第3話 それは嘘をつくってこと
教室に戻って、自分の席の机に頭が落ちていく。
食べ損ねたお昼とか、どうでも良かった。ただ、寝たい。脳が休みを欲しているに、前の席に座ってる悪友が、それを許さない。
顔を上げればすぐそこにいる十文字は、こんな時でも絶対に話しかけてくるやつだった。
「北村ー!どこ行ってたんだ?」
「ちょっと、屋上に行ってた・・・」
「珍しすぎる。屋上っていえば、告白っしょ?誰かに告白したのか?」
「しないよー」
めんどくさいから、早く会話を終わらせたい。でも、こいつはお構いなしに聞いてくる。
「ってことは、告白されたんだよな?誰に?」
疲れてるから、正直に話してしまいたくなってしまう。元カノにしてくださいって言われたところから、全部。
でももう、それはできないんだ。小野寺さんと約束してしまったじゃないか。
これって、嘘をつくことになるってことだよね?
僕はそんなに器用じゃないから、いつかボロが出てしまうかもしれない。でも、約束した以上は、やるしかないんだ。
「実は、小野寺さんと、話をしてた」
「小野寺って、隣のクラスの美少女の、小野寺澪(れい)!?」
ああ、確かそんな名前だった気がする。
というか、名前も良く知らないのに元カノだなんて、笑っちゃいそう。これは、気が抜けないなぁ。一応本人確認のために、探りをいれておこう。
「そうそう。銀髪で、ツインテールで、胸がでかい、あの子」
「やっぱりそうだ!絶対、北村は告白してたんだろ?」
良かった、合ってた。違う小野寺さんだったら、大変なことになっちゃうからね。
まぁ、あんなに可愛いなら、よく告白されそう。僕が小野寺さんに告白してしまう、と十文字が勘違いするのもわかるよ。
これは、早々に試練が来たみたいだ。口に出せば、戻れない。でも、約束したんだ。
嘘をつこうとするのって、こんなにしんどいんだね?
「違うって。小野寺は元カノで、ちょっと近況を話してただけだよ」
「小野寺澪が、元カノ!?」
教室がしん、と静まり返った。みんなに聞こえてしまったみたいだ。十文字の声、デカすぎなんだよ。
もう、怒る気にもなれやしない。疲れた、寝よう。
「ちょっと、その話をくわしくっ!」
「大声でバラすやつに、これ以上話すことはないよ」
「ごめんって!ねぇ、北村様!?起きて!起きてっ!」
うるさいなぁ。もういいじゃん。僕の役目は果たした。あとは、噂がめぐりめぐって、小野寺さんを助けてくれるはずだ。
あれ?別に今言わなくたって、良かった気がするぞ?
そもそも、みんなに知らせる必要、あったかな?
ま、いいか。後は野となれ山となれ〜。
ーーーーーー
僕の中学時代を知ってるやつは、十文字しかいない。だから、十文字さえ攻略できれば、小野寺さんと付き合っていたという過去形に染めやすくなる。
それは、この嘘を突き通すために必要なことなんだ。
「あの、北村様?話を・・・」
十文字が諦めずに、僕にしつこく聞いてくる。
クラスにいる他の人の視線も、たくさん感じるようになってしまった。小野寺さん、人気あるんだね。
「本人に聞いたらいいじゃん。僕からは言わないよ?」
「北村が小野寺を紹介してくれよ」
「元カノ紹介するわけないだろ」
え?普通元カノって、大体仲良くしてるのは稀で、紹介するなんて、もってのほかでしょ?
「だよなぁ、ゴメン。俺、勇気出して今度話しかけてみるわ」
「がんばれー」
めんどくさくなったら、小野寺さんに投げるようにしよう。だって、あの子から言ってきたことだし。事前に打ち合わせてないから、僕からは何も言えない。作り話なんて、これ以上はしたくないからね。
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