第9話 知らない事を知りたいのは僕もだ
動き出す前に自制するか、動いてみて様子をみるか。それを迫られている。
疲れている脳は楽な方に結論を傾けようとする。守るべきものが約束なのか、座右の銘なのか。他人のことか自分のことなのかハッキリとさせればいいのだけれど。
なぜ小野寺さんの嘘を許容するのか。それは自分の中で結論は出ているんだ。
彼女は初めて、僕の中に入り込んで来た人だ。
それを突っぱねるほど僕は人に対して無関心ではないし、下手すると人に騙されやすいところがあるかもしれない。それは十分にあり得る。
小野寺さんが可愛いから・・・それも理由だ。もう、多分恐らく僕は小野寺さんに興味を持ってしまった。
彼女なぜ、こんな出鱈目な関係を作りたいのだろうか、と。
それを知るまでは、僕は小野寺さんを拒否することができない。
でもさぁ・・・
「勝手だよなぁ」
「ああ、すまん。勝手なのはわかってる。色恋沙汰は自分勝手の極地だよな。俺が北村を巻き込んでまでやることもそうだ」
「みんな、自分勝手だよ。こっちはまだ、何も決めてないのに。様子を見たくて、相手の出方を見たくて行動してないわけでもないのに・・・小野寺さんといい近藤くんといい・・・」
「北村は結果的に巻き込まれているんだが、俺が言うのもなんだが、おまえは誘いやすいぞ。無害っぽいしな。まるで、女性経験が無いように見える」
「それは・・・へこむなぁ。でも言ってくれてありがとう」
こうして話してみないと人からの印象ってわからないことが多いんだよね。面と向かって言ってくれる人も少ないよ。
人の会話はどこが地雷でいつ爆発するかわからないところがある。容姿、性格、振る舞いなど、それを個性と認めて相手が傷つかないようにしてきた。だから、僕は無害ではあったんだけど、代わりに自分が人からどう見えるかは聞けないでいた。
「優しい雰囲気がある」
そんなことを中学時代、女子に一度だけ言われたもんだから、真に受けた。自分が優しいだけじゃダメとか優しいだけでみんな幸せになるとか、そんなことを夜中に永延と考えながら結局答えは出ず、だからと言ってどんな僕をみんなが求めているかもわからないんだ。
ついでにみんなってどこのみんなだろうと。優しくしたり許容したりする線引きをどこまでしようかと悩んだりもした。でも、結局わからない。誰にも聞けなかったから。家族以外の人に何かを求められたことは無かったし。
「北村。おまえさぁ・・・」
話すとボロが出るから、僕は口をつぐむことしかできない。
こうしている間にも、近藤くんは僕を値踏みするからね。口は災いの元。口は硬い方がいい。あまり、ぺらぺらと自分のことを話さないほうがいいんだ。僕と話してみて興味を失くしてくれるならそれまでだから。
だから、僕は僕の直感に従って、この場を乗り切る。これが、僕が変わることができるチャンスだ。
「近藤くん。わかったよ。恋のキューピット部、一緒にやろう?」
「ほんとか!?」
「僕が付き合った経験あるのに、君なんかと一緒にされて心外だよ」
「急に毒吐きはじめたな!?」
「僕は小野寺さんから見た評価でしか、自分がわからない」
結局、僕は自分自身を評価する術を何も持ってない。それはやんわりと伝えることができる。そしてーーー
「君と同じく、童貞ではあるからさ。それが言いたいんだよね?」
「そう、それだ。童貞臭だ。それが言いたかったわ!」
童貞という言葉が教室に響き渡る。もう、取り繕うのはやめたよ。
小野寺さん。無害そうだから、僕を選んだの?童貞だから?
よくわからないことが多い。ただ、近藤くんにできるだけ嘘をつかないで過ごすことができそう。
つ、疲れた・・・。
「よし、あとは任せろ!今日中に部を立ち上げてやっからよ!」
緊張が幾分解けて、僕はもう机に倒れ伏すしかなかった。あとは近藤くんのやる気次第だろうなぁ。
普通の恋愛ができないなら、キューピットをやってみよう。
そうすれば、小野寺さんのこともわかるかもしれない。
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