百合の花 ー8ー
A(依已)
第1話
わたしは、ひとしきりの荷物で肩をたわませるほどズッシリとした大きな鞄を、よっこらせといった具合に、重そうに抱えた。まだ開店間際すぎて、客もまばらな小さな本屋に、そのまま入っていった。
店員は、あまりの荷物の多さの客に度肝を抜かれたのか、少々いぶかしげに、こちらをジロジロと凝視している。
わたしは、そんな店員の視線になどいっこうにお構いなしに、一目散に旅行コーナーの前に立ち止まった。鞄を足元に、無造作に放かった。"ドサッ"っという鈍い音が、シンとした店内に響きわたった。"世界旅行"と題された本を、手にとった。
そして目を閉じ、スーーーッ、フーーーッとひとつ、大きな深呼吸をした。
店員は、ますますこの客は怪しげだといわんばかりに、わたしの一連の行動に、釘づけになっている。
目を閉じたまま、本の適当なページを、感覚の赴くままに開いた。
それは、中国の奥地の、綺麗な民族衣装をまとった女性達が写っている、写真のページだった。
「よし、ここだ!」
わたしはそうひと言発すると、何も買わずに本屋を飛び出した。店員達は、収益どうのこうのということよりも、わたしの不審な行動に対し、とても呆気にとられているようである。
わたしはその足で、そのまま早速空港へと向かった。
百合の花 ー8ー A(依已) @yuka-aei
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