第11話 運命の瞬間は突然に訪れる

 翌日、案の定というかなんというか、めぐみは学校を休んだ。

 熱が下がりきらないらしかった。

 美幸は昼休み、理事長室に行ってみた。


「めぐみちゃんは基本丈夫なんだが、何年かに一度くらいひどい風邪をひくときがあってね。たぶん今年は当たり年なんだね」

「あのう……お見舞いに行っても、いいですか?」

「いいとも。家までの地図をあげよう」


 理事長から地図をもらい、美幸は放課後、めぐみの家に行くことにした。

 学校を出て校門まで歩くうち、生徒の悲鳴が聞こえた。


「あっ……」


 ヤンキーどもに襲われているに違いない。

 しかし今はめぐみもいないし、なにより美幸ひとりではどうすることもできない。

 その時だった。

 悲鳴ではない、別な声が美幸の耳に届いた。


「レディース仮面、参上!」

「ええっ!?」


 そんな馬鹿な!!

 美幸は声のしたほうへ、急いで走っていった。

 現場では、一般生徒が叩きのめされているところだった。

 それも、レディース仮面らしき人物に。

 美幸は建物の影からそれを目の当たりにして、顔をしかめる。


「違う……!!」


 見た目こそレディース仮面に似せようとしてはいるが、その人物はカラーリングも格好も行動も、何もかも本人とは似ても似つかなかった。


「ほう、違う? 何が違うのだ?」

「レディース仮面はあんなんじゃない、あれはニセモノだわ――――え?」


 背後の人物と会話していることに、今更気がつく。

 美幸は慌てて振り返った。

 そこにいたのは藤山だった。眼鏡をゆっくりと外しながら、美幸に近づく。


「あのレディース仮面がニセモノだと断言したな。お前は何を知っている」

「べ……別に何も? 何回か、助けてもらって、格好なんか覚えてただけよ」

「ほーう……」


 美幸は後ずさりし始めた。

 これ以上ここにいる理由はないし、いればいたできっとマズいことになる。

 それよりも早くめぐみのところへ行って、今見たことを話さなくては。

 駆けだそうとした美幸の腕を藤山がつかんで引き寄せる。


「二年か……クラスと名前は!?」

「言うもんですかっ!」


 噛みつくようにそう言った美幸の表情を見た藤山は――ほんの一瞬だった、胸の高鳴りを覚えた。


「!?」


 鼓動が早くなる。

 自分の心臓が、きゅうと縮む音がした。

 藤山は思わず美幸の腕をつかんでいた手を放す。

 美幸はそのまま駆け出した。


「あっ……!」


 ひるがえった短めのスカートを目で追いながら、藤山はそれ以上の行動に出なかった。


「馬鹿な……この俺が……」


 行き場を失った指が胸のシャツをかきむしる。

 彼はひとり、無理矢理に気を取り直すと、生徒会室に向かった。



 走りながら校門を出た美幸は、ひと落ち着きしたあと、地図を見ながらめぐみの家に向かった。


「ここ……かな?」


 表札には【坂本】と書かれている。

 だがインターホンが見当たらなかったので、美幸は直接ガラスの引き戸を開けた。


「ごめんくださいー」

「はぁあい」


 明るい声が家の奥からする。

 エプロンを着た女性が玄関先に出てきた。


「あの、あのう……わたし、三原中川学院で、坂本さんと――――」


 美幸がそこまで言った時だった。


「まああぁぁああ! めぐみのお友達!? もしかして!?」

「えっ、あの、まあわたしはそのつもりなんですけど、」

「上がって上がって! めぐみのお見舞いに来てくれたのね、まー嬉しいわぁ、何出しましょ! めぐみーぃ、お友達よー!」


 女性は一気に話してしまうとバタバタとまた奥に消えた。

 ひとり取り残された美幸がぽかんとしていると、しばらくしてゆっくりとしたスリッパの音がする。


「……岡部さん……なんでここが? ……」


 めぐみだった。ふらふらとした感じはないが、まだあまり体調は良くなさそうだった。


「坂本さん! 理事長先生に場所、教えてもらって……」


 ああそういうこと……とめぐみはつぶやくと、ここで帰れとも言いづらかったのだろう、美幸を上がらせると、自分の部屋に招いた。

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