第5話 電話が来た

夜、小野寺さんから連絡が来た。


急に画面に『小野寺さん』と出て、自分の部屋の椅子でちょっと背筋が伸びた。


「こんばんは、北村くん。今、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ」


「今日はごめんなさい。恋絵ちゃんが、迷惑かけたみたいで」


「ああ、うん。兵藤さんね。小野寺さんと友達だったとは知らなかったよ」


「ちゃんと、わたしのこと、元カノって言ってくれて、ありがとうございます」


「ねぇ、小野寺さん、僕さ・・・」


「わたしにできることがあれば、何でもします。キスでも、エッチなことでも、なんでも」


「あのさ、もう、やめない?僕の見通しが悪かったこともあるんだけど、初日の半日だけで、疲れたよ」


「疲れたなら、マッサージとか、どうですか?屋上で、させていただきます」


この関係に、僕にとってのメリットは・・・あったな。兵藤さんと喋れたことだ。それは、多分小野寺さんとの約束があったからできたこと。


「そういうのは、いいよ。別れたカップルがすることじゃないでしょ?誰が見てるか、わからないじゃないか。噂になったら、どうするの?」


「わたしは、別に北村くんと一緒にいることが噂になってもいいんです。北村くんは、どうですか?」


「僕は、普通の恋愛がしたい。いや、違うな。そこまで望んでない。嘘をつかない生活がしたい」


「それは・・・やっぱり、元カノじゃあ、ダメですか?」


「でも、もう言ってしまったからね。小野寺さんにも、周りにも。だから、これからはできるだけ嘘をつかないようにしたいんだ。だから、小野寺さんとは、会いたくない」


「ええっ!?ちょっと、待ってください。わたしの考えに、賛成してくれたんじゃないんですか?北村くんだって、傷つきたくないから、この関係を選んでくれたんじゃ、ないんですか?」


そうだ。僕は小野寺さんの気持ちを理解できた。だけど、理解できたからこそ、僕たちのやってることが矛盾に満ちていて、誰からも理解されないことも、知った。


「僕のこと、どう思ってるの?話は、それからだよ?」


「だから、元カレとして、好きで・・・」


「君の都合の良い元カレになりたくない」


「な、なんで?どうしてですか?わたし、結構モテるんですよ?こんな元カノがいたら、嬉しいんじゃないですか」


「じゃあ、言うよ。僕と付き合って。付き合ってくれないなら、それでいいから。付き合ったことに、していいから」


「それは、できません。わたしには、別れるかもしれない恐怖のほうが、ほんとに、ほんとに嫌なんです」


「だから、何で僕なんだよ!」


「好き、なんですよぉ?実は、中学の時から、わたしはあなたのこと、知ってて・・・」


「えっ?」


「だから、好きです。北村くんのことが、好きです。わたしが、悪いんです。勇気を出せなくて、ごめんなさい。振られる勇気も、付き合う勇気もないわたしを、笑ってください」


急に好きだと言われても、その言葉を理解するまでに時間がかかった。


だって、この話は無かったことにしようって言おうと思っていたから。


だけど、小野寺さんが、やっと打ち明けてくれた。ちゃんと、好きって、言ってくれた。

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