――
「ここにいた――――!!」
「新聞部――――ッ!!」
賢が美幸の教室に飛び込んだ。
聞けば美幸が何組なのか知らなかったため、しらみつぶしに捜したのだという。
「あのっ、きょうの新聞のことなんですけど――」
「あれどういうことよ! あんなニセモノ載っけるなんて、新聞部も地に落ちたわね!」
「違うんですっ」
賢が大声で否定する。
「違うって何が違うのよ?」
「あの記事を書いたのは先輩なんです! 僕、写真見て一目であれはレディース仮面じゃないってわかりました、だけど先輩が……」
「そういうこと……」
「それに……気になることがあって」
賢は美幸を廊下に連れ出した。
「先輩がこの記事書く前に、新聞部に内線電話があったんです。レディース仮面が中庭に現れるっていうタレコミの電話でした」
中庭。
昨日、ニセモノが一般生徒をボコボコにしていた場所である。
「今までそんな電話なんかかかったことなくて、でも先輩が現場に行ったらニセモノがいて――先輩はスクープだって喜ぶし……僕どうしたらいいのか……」
賢の瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちる。
美幸ははっきりと、一連の騒動がヤンキーどもの仕業であることを確信した。
許せない。
許せないが、どうしたらいいのか――
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